第135話 吸血姫の理由

 意識が浮上すると同時、埃臭さが鼻を突く。

 瞼を開くと同時、目に飛び込んで来たのは二つの乳房だった。  

 窓からは光が差し込んでおり、室内は明るい。

 顔を上げると、予想通りの顔がニヤリと意地悪な笑みを浮かべた。


「おはよ、シーナくん♪」


「……おはよう。お前、なんでここに居る?」


 昨晩は部屋を適当に選んで床に座り、剣を抱き抱えて目を閉じたはずだ。


 しかし現在、寝台の上。俺の隣で全裸で横になっている白狼族の女は、頭の獣耳をピクピク動かして言った。


「君を抱っこして寝るのが癖になってきちゃって、丁度良くベッドがあったから運んじゃった♡」


「……そうかよ」


 一応、シーツを捲って自分の格好を確認する。

 外套も着たまま、なにも脱がされていない。

 ただ、ユキヒメが全裸なだけだった。


「朝か……今日はどうする?」


「んー? えっと、今は8時か。吸血鬼にとってはもうすぐ寝る時間だから、夜まで暇だよ」


 枕元に置いておいたらしい懐中時計を確認して、ユキヒメは言った。


 改めて、活動時間が真逆の奴を仲間にしてもな。

 これ以上は時間の無駄だろう。


「そうか。じゃあ出発するか? 改めて考えると、賢者はメルティアやゼロリアでも変わらないだろ。長く生きた外見詐欺の幼女様なら、わざわざ俺達と活動時間が真逆の奴に拘る必要はない」


「それはダメ」


「なんでだ?」


「なら赤竜のお姫様と契って、ニンゲンヤメル?」


 ジッと見つめられて、俺は返答に窮した。

 メルティアと契る。つまりは彼女を抱いて、俺は人間をやめて竜族になる。

 それと同等以上の価値が、この城の主にはある。ユキヒメは、そう言いたいのだろう。


「あれはイヤ、これもイヤ、それはムリ、そんな事ばかり言ってても何も出来ないよ。私達は剣士だ。刃を振るう時は我欲の為に非情な選択を迫られる。何度も言うけど、君は剣士に向いてないよ」


「……そうだな」


 自由ギルド、村に派遣されて来た騎士団。

 俺は少なくとも二度、数十の人間を屠っている。


 この手で握った刃で、生きる為に殺した。

 勝利を確信し、命乞いをされても聞かなかった。


 我欲の為、そう言われても否定出来ない。


「勝者が得て敗者は失う。それが、この世の理だ。これまでの君は運が良かっただけだよ。いつまでも甘えてるなよ。口先の優しさで救えるものなんて、たかが知れている」


 煩い、言われなくても知っている。

 俺だって、甘えた想いで得られたものはない。


「……わかってるよ」


 甘い望みで救えるのは、人の心だけ。それだって結局、一時的なもの。根本的な解決にはならない。


 結局は富か力。突き詰めれば、他者を踏み躙る事で黙らせ、従える暴力に勝るものはない。


 俺は弱かったから、ユキナを奪われた。

 俺が弱かったから、ミーアは泣き苦しんだ。

 今だって……俺の嫁は、馬鹿な真似をしている。


 俺が弱い癖に優柔不断だから、仲間は不安になり心配して、余計な気苦労を掛けてしまう。


 メルティアの説く甘くて優しい世界は……やはり理想論に過ぎないのだろう。


「剣を振る覚悟がないなら、夢なんて語るなよ? 赤竜の姫様と君が目指す未来には、君達の絶対的な威信が必要不可欠だ。欲しいなら、全てを黙らせる力と覚悟を持て。君の望む理想郷は、その先にしか有り得ない」


 ユキヒメは狂人だが、語る言葉はいつも正論だ。

 心を持つ人も結局、その本質は獣と変わらない。

 人には知力がある分、余計にタチが悪い。

 己が欲の為に他者を陥れ、奪う。

 それでも辛うじて秩序を保っているのは、それを定めている権力者が居るからだ。


 人の歴史は、戦いの歴史だ。


 与えられたものでなく、己が意思で暴力を極め、時には理不尽な簒奪も平然と行って来た剣聖。


 だからこそ、彼女の言葉には、毎度重みがある。


 メルティアと俺が力で威を示して統治する事で、世界の認識を変える。


 だが、それで世界は優しくなるのか?


 結局は頭が変わるだけで、今までと変わらない。そんな結果になるのではないか?


