第60話 三階層 → ボス戦

「よし、そろそろいこう。みんな作戦どおりよろしくね」

「任せといて!」

「はい」


 翌日、いつもと同じようにダンジョンに入った僕たちはまっすぐに三階層のボス部屋を目指した。三階層までは探索を終えているから最短距離も把握済みなので、戦闘回数も最小限でいける。一階層、二階層のボスも最初より劣化しているので僕たちの敵じゃない。さくっとやっつけて、順調に三階層のボス部屋前までたどり着けた。

 いまはボス部屋突入前の休憩タイム。あえて疲れた状態で挑むことはないもんね。


 三階層のボスは羽を広げると、僕が手を広げたのと同じくらいの大きさになるギガバットという魔物。このダンジョンの傾向としてボス部屋ではボスの他に多数の魔物が現れるから、たぶん今回もジャイアントバットやファングウルフが出てくる可能性が高い。

 そのための作戦はもう立ててあるから、あとは落ち着いてやれば問題ないはず。


「開けるよ」


 ボス部屋の扉をゆっくりと押し開けるとそこは、いままでと同じように大きな部屋になっている。扉を開けると同時に僕とモフが駆けだして、後ろからリミとシルフィが続く。

 僕たちが部屋に踏み込むと同時に天井にぶら下がっていたジャイアントバットが一斉に飛び立ち、僕たちの方へ向かってくる。この波に巻き込まれると、視界もふさがれるし、攻撃も当たりずらいしで苦戦してしまうことになるんだけど……。


「シルフィ!」

「はい!」


 僕の【指揮】によって、正確に僕の意図を察したシルフィがスペル化した精霊言語を唱えると、リミとシルフィの周囲に土の柱が形成されていく。精霊魔法と土精霊のレベルが高いシルフィが作るその柱は瞬く間に天井へと到達した。


 ギャ! ギャ! ギャ!


 なんの考えもなく突進してきたジャイアントバットたちは、その柱の間を抜けられず柱にぶつかって墜落していった。こうやってリミとシルフィを柱で囲んでしまえば、ふたりが魔物に取り囲まれることはない。


 ヒュ!


 そして間髪入れずに鳴り響く弓鳴り。柱の隙間を縫って放たれた矢がジャイアントバットの眉間を射抜く。


「リミもやるよ! えい!」


 リミの可愛らしい掛け声とともにボス部屋の天井付近を風の刃が走り、ぼたぼたぼたとジャイアントバットが落ちてくる。ここまでは作戦どおり! 

 取り巻きのジャイアントバットはふたりに任せておけば問題ない。僕とモフは……。


 グルルルゥ!


 僕を取り囲もうとする十頭くらいのファングウルフを相手にする。柱の中に入ると槍は取り回しずらいからね。


「いくよ、モフ!」

『きゅきゅん!』


 モフが斬りこんで? じゃなくて蹴りこんでかな、包囲を崩したところを僕が槍を振り回しつつさらにウルフたちの動きを乱す。連携が崩れてきたら後ろをモフに任せて、倒しやすいウルフから順番に仕留めていく。

 一頭、二頭、三頭と順調に数を減らしていくと脳裏に声が響く。


『リューマ! ボスが動いたぜ!』


 きた! モフの頭の上でギガバットの動きを監視していたタツマの声だ。天井に張り付いたままだったボスが動くのを僕たちは待っていたんだ。


「一点集中!」


 僕の【指揮】が飛ぶ。

 即座にシルフィの矢が連続して放たれ、ギガバットの翼の骨を砕く。そして、リミの水の散弾があとを追い、ギガバットの翼の被膜に穴を開けていく。


 息のあった二人の連携攻撃にさすがのボスもなすすべなしといった感じであっさりと地面へと落ちていく。翼を奪われた以上はギガバットはもう脅威じゃない。スキルを見る限り遠隔攻撃をできるようなものもないから放っておいても大丈夫。


「ボス放置で周りをかたずけるよ!」

「りょうかい、りゅーちゃん」

「承知いたしました」


 それから、五分も経たないうちにボス部屋の魔物は殲滅された。作戦どおりにことが運んだ完全勝利だった。



「ふう……お疲れさま。みんな完璧だったね」

「わさわさっと、たくさんの蝙蝠が跳びかかってくるのはちょっと気持ち悪かったけど、りゅーちゃんの声が聞こえると不思議と落ち着くから大丈夫だったよ」

「あれが【指揮】の効果なんですね。それに私たちはリューマ様の【統率】の恩恵も受けています。私たちはいつもリューマ様に守られてばかりです」


 ぴこぴこと猫耳を動かしながら、にこにこしているリミ。そして胸の前で手を組んで目を潤ませるシルフィの高まっていく好感度がくすぐったい。でも、こういうのが冒険者とそのパーティのあるべき姿だよね。まだ冒険者登録はしていないけど、僕の冒険者としての活動は始まっているってことかな。


「僕もふたりに助けられているんだからお互いさまだよ。さ、たくさん散らばった魔晶を回収しよう。僕は先にボスに止めをさしてくるね」


 ふたりは元気よく頷いてくれて、すぐに魔晶の回収に向かってくれる。結構な数を倒したから集めるのは大変かも知れないから、僕も用事が済んだらすぐに手伝いにいかないとね。


『リューマ! 急がないと死んじまうぞこいつ』

「え! やばっ。すぐ行く」


 ボスを監視してくれていたモフの上にいるタツマからの連絡を受けた僕は急いでギガバットのいる場所に向かう。ギガバットにはちょっと気になるスキルがあったから、絶対にこの機会を逃したくないんだよね。


 モフに踏まれて、もがいているギガバットは確かにその動きを徐々に緩慢なものにし始めていた。危ない危ない、さっさとやるべきことをやっちゃわないと。

 僕はギガバットの牙に気を付けながら体に触れるとスキルを発動する。


【技能交換(スキルトレード)】

 対象指定 「音波探知3」 

 交換指定 「掃除2」

【成功】


 やった! 一発で成功した。父さんの【気配探知】がとてもすごいスキルだったから、特殊技能の【気配探知】じゃなくてもいいから探知系はいつかどうしても欲しいスキルだったんだ。

 この【音波探知】ってこの世界ではあんまり『人』が持っているスキルじゃないし、持っていても使い方がよくわからなくて、ちょっと耳がよくなるスキルと思われている。

 だけど、【中二の知識】とタツマという厨二の神髄を極めた知恵袋がある僕にはこのスキルが『化ける』可能性があるスキルだと思っている。これはタツマも同じで僕たちの共通認識なんだ。


『よし、うまくいったな。早くとどめさせよ。こいつも喰っていいだろ?』

「はいはい、ちょっと待って。いま倒して魔晶を抜くから、下に入ってて」

『オッケー、早くしてくれよ』


 嬉々としてギガバットの下に潜り込んでいくタツマをうっかり刺してしまわないように気を付けながら槍でギガバットに止めを刺すと、ギガバットの胸から魔晶を取り出してアイテムバッグに放り込む。


「よし、いいよ」

『おぅ! じゃあいただくぜ』


 うねうねとギガバットを包んでいくタツマは放っておいて、リミとシルフィを手伝って魔晶を拾っていく。拾い終わったら、今日はまだ余裕があるし【音波探知】を確認しながら四階層を探索していこう。


今回のわらしべ

『 掃除2 → 音波探知3 』

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