第54話 リミナルゼ → 水術

「す、すごいよ! りゅーちゃん! こんなに簡単に倒せるなんて! なんかね、動き方がわかるようになったの! この攻撃をどうかわせばいいかとか、足さばきはこうとか、あとは! あとはね!」


 ゴブリンたちに圧勝したリミが興奮状態で戻って来て、いま自分に起こったことを説明してくれている。……まあ、興奮しすぎててよく分からなかったりするんだけどね。

 こんなリミを見ているのも楽しいけど、ここはダンジョンだからね。だから僕は苦笑しつつ興奮しているリミの耳に手を伸ばす。


「それでね! それで、 にゃはぁん! ちょ、りゅーちゃんその触り方はダメだってば……」


 このモフりかたは普通のモフりかたとは違う、モフとリミという最高の素材と長年身近で接してきた僕が身に付けた、モフられた対象を骨抜きにするというスキル外スキルなんだ。


 …………まあ、嘘なんだけどね。でもリミに対してだけは本当かな。この絶妙な力加減で猫耳の付け根を軽く揉むようにして耳に意識を集中させてから、フェイントで髪を撫でてホッとしたところですかさず猫耳を優しくモフる! こうするとリミは力が抜けちゃうんだよね。


「落ち着いた? さっきリミと交換したのは【格闘】ってスキルなんだ。本当は無手で戦うための戦闘スキルなんだけど、武器を持ってても戦闘中の動き全般に効果があるから、さっきみたいに【剣術】が助けてくれない部分も補強されるんだ」

「はにゃぁん……うん、わかった」


 力が抜けて興奮状態が収まったリミの頭を今度は普通に撫でてあげる。


「こんなふうに魔物たちから僕たちに必要なスキルをどんどん交換していこう」


名前: リミナルゼ

状態: 健常

LV : 9

称号: 愛の狩人(思い人の近くにいるとステータス微増)

年齢: 13歳

種族: 猫人族

技能: 剣術3 槍術3 格闘2

回復魔法2 

敏捷2

採取3 料理4 手当2 裁縫2      

特殊技能: 一途

才覚: 魔術の才 


 リミを【鑑定】してみるとレベルも1つ上がっている。やっぱりここでの修行は僕たちに都合がいいみたい。もしかしたらいい宝物が見つかる可能性もあるし、時間もある。安全マージンをしっかりとりながら虱潰しに探索していこう。



◇ ◇ ◇


 あのあと、右側の通路を虱潰しに探索した。分岐は幾つかあったけど、どれも行き止まりになっていて特に宝物が置いてあったりすることもなかった。

 出てくる敵もゴブリンとコボルトのみで、役に立つスキルを持った魔物もいなかったので僕とシルフィはリミの援護に回って、リミの経験を積ませてもらった。数だけは結構出てきたので、リミ無双の結果リミのレベルがさらにひとつ上がって10になっていた。


「このダンジョンはゴブリンとコボルトしか出てこないのかも知れませんね」

「どうだろうね……ゴブリンだけだとあんまり修行にならないんだけどね」


 拠点へと戻って僕の光術に照らされた室内でリミと一緒に食器を洗っているシルフィの言葉は、実は僕もちょっと思っていたことだった。

 まだこのダンジョンができて間もないものだとしたら残った左側を探索しつくしても、ゴブリンとコボルトしか出てこない可能性もある。そうだとすると、スキルの種類も期待できないので、このダンジョンはゴブリン相手の練習場のような場所にして他のところへ魔物を探しにいかなきゃ駄目かも知れない。そうだとするとちょっと期待はずれだな。


「でもリミさんのレベル上げには丁度いいですし、明日ダンジョンの魔晶を見つけてもしばらくはそのままにしておいた方がいいでしょうね」

「うん、わかってる。せっかくのダンジョンだからね……本当にそこまで小さいものだとしたらいつでも倒せると思うし利用できるうちは利用しよう」

「りゅーちゃん、明日も頑張ろうね」

「うん、片付けが終わったら早く寝よう」


 ふたりが夕食の片づけをしてくれている間に、アイテムバッグの中の在庫を確認しておく。

 キノコ類や食べられる野草、薬草、木の実、果実は結構しっかり採取してきたからまだ大丈夫。水は【水術】があれば作れるから水も大丈夫。ただ、保管している肉類はちょっと在庫が心もとないから、近いうちに狩りにいかなきゃならないかな。


「リミさん、最後に綺麗な水で流してもらえますか?」

「うん、いいよ」


 ふたりで仲良く話をしながら食器を洗う音が聞こえる……。なんだかいいな、家族みたいでこういう雰囲気は悪くないかも。


「いつもありがとうございます。お水がどこでも出るのはありがたいですね」

「えへへ……全部りゅーちゃんのおかげだけどね」


 本当はそんな簡単な話じゃない。スキルがあっても本当は呪文を唱えてからじゃないと魔法は発動しないというのがこの世界の常識。無詠唱で簡単に魔法が使えるのはリミの【魔術の才】が占める割合が大きいのは確かだけど、魔法を覚えてからリミが毎日空いてる時間にイメージトレーニングをして努力をしているのも大きい。


 ん? …………ちょっと待って! いまなんかおかしくなかったか。


『リューマ、気が付いたか? いまあの猫耳【水術】使ったぞ』


 だよね! 


「ちょ、ちょっとリミ! いま魔法で水を出さなかった?」

「え? 出したけど…………なんか駄目だった?」


 きょとんとした顔で首をかしげるリミは、自分がなにをしたか気が付いていないみたいだった。


「いや! 駄目じゃないんだけど、今日【水術】は僕と交換したよね!」

「あ! …………そういえばそうだった。でも、最初にちょっとつっかえる感じがしたけどいつも通りにお水は出たよ」


 ちょっと待って。そんなこと…………本当だ、【鑑定】で見ても【水術】を覚えてる。これって、もしかしたら凄いことじゃないか! ちょっといろいろ検証が必要になるけど、うまくすれば交換用のスキルに困らなくなるかも知れない。 


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