第30話 ハイエルフ → 捕縛

『うひょ~! 凄ぇなモフ。俺との特訓の成果が出たじゃねぇか!』


 角耳を地面に刺して土台を固定するとかタツマの仕込みか……だけど、今回は助かった。正直あいつと戦って勝てるとは思えなかったから。かなり強烈な一撃だったけどまだ死んだとは限らないか……それなら相手が回復する前にとどめを刺しにいかないと。


『リューマ。お前はまずエルフを止めて縛っておけ。人魔族のほうはかなり無防備に喰らってたから上手くすれば死んでる可能性もある。そっちは俺が確認してきてやる。まだ生きてるようだったら呼ぶからすぐにきてくれ』

「ちょっと待ってよ! あんな危ない奴、とどめを刺せるチャンスがあるなら確実にとどめを刺さないと」

『だからって、もしあいつが生きていたらお前がいっても殺されるだけだ。まず生きているかどうかを確認して、生きているようならなんか策を練らねぇと勝ち目がねぇだろうが! お前はまずできることをやって、それから生きていたときのための作戦を考えるんだ』

「……わかった。スライムをいちいち殺しにこないとは思うけど、生きているようだったら無理せずにすぐに逃げるんだぞ。僕もなんか作戦を考えるから」

『わかってるって。スライムなんだから無理なんてしたくてもできねぇよ』


 ぴょんぴょん跳ねていくタツマはとりあえず放っておく。人魔族が弱っているなら確実にとどめをさしたい気もするが、タツマの言うとおり弱っているからといっても僕に勝てるかどうかは微妙な相手だ。それなら、とにかく今はエルフを止めることが先決だ。最悪、人魔族だけなら父さんのほうがレベルも高いし、なんとかできるかも知れない。だけどこれ以上は魔境産の魔物はダメだ。


 僕はまず角耳が想像以上に深く突き刺さって身動きが取れないモフを引っこ抜く。こんだけ深く刺さるって一体どれだけの力がこもっていたのか考えるだに恐ろしい。もちろんその分頼もしくもあるけどね。


「モフ、西門の詰所に行って縄を持ってきてくれ」

『きゅん!』


 モフを送り出し、エルフに駆け寄ると胸元の大きくて柔らかい果実の下あたりに当身を入れる。……ていうか果実の波うちかたが凄い……のは置いておいて、幸い一撃で意識を刈り取ることができたのでこれで【精霊の道】は閉じたはず。曖昧になってしまうけど、どうも精霊を見る力がないと肝心の『道』自体が見えないらしくて消えたかどうかの判断はできない。

 だからどうしても推測になってしまうのが困ったところだけどいまはそう考えるしかない。


 倒れこんできたエルフを地面に横たえたところで、早くもモフが縄を引きずってきたので手早く両手両足を縛って拘束し、猿轡を噛ませておく。意識が戻っても精神支配状態をなんとかしないとどうしようもないけど、人魔族の情報とかを持っているかも知れないので身柄は確保しておきたい。


 なので気絶したエルフを担いでフレイムキマイラとの戦場から少し離れた所にある民家の中に運び入れておく。残念ながら肩に当たる感触を楽しんでいる余裕はない。タツマの報告を待ってすぐに父さんのところに戻らないと……


「タツマ!」

『……おっと! リューマか。どうやら人魔族は死、んだみたい! だな。確認のために捕食してから追いかける! から……先にいっとけ。結構遠くまで吹っ飛んでたから俺の速度だと時間がかかる』

「本当に大丈夫なのか!」

『おう! 村の奴らの仇だからな、きっちり捕食しとく』


 どうやら本当に大丈夫そうだ。それなら僕は……


「モフ! 父さんの所に戻るよ!」

『きゅきゅん!』





 幸いというかなんというか、父さんたちが頑張っているおかげで戦闘の音は常に聞こえてくるから場所を間違うことはない。ちょっと走ればあっという間にフレイムキマイラのところへ戻ることができた。


 戦況を確認してみると、今のところはまだ父さんもガンツさんも致命的なダメージは負っていない。ただ、さすがにガンツさんにも疲労が見え始めているし、火耐性のない父さんには各所に火傷の水ぶくれができていたりするのがあまりに痛々しい。なんとかしてあげられないだろうか……あ、そうか。


「父さん! 頭から水を被ればいくらか違うんじゃない?」

「そうだろうが……いまから水を探している暇はないぞリュー」

「大丈夫! 父さんの上から水を掛けるから足とか槍とかが滑らないように気をつけていて」


 僕は【水術】で出した水を父さん頭上に生んで、すぐに制御を手放す。レベル一で一度に生み出せる水の量はさほど多くはないけど、父さんひとりを湿らせるくらいは十分できる。


「おお! いつの間に魔法を覚えたのかとか気になることはあるが、これはいいな、助かる。それよりも召喚者のほうはどうだ」


 僕がいろんなスキルを持っていることから父さんもいろいろ察してそうだけど、さすがに問い詰めてるほどの余裕はないみたい。むしろフレイムキマイラの爪と斬り結び、奴の移動を牽制しながらこれだけ話せる父さんがすごすぎる。


「魔物がここに出たのは召喚じゃなくて空間系のスキルで魔境と道が繋がったせいだったんだ。その道を作っていた人はとりあえず気絶させて縛り上げてきたからこれ以上魔物が増えることはないけど、こいつも戻せなくなっちゃった」

「そうか……ご苦労だったな。結局こいつだけは倒さなくちゃならんわけか、さてどうしたものか」


 なかなか思い通りに父さんたちを倒せないフレイムキマイラは僕から見てもかなり苛ついているように見える。そのせいで攻撃が大振りで雑になっている気がする。


 その溜まったストレスを発散させるかのようにブレスを吐こうとすることもあるが、ブレスには溜めが必要みたいでそのときだけは動きが止まる。父さんとガンツさんはその瞬間に一気に攻勢に出てブレスを吐かせないようにするため、フレイムキマイラはさらにストレスを溜めこむ。そんな状況だった。

 どうも父さんとガンツさんはその流れを狙って戦っているようで、わざとフレイムキマイラが苛つくような立ち回りをしているみたいだ。でも、そこまでしてもこいつを倒すための決定打を僕たちは持っていなかった。


 父さんの【槍術】ならフレイムキマイラに当てることはできるけど、あいつの身体を深くは貫けない。ガンツさんの大槌なら衝撃を与えることはできるみたいだけど素早いキマイラ相手に当てることがまず難しい。僕の水魔法もレベルが一では文字通り焼け石に水だろう。


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