第8話 もふもふ → モフ

「怪我は大丈夫かリュー」

「うん、大丈夫」


 ゴブリンの死体を検分しながらお父さんが聞いてきたので、確認のために体を捻ったり跳んだりしてみたけど痛みはないので大丈夫だと思う。


「そうか。今日はこの辺で切り上げることになるから無理はするなよ」

「うん、わかった。ごめんねお父さん。僕のせいで狩りが中途半端になって……」

「なぁに、構わんさ。さっきの鹿だけで成果は十分だからな……それに、厄介な魔物を早々に処分できたのは本当によかったよ。だが、やっぱりゴブリンは実入りが少ないな」


 お父さんはシーフが持っていた短剣を手に取り、それを使ってゴブリンの死体の胸の辺りを裂いている。魔物の心臓は死ぬと結晶化して魔晶と呼ばれる宝石のような石になるんだって。もっともゴブリンくらいの魔物だと魔晶化しても小さすぎて売り物にはならないことがほとんどらしいけど。

 魔晶は加工すると魔法を使うときの触媒になったり、魔晶製のアイテムの動力になったりするので使える素材のない魔物の場合は魔晶が売り物にならないと倒しても全然お金にならないみたい。


「リュー、これが魔晶だ。覚えておけ」


 全部のゴブリンの検分を終えたお父さんが、手の平に乗せた黒と紫の中間くらいの色で透き通っている小石を見せてくれた。


「ゴブリンシーフから取れたものだ。他の個体のは売り物にならないな」


 そう言うとお父さんは逆の手を開いて中の物を見せてくれた。そこにはさっきの魔晶の5分の1も無いような小さな魔晶四個がころころしていた。


「このサイズだと、内蔵魔力も極小だし、使い道がない」


 でも、見栄えはあんまりよくないけど、透き通った石としてみればなかなか綺麗かもしれない。


「お父さん。それ、僕が貰ってもいいかな?」

「ああ、構わんぞ。初めての狩りの記念にでもするがいい」

「うん、ありがとう」


 お父さんから魔晶を受け取った僕は汗拭き用の布をポケットから取り出して魔晶を挟むと大事にポケットに仕舞い直す。せっかく【木工】スキルを手に入れたんだから帰ったらなにか作ってこの魔晶で飾り付けをしよう。お母さんやミリにプレゼントしてあげたら喜んでもらえるよね。


「それよりもリュー。懐に入れた角耳兎は大丈夫なのか?」

「あ、そうだった」

「まだ、子供で可愛く見えても角耳兎は魔物だ。無防備に懐なんかに入れるものじゃない。腹を食い破られても文句は言えないからな」


 お父さんの声がちょっと厳しい。歴戦の冒険者としてたくさんの生死を見てきたお父さんの言葉はずしんと響く。なんとなく大丈夫な気がしてとっさに懐にかばってしまったけど、懐に入れた途端に硬くした耳で腹を突かれたりする可能性も当然考えなきゃいけなかった。

 とりあえず懐に感じるあったかい感触は暴れる様子はない。胸元から手を入れてそっと毛玉を取り出してみる。


『きゅきゅ~ん、きゅきゅ』

 

 取り出した毛玉は甘えた声を出しながら僕の胸に擦り寄ってくる。うわぁ……可愛すぎる!


「ほう……子供とはいえ魔物がこれだけ人に懐くとはな。リュー、ちょっと自分のステータスを確認してみろ」


 お父さんに言われるがままに鑑定をしてみる。


名前: リューマ

状態: やや疲労

LV: 6  

称号: わらしべ初心者 

年齢: 8歳

種族: 人族

技能: 剣術1/槍術1/統率1/隠密2/木工1/料理1/手当1/解体1/調教1(New!)

特殊技能: 鑑定 

固有技能: 技能交換

才覚: 早熟/目利き 


「あ……【調教】スキルを覚えてる」

「やはりな。今度は角耳兎を見てみろ」


名前: ―――(従魔)♀

状態: 健常

LV: 1  

称号: リューマのペット(主人の近くにいる時に愛嬌レベルに+1補正)

種族: 角耳兎(つのみみうさぎ)

技能: 愛嬌2(+1補正)

主人: リューマ


「あ、僕の従魔になってるよお父さん!」

「よかったなリュー。【調教】はなかなか取りにくいスキルだぞ、大事にするといい。あとは……おお! いた」


 お父さんは周囲の木の上を見回してなにかを見つけたらしい。たぶん【気配探知】を使ったのだろう。


「よっと……こいつをポーションの瓶に詰めて」


 お父さんは木の上にいた何かを槍でつついて落とすと、さっき僕に使ったポーションの瓶に入れている。あれってもしかして……


「スライム?」

「ああ、そうだ。スライムは弱すぎて従魔にしようと思うようなテイマーはいない。しかも知能が低すぎて従魔になりにくいんだ。だが、こいつを飼育しながら【調教】しようとすることで上げにくい【調教】スキルの熟練を上げられるんだ」


 そっか、基本的に魔物は襲ってくるから【調教】スキルを上げる為にたくさんの魔物にスキルを試すのは危険だもんね。でもスライムなら、小さい上に弱いから子供でも危険はない。それに従魔になりにくいから何度でもスキルを試すことができるんだ。


「ほら、これを持って帰って練習に使え。後は、ちゃんとその兎に名前を付けてやるんだ」

「うん! わかった」

 

 名前か……どうしようかな。なにかに名前を付けるなんて初めてだし。せっかくこんなに可愛いんだから可愛い名前が良いよね。白くてふわふわでもふもふだから……


「決めた! お前の名前は『モフ』だ! これからよろしくねモフ」

『きゅきゅ~ん!』


 僕がつけた名前を気に入ってくれたのか嬉しそうな鳴き声をあげたモフはぴょんぴょんと僕の身体をよじ登って肩の上まで来ると俺の首筋にすりすりと体を寄せてくる。


「あははは! くすぐったいよモフ。そこが気にいったの? じゃあ落ちないように気をつけるんだよ」

『きゅん!』


 こうして僕は初めての狩りで獲物はとれなかったけど可愛い友達が出来た。

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