第53話 リミナルゼ → 格闘
とりあえず、迫ってきたゴブリン3体をシルフィの弓で牽制しつつ、リミが小剣で斬りこんでさくっと倒した。最後に倒した一体はなんとか解体して魔晶を取り出すことができた。効率は悪いけどリミとシルフィには交換用に【解体】スキルを常時所持していてほしいから機会があればどんどん解体してもらうことにしよう。
「お疲れ、じゃあ奥にいくよ。この先は暗いから、魔物に見つかっちゃうけど明かりをつけるね」
僕は手に魔力を集中すると【光術】を使って光球を作り出す。このまま放り出すと、光球がその場にとどまってしまって意味がないので僕の体から棒が生えていてその先にくっつけるイメージを紐づける。同時に光球を押し出すように離すとイメージしていた場所へ飛んでいって止まる。
同じように後方にもひとつ光球を固定すれば、僕が動いてもイメージした棒にくっついて光球も移動するので、僕たちの周りから光が途切れることはない。魔物たちに居場所を教えているようなものだけど、暗い中で戦う危険性よりは断然まし(・・)だと思う。
視界が確保されたところで奥へと進む。前回の偵察でこの先が二股、さらにそれぞれの先がふたつに分岐していることはわかっている。造りから考えてきっちりと区画整理されている迷宮系ダンジョンじゃなくて、曲がりくねった通路で構成された洞窟系のダンジョンなので位置を見失いやすいから気を付けないと。
「まずは右から潰していこうか」
「うん」「はい」
右に進んで、さらに突き当りを右にいくと先行しているモフが警戒の鳴き声をあげる。
ふたりに戦闘準備を指示してから前に出ると、先に【鑑定】をする。
ゴブリン
状態: 健常
LV : 7
技能: 格闘1
ゴブリン
状態: 健常
LV : 4
技能: なし
ゴブリン
状態: 健常
LV : 8
技能: 棒術1
コボルト
状態: 健常
LV : 3
技能: なし
やっぱりスキルを持っているような個体はレベルが高いな……。
あ! 【格闘】持ちがいる。近接戦をする人にとって、【剣術】や【槍術】主体だったとしても【格闘】があるのとないのと各段の違いがでる。なぜなら剣や槍を使っていないときの動きに【格闘】は大きな効果を発揮するからだ、このことは僕が身を以て体感しているから間違いない。これはなんとか近接戦もこなすリミには持っていて欲しい。
でも、僕はもう【格闘】を持っているからそのまま交換はできないから……。
「モフ、タツマ! 足止めだけお願い!」
『きゅん!』『おう! 任しとけ』
モフとタツマに足止めを依頼すると、すぐに頭の中で僕とリミのスキルを検討しつつリミのところへと戻る。
「リミ、いったん【水術】を僕が預かるけどいい?」
「え? もちろんいいけど……どうするの?」
「うん、リミに持っておいてほしいスキルを持ってるやつがいるんだ。でも、僕はそのスキルをもう持っているからこのままだと交換できない。だから先にリミに渡しておくね」
説明もそこそこにリミの手を握るとスキルを発動する。
【技能交換(スキルトレード)】
対象指定 「水術1」
交換指定 「格闘2」
【成功】
よし。……う、ずっと持っていた【格闘】スキルがなくなると微妙に身体が重いかな。でも、体の使い方は身に沁みついているし戦闘に大きな支障はないはず、それにレベルは下がるけど【格闘】はすぐにまた交換できる。
「ありがとうリミ。最初に僕が突っ込んで交換をしてくるから、それが終わったら今回はリミに任せるから戦ってみて」
「にゃ! リミひとりで? 大丈夫かなぁ」
ちょっと不安そうな顔をしているけど【剣術3】に【格闘2】を覚えたリミなら、あの程度のレベルのゴブリンたちはもう相手にならないはずだから問題ない。勿論、危なくなったらフォローはするけど。
「きっと大丈夫だよ。じゃあいってくる」
僕は踵を返すと耳槍を振り回して、ゴブリンたちの足を痛めつけているモフたちのところへ向かう。モフのああいう戦い方はタツマの影響だ。なんとなくモフと意思疎通ができるようになってきているタツマがモフに戦闘訓練をしている成果らしい。
「ありがとうモフ、タツマ。奥のゴブリンとトレードしてくるから戻ったら今回はリミに任せるよ」
『あいよ~』
タツマの暢気な返事を聞きながら槍を振って、コボルトと【棒術1】を持ったゴブリンを弾き飛ばす。そのまま無手で構えているゴブリンへ突進して槍を突き出すが、格闘ゴブリンは身体を捻って槍を避ける。一撃で殺してしまうわけにはいかないから手加減具合を間違うとそういうこともある。
まあ、それならそれで次は……僕はさらに前に出る。慌てて蹴りを放ってくるゴブリンの足を石突で叩き落とすと、バランスを崩したゴブリンの足を槍で払う。
【ギャギャ!】
見事に転んだゴブリンの腹部に拳を落とすと同時に【技能交換】を発動。
【技能交換(スキルトレード)】
対象指定 「格闘1」
交換指定 「裁縫1」
【成功】
よし!
「モフ、タツマ! いったん下がるよ」
しっかりと【格闘】スキルを回収した僕は止めを刺さずにリミたちのところへ戻ると、リミの肩をぽんと叩いて前へと送り出す。
緊張した感じでゴブリンたちへ向かっていたリミだけど、一体目のゴブリンを斬り捨てたところで戸惑うように自分の肩を回したりしている。きっと、動きが良すぎる自分に違和感があるんだろう。わかるなぁ、僕もあのオークから【格闘】を交換した後には同じ気持ちを味わった。
結局戦闘は危なげなくリミの圧勝だった。
今回のわらしべ
『 格闘2 → 水術1 』
『 裁縫1 → 格闘1 』
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