 戦って手に入れた平穏は、歴史に残る。 


 ならば、結局は同じ方法で簡単に覆される。

 俺達は夢を叶えた世界で怯えて過ごす結果になるのではないか?


 少なくとも、村人の俺に務まる役目ではない。


「俺は、今を戦う事しか出来ない」


 思わず呟くと……ユキヒメは微笑んだ。


「分かってるなら、いいよ」


 畜生、やはり彼女と居るのは心地良い。

 やはり彼女と居るのは安心する。


 彼女は俺が誰にも貰えず、ずっと欲しかったものを与えてくれる。

 例え敵地に居ても、ミーアやメルティアとは違い一抹の不安も感じさせないでくれる。


 それは恐らく、俺とユキヒメは同類で。

 剣聖に至るまで研鑽を積んだ彼女は、俺が憧れる本物だからだろう。


「さて……じゃあ出掛けようか? シーナくん」


 不意にユキヒメは言って、上体を起こした。

 白く艶やかな肢体が朝日を浴び、形の良い乳房がプルンと揺れる。


 俺は、そんな彼女から目を背けて尋ねた。


「出掛けるって、何処に?」


「むふふ……喜べ♪ おねーさんとデートだぞ♡」


 ……はぁ? 

 また急に、なにを言い出すんだ? コイツは。









 支度を済ませ、古城を出た俺達は北に向かった。


 霧の濃い湖を出てから森を抜け、街道に出るまで二時間程度。それから街道を歩いて一時間半くらい経過すると、街らしきものが見えて来た。


 俺が冒険者として活動していたセリーヌに比べ、二倍近い高さの立派な外壁に囲われている。


「昼過ぎには着くだろう。シーナ君、そろそろ人とすれ違うだろうから、変装しておいてね」


「わかった」


 言われて、腰袋から白狼の耳付きカチューシャと尻尾を取り出す。

 以前、シラユキに用意して貰った品だ。

 一応、携帯しておいて良かった。


「おー、やっぱり似合うねぇ」


 耳と尻尾を付けると、ユキヒメは拍手した。

 

「お前の妹の案だ。褒めるならシラユキを褒めろ」


「へぇ? あの娘にも気に入られてるんだねぇ? うふふっ♪ わざわざ同族の変装までさせた男の子が大嫌いな姉を愛人にしてる事を知ったら、あの娘はどんな顔をするのかなぁ……楽しみだなぁ♪」


 ユキヒメは俺の腕を抱き、肩に頭を預けて来た。


 妹に比べ大きく、柔らかなものに腕を挟まれる。


 この温もりと幸福感を俺に教え込んだ剣聖様は、俺の顔を見上げ……にやぁ♪ と笑う。


「やめろ。趣味が悪いぞ」


 発情期には部屋に招かれたくらいだ。

 付き合いは短いが、シラユキが俺に好意を寄せてくれているのは事実だろう。


 とても殴られる程度で済むとは思えない。


「でも事実でしょ?」


「せめて愛人って表現はやめろ。恋人とか彼女とか他にあるだろ」


「……へぇ? えへへ、彼女かぁ♪ いいのかな?」


「男女の二人旅だ。関係を問われる事もあるだろ。それより、あの街に行く理由を聞かせろ」


 わざわざ数時間も掛けて歩かせた癖に、この女は未だに目的を明かしていない。


 あの金髪幼女を仲間にする為、必要な何かをしに来たのだろうが、


「むぅ……行けば分かるよ」


 一瞬、ユキヒメは拗ねたように頬を膨らませて、俺をジッと見つめながら、つまらなそうに言った。


 案外、構って欲しがりなんだよな……剣聖様は。





 


 街中の外壁に近付くと、俺は街道を行き交う人の流れが気になった。


 勇者の率いる騎士団が接近していて、避難勧告が出されたのだろうか?


