第61話 四階層 → 新スキル
いままでと同じように、ボス部屋の奥にあった下り階段を下りると、そこはいままでとは雰囲気が変わっていた。
三階層まではいかにも洞窟っぽい感じだったのに四階層は石壁の通路みたいになったんだ。ダンジョンていうのは不思議な場所だってことは父さんから聞いていたけど、本当におかしな場所みたい。
「うわぁ……なんかすごいね、りゅーちゃん」
階段を下りたリミが感嘆の声をあげている。なんとなく洞窟は陰気な雰囲気があるから、小奇麗な通路に変わると開放感があるのかもね。
「あの……すいませんリューマ様」
「ん、どうかした? シルフィ」
続いて四階層に降りてきたシルフィが周囲を見回したあとに、困った顔で声をかけてくる。トイレかな?
「すいません! ここでは土の精霊たちの声が聞こえなくて魔法が使えません」
「え? ……あぁ! そっか、ここは自然の土そのものの壁じゃないってことかな」
『だろうな、いわば石造りの家の中にいるようなもんなんじゃねぇか? だから自然の中に住む精霊なんかは出てこれないってわけだ』
タツマも僕の推測と同じ考えみたいだ。土の精霊魔法が使えないとなると、三階層のボス戦のような後衛を檻で守って戦うような作戦はできないから、戦い方は考えなきゃならないかな。
って! 気が付いたらシルフィがずっと頭を下げっぱなしだし!
「ああ! シルフィ、そんなの謝ることじゃないから頭を上げてよ。ここはどうやら自然な壁じゃないから土の精霊が出てこられないだけみたいだよ。シルフィが悪いわけじゃないから」
「……はい、申し訳ありません」
「だから謝らなくていいよ。みんながみんな、やれることを一生懸命やることが大事なんだから。できないことを嘆くよりもやれることを探そうよ」
「……はい!」
シルフィが顔を上げて笑顔を見せてくれる。さすが母さんの言葉だよね、受け売りだったけど説得力がある。
「ちょっと試したいことがあるからふたりとも待っててくれる?」
「はーい」「承知しました」
さて、じゃあ動き始める前にさっき交換した【音波探知3】を試してみよう。頭の中でスキルの発動を念じて耳を澄ませる………………あれ? なにも聞こえないぞ。
『リューマ、そうじゃない。そいつは音の波を探知するスキルなんだ。音のないところじゃ意味がないぜ! ……そうだな、そのままスキルを発動しながら指を鳴らしてみろ』
知識としては僕の中にもあるけど、音が波とか言われてもイメージができなくてよくわからない。ここはタツマの言うとおりに試してみるしかない。
目を閉じてスキルを発動してから、右手の親指と中指を使ってパチンと音を鳴らしてみる。
「おぉ! うわ! っと、あぐ……」
「りゅーちゃん? どうしたの、大丈夫!」
「リューマ様!」
「うわっ! ……ぐ、ごめん。ふたりともあとで説明するから音をたてないようにしてくれる?」
これは……しんどいや。音の発生源から確かに水面の波紋のようになにかが広がっていく。広がった波は壁や僕、リミやシルフィにぶつかって跳ね返ってくる。それが横方向だけじゃなくて全方位に向かって広がる、跳ね返る。その波の全てをこのスキルは詳細に拾ってくるからたまらないんだ。
『どうだ? なんかわかるか?』
『これはしんどいね……頭がガンガンする。このスキルが死にスキル扱いされているのがよくわかるよ』
タツマとの会話はやろうと思えば声を出さずにできるので、いまはとてもありがたい。
『いまお前がどんなふうに感じているのかは俺にはわからねぇが、それを使いこなせばかなりでかいと思うぜ。俺の知識の中に深い水の中を動く船があるだろ?』
『え? ……ああ、うん。潜水艦っていうやつだね』
『そうだ。水の中は深いとこまで行くと真っ暗になるし、水圧ってやつのせいで窓も作れないらしい。そんな船がどうやって周りの状況を知ると思う?』
『……まさか、それが音?』
『確かそうだったと思うぜ。発信した音波が跳ね返って戻ってくるまでの時間差でどこにどんな形のものがあるかを調べられるってわけだ。まあその作業は本来は器械がやるもんなんだろうが……この世界ならスキルがそのヘンをカバーしてくれる可能性はあるだろ。これからはなるべくそのイメージを持ってどんどんスキルを使っていけよ』
確かにタツマが教えてくれたみたいな使い方ができれば、疑似的に【気配探知】のような使い方ができるかも知れない。こっちから音を立てなきゃいけないっていうリスクはあるけど、結構小さな音でも波は遠くまで届くみたいだからうまく使えば有意義に使えるかも。
周囲の波が治まったのでもう一度指ぱっちんをしてみる。……もう一度…………もう一回。
…………ああ、なるほど。わかるかも……一番近いところで僕にぶつかった音が戻って、床、壁、天井、リミ、シルフィ……おぼろげながら周囲の状況がわかる。これなら慣れれば精度を上げられるかも知れない。
ただ、こんなに早く見込みが立つのはスキルレベルの高さと、タツマの知識のイメージがあるからなんだろうな。そう思いながら一度スキルを切って目を開けると、ふらりとよろめく。やっぱりいまは負担が大きいか……ちょっとずつ慣らしていくしかないかな。
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