第119話抗い、受け入れる二人。


 ※多分、今までで一番胸糞悪いです。


 自己責任でお願いします。







「効率的に筋力を付けたい?」


「あぁ。なにか良い方法はないか?」


 国王との謁見予定日まで、五日に迫った早朝。

 朝稽古の為に屋敷裏の鍛錬場に来た俺は、最近の悩みをミーアに相談してみた。


「なに? あんたムキムキになりたいの?」


「なりたい。男ならデカい身体に憧れるもんだろ。昔から結構頑張ってるのに、全然駄目なんだ」


「それって、成人前。あの村に居た頃から?」


「そうだけど?」


 肯定すると、ミーアは……

 俺の身体を至近距離で、ジロジロ観察し始めた。

 黙って好きにさせてると、最後に俺の顔を見て、ミーアは……凄く嫌そうな顔をした。


「なんだよ?」


「……この顔でマッチョ? 化け物誕生じゃない。あんたの村が貧乏で良かったわ」


「は?」


 なんか、今。凄く失礼な事を言われた気がする。


「なんでもないわ。とにかく身体を作りたいなら、お肉の量は控えた方が良いわね。暫くは魚と野菜を中心にした健康的な献立にしましょう」


「えっ」


 しかも好きな肉料理を控えさせられるらしい。

 なんでそうなるんだよ、最悪だ……

 食生活が身体を作るのは分かるんだけどさぁ。


「シーナは今が一番の成長期。ここで頑張らないと数年後は悲惨よ? もっと料理の勉強しないと……そっか。今、この時の為の花嫁修行だったのね? 私、やっと分かったわ。お母様……ありがとう」


 なんかブツブツ言ってるな。

 ……全部聞こえてるぞ?


 なんで理解して貰えないのか。

 俺はユキヒメの剣を余裕で弾き飛ばせるくらい、強い身体が欲しいだけなのに。

 寧ろ、今こそ肉を沢山食べるべきだろう。


「何の話をしているのだ?」


 不意に掛けられた清涼な声に振り向く。

 声の主は、すぐに見つかった。

 こちらに向かって、シラユキが歩いて来ている。


 ……まだ安静にしてなくて良いのかな?


「おはよう。身体は良いのか?」


「あっ。おはよ、シラユキ。身体は大丈夫なの?」


「あぁ、おはよう。ミーアも。えっと、おはよう。身体なら心配いらないぞ? 医者には安静にしろと言われてるが、お前達には教官が必要だろう」


 そういう事か。

 本当に頑張るなぁ……助かるけど。


「そうか。助かるよ」


「それで、なにを話していた? 私も混ぜろ」


 ここで変な疑いを持たれても困るな。

 よし、シラユキにも相談してやろう。

 狼は肉食だし、ミーアを説得してくれるかも。


「筋量を増やして身体を大きくしたいって話だ」


「なに? 絶対に駄目だ。やめておけ」


 あれぇ? そ、即答かよ。

 一応、理由は聞いておかないとな。


「えっと、何故だ? 納得出来る理由が聞きたい」


 お肉を食べたいので、俺も必死だった。

 しかし、シラユキは馬鹿を見る目で俺を見て。


「お前の持ち味は速さだろう? 筋量が増えれば、その分体重も増える。自分の強みを自分で殺すな」


「え? でも、その分速くなるだろ?」


 少なくとも異能の反動は抑えられるはずだ。

 これは一応、まだ内緒なので言わないが。


「闇雲に鍛えては駄目だ。お前が目指すべき肉体は柔らかく、しなやかな四肢。そして高い肺活量だ。俊敏性向上を求めるべき今のお前に、重く硬い筋肉など不要だ。もう少し付けるべきではあるが……」


 そう言いつつ、シラユキは手を伸ばして来た。

 そして俺の肩や腕、脚にペタペタと触れ……

 なにやら、凄く真剣な表情をしている。


 これだけ触られてはミーアの様子が不安だが……流石に怒ったりしないみたいだ。


「はっきり言って、シラユキ……お願い……」


 寧ろ、シラユキと同様。真面目な顔をしている。

 その理由な、全く違うみたいだけど。

 