 女子供を含む数人規模の非武装の集団が、私財と思われる荷物を積載した馬車や荷車を押して街から離れて行く。


 特定の種族、と言う訳でもない。

 犬耳、猫耳、鳥のような翼が腕にある者も居る。


「ねー。なんでおうち捨てちゃうのー? みんなとお別れするのやだよー!」


 5台目の荷車と持ち主、幼い娘連れの三人家族とすれ違った俺は、隣を歩くユキヒメを見た。


 途端、俺の視線に気づいた彼女と目が合う。

 

「なにかな?」


「いや、街の住人が引っ越しているのが気になる。街道沿いに進むとしても外壁の外には害獣が居る。武装もせず護衛の一人も居ない様子から家族連れの市民のはずだが、もし避難勧告に従っているなら、随分と放任的な避難だと思ってな」


 仮に軍人の数が足りないとしても、不自然だ。


 冒険者としての仕事に、引っ越しの護衛もある。

 白等級の俺には、縁のない依頼だったが。


 個人で護衛を雇う余裕のない者は、金を出し合い冒険者ギルドに依頼して護衛を雇うのが通例だ。


 こちらにも似たような職業はあるだろう。


 こんな時くらい国庫を開いてでも支援する程度の考えが出ないとは考え辛い。


 それすらも同行していない様子は不自然だ。


 冒険者の数も足りないのか? それとも住人達が打ち合わせの時間すらも惜しいと考える程に焦っているのか……?


 とにかく、なにか理由があるはずだ。


「ふーん……この前、港町の時は違ったの?」


「あぁ。保有艦の回収という目的と重要拠点だって理由はあったとは言え、竜人達も集まっていたし、軍隊は勿論、傭兵を大量に雇って避難誘導を行い、迎撃体制を整えていたはず。この規模の街を無償で引き渡すなんて馬鹿な話はないだろう……だから、勇者が原因じゃないな。次に荷車を押してる連中が来たら尋ねてもいいか?」


 そう尋ねるが、ユキヒメは俺の顔を黙ったまま、ジッと見つめている。


「……なんだよ?」


「いやぁ……私には気付けなかったなと思ってさ。なにかから逃げるって発想が私にはないからねぇ」


「……だろうな」


 寧ろ、嬉々として向かって行くだろうな。

 そして期待外れだったと勝手に落胆する。

 この女は、そういう奴だ。


「じゃ、話をするのは任せたよ? 弱者の気持ちが分かる君の方が適任だろうし。私が話すと、何故か突然怒り出す人が居るんだよねぇ? 目の前に居て彼我の力量も推し量れない者と話すのは苦手だ」


 それは無意識に煽ってるからだな、絶対。


『えー? 逃げるのー? ざぁこ♪ よっわ♡』


 こんな感じか? あー……わかる。


 容姿が抜群の美女のユキヒメに馬鹿にされたら、大抵の男はイライラするだろうな。


 こいつの事から、わざわざ帯剣してるような男を選んで話し掛けてるだろうし。

 

