第3話 リミナルゼ → 約束
翌朝、まだ朝靄が煙る中、僕は槍を持って大きな背負い袋を持ったお父さんと一緒に、村の中を狩りにいくために歩いていた。
僕も腰に、いつも使っている専用の剣を佩いて、手には背丈よりも長い槍を持っている。その他の狩りに必要な荷物は、今の僕が持って歩くには負担が大きいと判断されてお父さんが全部持ってくれいている。
ちょっと情けないとは思うけど金属製の剣と槍を持って歩くだけでも、まだ体の出来上がっていない八歳の僕には重荷になるとお父さんがいうので仕方がない。僕だって冒険者になりたいと夢見て日々体を鍛えているから森まで荷物を持っていくこともたぶんできると思う。でも、今回の目的は体力づくりじゃなくて森での狩り。
森に到着したはいいものの疲労で狩りが出来ないようでは困るし、これから行く森には魔物も出る。いざという時に走れないようでは身を守れない。お父さんがそう判断した結果の荷物配分だった。まあ、お父さんがアレを持っているというのも理由だと思うけど。
「リュー、昨日は随分遅くまで起きていたいようだが眠くないか」
「うん! 楽しみでなかなか寝付けなかったんだ。でも大丈夫だよお父さん」
「そうか。俺も子供の頃は狩りに連れてってもらえるのが嬉しかったな。まさか自分に息子が出来て、その息子がその時の俺と同じことを感じる様になるとはな」
感慨深げに眼を閉じて浸っているお父さん。僕にはまだ自分の子供とかいないから良くわからない感覚だ。
「ねえ、早く行こうよ、お父さん」
「おっと、すまんすまん。昔を思い出してつい浸ってしまった」
「りゅーちゃん!!!」
歩き出そうとした僕たちを背後から呼び止めたのは朝靄の中でも良く通る聞き慣れた声だ。
「リミ! おはよう。随分早起きだね」
リミは手に木の桶を持って、 とてとて と笑顔で駆け寄ってくる。リミは僕の幼馴染でとても可愛い猫人族の女の子だ。
「もう! りゅーちゃんってば。全然早くないよ、リミは毎日この時間にお水汲みのお手伝いしているんだからね。おうちの裏に井戸がある守護者様のところとは違うんだから」
そういって頬を膨らませてはいるけど、頭の上にある三角の耳とおしりで揺れる細長い尻尾の動きは嬉しい時の動き方なのを僕は知っている。
僕たちのポルック村の人口の半分位は獣人族の人たちでみんながそれぞれいろいろな動物に似た耳や尻尾を持っている。その耳や尻尾は結構感情に反応してよく動くんだ。さすがに他のみんなのはわからないんだけど、リミだけは耳や尻尾の動きだけであるていどは感情が読めるんだ。
リミが近づいてくるのを待って、最近では条件反射的に使うようになってしまっている【鑑定】を使用した。
名前: リミナルゼ
状態: 健常
LV: 2
称号: 村の子供(効果なし)
年齢: 7歳
種族: 猫人族
技能: 採取2/料理1/手当1
特殊技能: 一途
才覚: 魔術の
あ、【採取】が2に上がっている。最近村の周囲の薬草取りを頑張っているっていってたからな……凄いなぁ、リミは。【採取】もとうとう追いつかれちゃった。【魔術の才】は相変わらず潜在したままで発現してない。魔術の才能があるなんて凄いことなんだから早く発現すればいいのに。
「へへ、そうだった。ごめんね、手伝ってあげたいんだけど今日はこれからお父さんと狩りの訓練があるんだ」
そんなことを考えつつ、リミに今日の予定を伝えておく。
リミナルゼ、リミは僕が産まれた翌年に産まれた猫人族夫婦のひとり娘なんだ。開拓村の開拓はとても厳しいらしくて、最初の数年で生まれた子供は僕とリミのふたりだけ。だから僕にとっては唯一の同世代の友達なんだ。
僕の両親は守護者として村を守る為に村を留守にすることも多かったから、そんな時はひとり見るのもふたり見るのも一緒だといってくれたリミの両親の好意に甘えてリミの家で過ごすことがほとんどだった。
だから、僕とリミは本当に兄妹のように仲が良くて、遊びに行くときには常に一緒だった。虫取りも、水遊びも、大人へのいたずらも、追いかけっこも、かくれんぼも、大人へのいたずらも、お月見も、ピクニックも、大人へのいたずらも本当にいつもふたりで一セットだった。
……若干いたずらが多い気もするけど、僕たちがするようないたずらなんて開拓村で生きる逞しい大人の人たちにとってはむしろ癒しみたいなものらしく、常に暖かい笑顔で見守られながら一緒に育ってきた。
「そうなんだぁ……リミも一緒に行きたいけど、狩りじゃ危ないよね。大人しく村で待ってるから怪我とかしないで帰ってきてね、りゅーちゃん。ガードンおじさんの言うことをちゃんと聞いてね」
「うん、わかってるよリミ。明日は一緒に魚釣りに行こうね」
「にゃ! うん! リミ、お魚大好き! 約束だよりゅーちゃん」
リミの耳と尻尾が一瞬だけピーンと立った。これは驚きと喜びが振り切れた時の反応だ。
「うん、約束。じゃあ行ってくるね」
僕はリミと人差し指だけを軽く絡めた。これは僕達が決めた、僕達だけの決まりごとで約束をする時のおまじない。絡めた人差し指を軽く三回振ると指を離して微笑みを交わす。
「いってらっしゃい、りゅーちゃん」
ぶんぶんと力いっぱい手を振るリミに、僕も笑顔で手を振りかえして村の外周を囲む壁に向かう。
壁といっても狭い感覚で木の杭を深く突き刺して三メルテ程の高さの柵にして囲んでいるだけなんだけど。
ちなみに1メルテは100センテ。1000メルテは1キロテ。お父さんの身長が188センテ、僕の身長は130センテくらいかな。まだまだ成長しているからもう少し伸びてるかも。
村の東西南北には、その柵に門が付けられていて、その門の脇には見張りの人の詰所。門の両脇には五メルテ位の高さの見張り台が設置されていて常に誰かが見張りについてるんだ。
このポルック村には専門で警備の職に就いてる人もいるんだけど、絶対的な人口が足りないから夜の見張りは村の男の人たちで交代制。でも、魔物が出た時に誰よりも率先して前線に出る必要があるお父さんだけは、村の人たちから見張りはいいから常に万全の状態でいて欲しいと頼まれて見張りを免除されているみたい。
僕たちは今日の南門の見張り当番だったらしい猪人族のイノヤさんに狩りに行く旨を伝えると「頑張れよ」と、僕たちを励ましつつ扉を開けてくれた。
門を出ると振り返って見張り台の上で外を警戒していた、鷹人族のホクイグさんと人族のヒュマスさんに手を挙げて挨拶をしてから進路をやや東寄りに変えて『狩人の森』へと歩き始めた。
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