「お前は戦闘中、今の未熟な体格のお陰で拾った。そんな幸運も沢山あったはずだ」


 あ。言われてみれば、確かに……

 身体が相手より小さいお陰で、懐へ潜り込めた。

 そんな場面も、この数ヶ月で幾度もあった。


「しかし。お前は今、16歳だったか? まだまだこれから背は伸びる。今後は今まで当たらなかった攻撃を受けてしまう危険も増えるだろう」


「そうだな……その通りだ」


「それに、だ。お前の主武装は双剣だろう。元より敵の攻撃を受ける事を想定してはいけない」


「でも、どうしても躱せないものはあるだろ?」


「馬鹿者、黙って聞け。これだから素人は……」


 食い下がると、やれやれと首を振られた。

 呆れた表情で、何も分かってないな……と。

 そんな思考が透けて見える顔だ。うぜぇ。


「お前は、あれだけの動体視力と反応速度に加え、それについて来れるだけの身体能力があるだろう。甘えるな。全て上から叩き潰せ」


 なんか、こいつ無茶苦茶言ってない?

 

「毎回、一方的に倒せる相手なら苦労しないよ」


「だろうな。だが、お前の悪癖はそこだ」


「悪癖?」


 そう尋ねると、シラユキは……

 両腕を組み、俺を見下ろすような姿勢を取った。

 こいつ、俺よりチビの癖に……

 相変わらず、口と態度は本当にデカい。


「戦闘とは、自分の強みを如何に押し付けるかだ。相手に合わせて戦い方を変えた時点で負けている。良く言えば柔軟だが、実際は翻弄されている証拠だ」


「……確かに」


 ……あれっ。反論出来ない。無理だ。

 もう良いや、大人しく聞いておこう。


「お前はどうせ、ねーさんに力負けした事を気に病んで鍛えようと思ったのだろう。安易な考えだな。その時点で既に負けていると気付け、馬鹿者」


 そっかー、既に負けてるのかー。

 でも実際負けたもんなぁ……馬鹿者だなぁ?


「それにだ。ねーさんの使う桜月一刀流。太刀は、刀身が細く厚みもないぞ? あれは妖刀と呼ばれる特異な代物だから例外だが……正面から馬鹿正直に打ち合うのは、本来。ねーさんの戦い方ではない」


 えっと。真正面から叩き伏せられましたが?

 手加減されてるのは元々分かっていた。

 分かっていたが、改めて差を思い知らされるな。


「そうだな……言葉より体験した方が早いだろう。シーナ、一度打って来い。全力でな」


 と、シラユキは腰の剣をするりと抜剣した。

 しかし特に構えもせず、自然体のままだ。

 どうやら、なにか技を見せてくれるらしい。


「木剣じゃないのか? 危ないだろ」


「構わない。ただ力は使うなよ? お前の速さは、私の動体視力ではとても追えない」


「分かってるよ。でも、お前まだ安静なんだろ?」


「だから一度きりだ。無用な心配はするな」


 頑固だな、人が心配してるのに。

 まぁ、やる気みたいだし。これ以上は失礼か。

 折角、こんな機会を作ってくれたんだしな。

 

「そこまで言うなら頼むよ」

 

 自衛の為に持って来ていた雪華を抜く。

 ただの訓練で、これを抜くのは気が引けるが……


「何するの? シーナ。相手は怪我人よ?」


 まだ話せないミーアが怪訝な顔をする。

 訓練に真剣を使おうとすれば、不安にもなるか。

 寧ろ、よく今まで黙って聞いてたな……

 