 こっちの獣耳男、特に肉食獣の特徴を持つ種族は力自慢で、自尊心高めの奴が多い印象がある。


 身の程を弁えていた冒険者時代の俺ですら、連日ミーアに馬鹿にされるのは、イライラしたもんだ。


 尤も、その記憶のお陰で今は……夜の甘えん坊なミーアが余計に可愛くて仕方ない訳だが。


「聞き込み、か。目的はなんだ? グリムリーゼを説得する為に必要な情報を得られるとは思えない」


「ふふっ。大丈夫だよ」


 ユキヒメは妖艶に微笑んで見せた。


「アリステラは昨晩、城を離れられないと言った。その理由には心当たりがある」


「なに? なら、それを解決するのか?」


「そうだ。だけど、まだ憶測の域を出ないからね。君だって他人の勝手な解釈で、自分の抱える問題に口を出されたくないだろ?」


「確かに……」


 なるほど、だから情報を集めるのか。

 曖昧な憶測で判断するのを避ける為に。

 どうやら、ユキヒメは本気であの吸血鬼を仲間にしたいらしい。


「意外だ。お前は人の都合なんて一切考慮しない、身勝手な奴だと思っていたが」


「……ふーん? まぁ事実か。でも、彼氏の君には迷惑を掛けたくないって言う、可愛い乙女心は評価して欲しいカナ?」


 ユキヒメは悪戯な顔で微笑んだ。

 全く、なにが可愛い乙女心だ。自分で言うな。


 だけど、まぁ……少しは見直したよ、剣聖。







「青い悪魔?」


「ああ。二ヶ月くらい前から、この街に急に現れた化け物だよ」


 荷車を押し、街の方から向かって来た馬耳を持つ四人家族を呼び止めた俺は、街道の隅で男性に話を聞く事に成功した。


「身体がこーんなにおっきくて、真っ赤なおめめをしてて、おーっきなツノがあるんだよぉ!」


 まだ十歳に満たないだろう幼い女の子が、両手をいっぱいに広げて話してくれる。


「こら。パパがお話ししてるんだから大人しくしてなきゃダメよ」


「いいんですよ。ありがとうな」


「にへへー!」


 ……可愛いな。

 俺も娘が出来たら親ばかになるかも。


「それで避難をしてるんですか?」


「あぁ。ところで、君達はナザレの街になにを? 二人とも帯剣してるようだが、傭兵か?」


「そんなところです」


「パパー! このお兄ちゃんの目、キラキラで綺麗だねぇ!」


 さっきと別の娘さんが俺の目を指差して言う。

 しまったな……竜の眼は流石に目立つか。


「そうだな。白狼族とは珍しい。それにその眼……何処かで見覚えがあるような……?」


「あらホントね。赤竜姫様の眼にそっくりだわ」


「あー! そうそう! 赤竜様だ!」


「俺の話は良いです。今は、その青い悪魔について詳しく聞かせて貰えませんか?」


 確か手持ちの本に目の色を変える魔法があった。

 今後の為にも習得しておくべきだろう。


「まさか、あんた達は悪魔に挑むつもりなのか? やめときな。あんた達は見たところまだ若いだろ。大事な命を粗末にするもんじゃないぞ」


「そうねぇ……つい最近、討伐に踏み切った軍隊と傭兵達が取り逃して、死者も24人だったかしら? なんか、酷い結果になったって言ってたし……」


 一応、つい最近に対処を試みたらしい。

 しかし、それは凄まじいな。

 悪魔と呼ばれるのも納得の強さだ。


「私達も仕事なんだよ。何を隠そう、私達は赤竜姫メルティア様から直々の依頼を受けて調査に来た。可能であれば討伐も視野に入れている」


 突然、口を挟んだユキヒメが平然と嘘を吐いた。

 こいつ……とは一瞬思ったが、悪くない機転だ。


「これでも、俺達はそれなりに経験豊富なんです」


「そうなのか……? しかし、まだ二人とも十代かそこらなんだろう?」


「メルティア姫も、やっぱり竜族なのねぇ……? こんな若い子二人に、危険な仕事を命じるなんて。争いを好まず、出来損ないと呼ばれる程のお人好しだと聞いて好きだったのに……ショックだわ」


「優しいお姫さまだと思ってたのに。お兄ちゃんとお姉ちゃん……かわいそう」


「せきりゅーのお姫さまって……やっぱり、こわいドラゴン様なの……?」


 ユキヒメの嘘に乗った途端、俺は馬族の家族から眉を寄せた暗い表情を向けられてしまった。


 あれれ? なんか思ってた反応と違うような。

 ……まぁ、いいか?


「とにかく、そう言う訳ですから……引き続き情報の提供に、ご協力お願いします」


 こうして俺達は折角辿り着いた街に入る事なく、その後も街から出て来る者達に声をかけ続けて……一時間程度で判断に足る話を聞く事に成功した。





 


 普段は濃い霧に覆われた湖の古城。

 その霧が晴れ、姿を現す定刻が過ぎた深夜。


「ふむ……満月は明日だったか」


 自室の窓から月を見上げていた金髪の吸血姫は、小さな唇を開き、踵を返して窓に背を向けた。


 途端。ガラス窓が一瞬、ガタガタと風に揺れた。


 背に気配を感じた彼女は立ち止まり、振り返る。

 すると真紅の瞳に、窓の外のテラスに佇む巨大な体躯が映った。

 不気味な青い肌を晒すそれは、ガラス窓の向こうから凶悪な赤い瞳を吸血姫にジッと向けている。


「ヴァン……戻ったか」


 足早に窓へ近づいた吸血姫は、ガラス戸を開く。

 途端に吹き込んだ風が彼女の白い頬を撫でた。

 長く、美しい金色の髪が風に遊ばれて靡く。


「おかえり……今宵も私との約束を守ってくれて、ありがとう……偉いぞ」


 テラスに居たのは、怪物と呼ぶに相応しい存在。


 血管の浮き立った不気味な青い肌。不自然に膨れ上がった太い四肢、頭部には鹿のような巨大な角。


 二足歩行のソレは辛うじて人の形を保っていた。


 しかし、衣服は一枚も纏っていない。


 お陰で露出した男性器を惜しげなく晒しており、生物学上は雄だという事は分かる。


 無論、ソレに恥じる様子は全く無い。

 人としての理性が欠片も残っていない証拠だ。


「ウゥ……ウウウゥ……」


 喉を唸らせた怪物は腰を曲げ、巨躯を屈める。

 獣のような顔が、少女の目線まで下がった。

 尖った牙の並ぶ凶悪な顎門には、主人への手土産が咥えられている。


「……そうか。今宵も私にくれるのか」


 それは、血の滴る人間の右腕だった。

 二の腕の半ばから粗雑に千切られている。

 怪物が差し出すそれを少女は両手で受け取った。


「……っ」


(まだ暖かい……すまない……すまない……っ)


