第1話 ②
桜がもう少ない。もうすぐ、春が終わる、五月で、僕は彼女に出会う。
その寿命、あと三ヶ月。
「夏の、終わりかぁ……」
口から零れる、彼女の死ぬ季節。一番生気に溢れている時期に、彼女は死ぬ。
朝、自分の好きな時間に起きる、誰も起こさない。相変わらず僕は天井を見たままで、思考する。薄暗い、闇の考えのなかで、考えているような感じだった。正直、後悔していた、彼女の寿命が少ないことを知っていて、なんで僕は彼女に近づいたんだ。知っているはずだ、死ぬ相手に、感情を持たない。
それは、酷い事だと、自分でも知っているけど。そんな風にしないと、僕が壊れるんだ。
愛するもの、好きなもの、大切なもの。それはもちろん、人にも当てはまる。
愛する人、恋する人、自分にとって、大切な人。
それらが失(亡)くなると、人はどうなる?
僕だったら、多分死にたくなる。
元々、このカウントダウンは、なかなか見えないものだった。見える人と見えない人がいる、多分、三十人に一人ぐらい。
けれど、それは、祖母に当てはまった、丁度三十分の一に当てはまったんだ。僕はおばちゃんっ子だったから、その間、ずっと祖母の家で一緒に、残りの時間を過ごそうと思った。けれど親が信じなかった、祖母が死ぬ事を。祖母はまだ七十歳で、死にはまだ、少し距離がある年齢だと、親がそんな風に言った。
親に寿命が見えることを告白して、それでも、信じてもらえなくて、病院に連れてかれそうだった。
そして、祖母が死んだ時、父は、僕を責めた。
お前のせいで、死んだんだ。
何も、言えない。信じてもらえない。ただ、泣いていた。泣くことしかできなかった。
そこから、僕は人間すべての寿命が見えるようになった。
そして、誰にも、感情を持たない。
寿命が少ない人は尚更だ。
だから、彼女に接したことは、僕のミスだ。なんでその時、ちゃんと断らなかった。なんで、自分が春野音谷だと、言ったんだ。後悔する。
目を潰したい。そしたら見えなくなるかな?
僕は試しに、目を瞑り、親指で押してみようとした、無理。
そんなアホみたいなことをしていたら、スマホの通知音が鳴った。彼女からだった。スワイプして、指紋認証をしてください、親指をホームボタンに押して、ロックを解除する、そして、彼女のメッセージを見る。
(音)今日も一緒に、お話ししようよ。十時ぐらいに。
ここで、既読スルーして、返事しなくて、公園にも行かなかったら。彼女はもう諦めてくれるのか。そんな薄汚い考えが、僕の頭に浮かんだ。そして、次に浮かんだのは、彼女の寿命。
いざ、彼女が昨日見せた笑顔や、期待している横顔、僕に明日も会えないか聞いた時の恥ずかしそうな顔を思い出すと、内心、罪悪感に押しつぶされそうだった。
けれど、これで良いんだ。
そうしたら、僕が傷つかない。それが僕の人生、ハッピーライフ。ハッピーかな?
何度か考えて、僕は行かないことにした。
ベッドから起き上がって、顔を洗い、歯を磨く。
部屋に戻って着替える、別に外に出ないから、服装はどうでも良い。
下に降りて、リビングに行って、ご飯を食べようとしたら。
アイツが、ソファーに座っていた。アイツとは、父親だ。
最悪だ。なんでよりにもよってこんな時に。仕事はどうしたんだよ。
お互い、言葉を交わさない。と思ったら、アイツが僕に話しかけた。
「おい」
「……なに?」
「朝の挨拶一つもできないのか」
アイツの頭に浮かんでいる、寿命を見る。十五年とあと少しの意味のない単位。さっさと死ねよ。
喧嘩はしたくないから、従う。どっちにしろ今は、多分僕が悪い。
「おはよう」
体内にまるで架空のゲージが溜まっていくようで、それが溜まると、必殺技でも出せそうだった……出せるといいけど。
さっさと朝ごはんを食べて、部屋に戻る。アイツのいるこの家は、嫌だ。いるだけで気分が悪くなりそう。寿命が縮むよ。気がつくと、スマホに通知がもう一件、来ていた。時間はもうすぐ、十時だった。
(音)いい?
これ以上家にいる方が、彼女と接するより、全然嫌だったので、僕は服をもう一度着替えて、彼女に返事をする。
(春)いいよ。今行く
外に出ようとした時、アイツが僕に聞いて来た。リビングから玄関まで聞こえるぐらいの、音量だった。
「お前、何しに行くんだよ」
その声が、嫌いだ。死ね。
「別にいいだろ、僕がどこに行くんだなんて。別に不良とかやっていないから」
言葉を家に残して来て、外に出る。一応、安心させるつもりで言った。
日差しが強くて、一瞬だけ、視界が白くなった。
春が終わる。夏が来る。
空一面に広がる、藍色の空。白い雲が、綺麗に感じる。
人は雲一つない青空をよく、空が綺麗に言っている風に見えるけど。僕はそう、思えない。そんな空っぽな空、虚しくないか。純粋じゃない方が、綺麗なのもあるんじゃないのか?
ガラスが透明なのは不純物のと同じように、空も雲が混じったり、曇っていたり、それがいいんじゃないか?
人間も、いろんな感情を持つことで、人を理解して、好かれるように。
単一で、純粋だけじゃ、残されるだけだ。僕みたいに、後悔だけで。
音琴希濤は、この空に似ていた。綺麗で、学校でも人気が出そうだった。
そんな可笑しい考えを持った僕は、彼女に逢いに行く。
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