「なんか、一つ技を見せてくれるらしい」


「えっ。真剣で? お願いだから怪我しないでね」


「分かってる。危ないから離れてろよ?」


「えぇ……そうするわ」


 素直に離れて行ったミーアを見送って。

 改めて、俺はシラユキに向き直る。


「じゃあ、お望み通り全力で振るからな?」


 正面に剣を構え、左足を前に出す。

 相手は隙だらけの構えだ。怪我もまだ心配だな。


「いつでも構わん。加減はするなよ?」


 しかし自信満々だな。無論、全力で振るが……

 本当に大丈夫なのか? 心配だぞ。

 せめて防ぎ易い上段から垂直に振り下ろそう。 


「じゃあ、行くぞ?」


 最初に決めた通り、両手で上段に振り上げた剣を頭頂を狙って振り下ろす。

 やはり少し心配だったが……予備動作は見せた。

 そう思った途端、白狼は俊敏な動きを見せる。


「ふっ!」


 右手一本で跳ね上げられた剣が、こちらの斬撃に対して合わせられる。

 今の俺では追えない、鮮烈な速度の一閃だ。


 刹那、金属音と共に刃が触れ合って。

 ……その鈍い手応えを感じたのは、一瞬だった。


「なっ!?」


 まるで、霞を斬ったように軽い……っ!?

 それは、まるで想定外の感覚だった。

 力んでいた俺の身体は、堪らず前方によろめく。


「いつ……」


 と。俺の右脇腹に、剣の柄頭が添えられていた。

 それはたった今、俺の剣を防いだ剣のものだ。


「あぁ、すまない。力を入れたつもりは無かった。痛かったか?」


 ふと、右後方から声がした。

 吐息が俺の右耳にあたるほどの距離からだ。


 そうか、こいつ……

 俺の剣を弾いて、前に身体を入れて来たのか。


「……いや、痛くない。大袈裟だった」


「そうか? だが、戦場では大袈裟で済まないぞ」


 言われて自分の体勢に気付く。

 ……俺、シラユキの肩に顎乗せちゃってるよ。


 うーん……甘酸っぱい。


 なんで女ってのは、みんな良い匂いがするのか?

 俺も自分の体臭を気にした方が良さそうだ。

 最近は女性と密着する機会が多過ぎるからな。


「悪い、すぐ離れる」


「構わない。わざと躱さなかったからな」


 ……ここで理由を尋ねる程、俺は鈍感じゃない。


 こう言う時は反応しない方が賢いのだ。

 黙って。すぐに離れて、何事もなかったように。


「約束を破った罰だ。くふふ……」


 そうやって冷静に接すれば、何も問題は……


「ほら、抱っこしてやろう。なんとか言え」


「ぐふ……」


 ……しかし、だ。

 こうやって抱き付かれた時の対処法は知らない。

 これが抱っこ? 結構苦しいんだが……

 

「それにお前は私に駄目出しされるより、あっちに怒られる方が効くだろう?」


 立てられた親指が向く先に、誰が居るか?

 そんなの聞かなくても分かる。見れる訳がない。

 なるほど、参ったぜ……なかなかの策士だな。


「死んだな、俺は」


「そうだ。お前は一度死んだ」


 もう死んでた? じゃあ今日は二回死ねるな。

 まだ早朝だぞ? 勘弁してくれ。


「このままで構わないから、説明しろ」


 諦めて負けを認める。

 すると、シラユキは得意げに鼻を鳴らした。


「簡単な話だ。そちらの剣を受けた瞬間、脱力して軌道を変えた。受け流した、と言う訳だな」


「……なるほど、それは簡単な話だな」


 分かり易い説明をありがとう。

 全く。いつも思うが、余裕あるな……こいつ。


「これまで、幾度の立ち合いでも見せたはずだぞ。それなのに、お前は容易に体勢を崩してしまった」


 言われて足元を見下ろすと……

 シラユキは一歩も開始位置から動いていない。


「…………」


 本当だ、凄いな。

 俺、いつも似たような技で負けてる気がする。


「学ばない奴だ。全く……」


 こんな体勢になった原因は、こいつが身体を前に入れて来た訳ではない。

 俺が勝手に倒れ込んだだけ、だったのか。


「柔は剛を制すという言葉がある。お前は必要以上に力み過ぎだ。剣士同士の戦闘は、刹那で決まる。故に剣士は、その一瞬を生む為に駆け引きを挑み、相手を崩すまで繰り返すだろう?」


「……さっきは強みを押し付けろって言ってたが」


 矛盾している。

 そう感じて尋ねると、ギュウウゥ……ッ!

 背に回された腕に力強さが増した。


「ぐふっ……」


 あまり痛くはないが……く、苦しい……!