 抱き抱えた右腕には、まだ温もりが残っていた。


 それに気付いた途端、胸が締め付けられるように痛くなる。


 名も知らない……顔も知らない悲惨者に対して、吸血姫は涙腺が緩むのを堪えながら、心の中で謝罪する事しか出来なかった。


「ウゥ……?」


 肩を震わせる主人を見て、怪物は首を傾げた。

 そんな怪物に少女は無理に笑顔を作って見せる。


「……ありがとう。美味しそうだ……頂くよ」


 少女は右腕に唇を這わせ、小さな口を開いた。

 鋭利な牙が容易に皮膚を貫き、人肉を喰む。


「ん……ん……っ」


 その際、彼女の脳裏に浮かぶのは記憶だった。


 大好きな満月の晩、書庫の窓から空を眺めながら紅茶と菓子を楽しむ卓上。


 その際、いつも視界の外から差し出されるのは、人の世で流行り出したばかりの新作の菓子だった。


 そして。流行に敏感で気の利く世話係は、いつも

穏やかな笑みを浮かべて告げるのだ。


『旦那様には内緒ですよ? 姫様』


 千年以上の歳月を生きてきた吸血姫。

 彼女は、物心ついた時には憧れていた。

 立派な角を持った鹿族の世話係。

 彼は……疑うまでも無く、彼女の全てだった。


「うぅ……うぅ……」


 涙腺の緩みは、容易に崩壊した。

 ボロボロと流れる涙は堪えようがない。

 お陰で喰む肉が少しだけ塩っぱくなってしまう。


「ぐっ……ううっ……ううう……っ」


 それでも彼女は、必死に咀嚼を続けた。


 数十回の咀嚼の後、口内の血肉を飲み込んで糧とした彼女は、口元を血肉で汚したまま顔を上げる。


「あぁ……美味い。美味しいよ……ヴァン」


 月光の下、血肉で汚れた綺麗な顔が微笑む。


 その表情は、吸血姫アリステラ・グリムリーゼが怪物である事の、紛れもない証だった。


 

 

 


 



 そんな吸血姫の背後。豪華な部屋の中に、二人の人影があった。


「さぁ……どうする?」


 室内の壁に背を預けて立つ、白狼の女は尋ねた。

 彼女の隣には、同じように背を壁に預けた少年の姿がある。


 両腕を組み、俯いて瞼を閉じていた黒衣の少年。


 中性的で端正な顔立ちの彼は、粗雑に伸びた長い白髪の下で……ゆっくりと瞼を開く。


「……過ちは正す必要があるだろう」


「ふふっ♪ そうこなくっちゃ♡」


 途端、白狼の女は嬉しそうに頬を染めた。 


(あっ……その顔好き、かっこいい……♡ あぁ……ダメだ……私、本気で欲しくなったかも……♡)


 少年の能面のように冷たい横顔を見て、下半身が知ってしまった雌の悦びを、キュン……♡と感じ。今まで完璧に自制出来ていた尻尾を無意識の中で、左右にパタパタと振ってしまいながら。


「お前、俺の彼女なんだろ? 手伝えよ」


「あっ……うん♡ もちろんだよ♪」


 僅かに届かない月光の中。

 薄暗い室内には、金色の瞳が爛々と輝いていた。



 






 あとがき




 すっかり雌犬になったユキヒメかわいい。


 以前頂いた感想で寝取られたユキナが作中の中で一番可愛い設定が、敗北感を感じてモヤモヤすると言われました。


 女の子は容姿より中身だろ? あぁん?


 と思いましたが、この作品は上位の美女が性格に癖があるのは確かです。


 ちなみに可愛い系だとユキナが一位なのですが、ユキヒメも顔立ちに幼さが残る絶世の美女です。


 並べたら完全に好み次第です。


 ちなみにユキヒメは細い身体をしている癖に胸はEカップとかいう、けしからん身体してます。


 メルティアがBで成長してきたミーアがCです。


 解像度の足しにして下さい。


 ちなみにゼロリアはAです。


 ユキナはAの二乗です。






 


 

 




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る