「最後まで聞け、馬鹿者め。お前は直線的過ぎる。相手に合わせるのではなく、相手が強みを出し辛い状況を作り続ける。そして一瞬の隙を作り、自らの強みを発揮する。ただ押し付けるだけで常勝出来る能力があるなら苦労はない」


「ただ受けるのではなく、受け流せって?」


 いきなり手厳しいな。

 そんなすぐに習得出来る技とは思えない。


「あくまで選択肢の一つだ。今のお前が真正面から受け切れる相手は、取るに足りない雑魚ばかり……少しでも武を齧っている者が相手なら、力比べでは絶対に勝てない。お前は常に、そう思っておけ」


「確かに、それくらいが丁度良いかもな」


 実際、今まで力比べで勝てた試しは一度もない。

 受けなければならない時は、いつも不利な時だ。


「そうだ。なら、どうするか? そこで必要なのが知識だ。膂力差を覆す戦術に、小手先の技術だよ。日々の鍛錬は勿論、常に継続する必要があるが……今のお前に最も必要なのは無駄な筋トレではない」


「……わかった。俺は馬鹿者だった」


 大きな身体は必要ないのは理解した。

 だから、そろそろ離して欲しい。息が辛い……


「そうだ。考えてみろ? ねーさんは、確かに今のお前よりは少し背が高い様子だが、成人女性として突出して恵まれている訳ではなく、平均的な体格に寧ろ、華奢なくらいに四肢が細い。男のお前なら、数年後には容易く追い抜き、凌駕出来るだろうな。だが、勝てはしない。何故だと思う?」


 確かに、ユキヒメの四肢はスラリと細長かった。

 奴も力ではなく、技量で勝負する剣士なのだ。

 これも元々分かっていた事だな……


「私達は、どうしても体格で男に劣る。戦闘時には邪魔でしかなく、男を喜ばせる以外には使えない、この胸の膨らみもある」


「……胸の話は、今はやめよう?」


 言っとくけど、当たってるから。

 今は、頑張って意識しないようにしてるから。


「ふん。当ててやってるのだ、馬鹿者が」


 まさかの確信犯だった。

 こいつ……その尻尾触るぞ? 撫で回すぞ?


「故に。私達は女は勝つ為に必死で技を磨くのだ。幾ら、お前がこれから体格に恵まれ膂力を得ても、ねーさんには全く通じないどころか、寧ろ逆に利用されるだろう」


「……それが本来、ユキヒメの強みか」


 シラユキは黙ったまま、深く頷く。


「特に、ねーさんが修める桜月一刀流は東方の技。あちらには合気と呼ばれ、他者の力を利用し、扱うに長けた武術が存在する。桜月の技には、その合気の心得が数多く取り入れられている。予もすれば、今のねーさんに物理的接触は不可能かもしれん……だからと言って術を用いても、ねーさんは斬れる」


 ……はぁ?

 マジで何でもありだな、異世界の剣聖様は。

 馬鹿じゃねーの? 卑怯じゃん。

 物理的干渉は不可能だって? 俺、剣士なのに?

 それに術を斬るって、どういう事ですか?


 ……あれ、やっぱり勝てなくね? 


「お前の姉なんだろ? なにか弱点とか無いか?」


 寧ろ、お前がなんとかしてくれ。

 そう喉まで出て来たが……言えなかった。

 奴は、あの日。あの瞬間も平気な顔をしていた。


 もう二度と、あんな想いはしたくない。


 これ以上、シラユキを。

 大切な友人である彼女を、危険には晒せない。


「ない。東方の武術なら私も多少心得があるが……ねーさんには遠く及ばない。本当は、いつか。私が自分の手でと思っていたのだが……」


 華奢な身体は……僅かだが震えていた。


「お前なら、もしかしたら……届くかもしれない。私はずっと抱いていたのだ。お前と出会ってから、ずっと……そしてその疑心は、あの日。ねーさんに抗うお前の姿を見て、確信に変わってしまった」


 細い指の力は、俺の背に食い込む程に力強い。 

 ……気持ちは分かるぞ、シラユキ。

 自分だけで納得出来る結果を得たくて、考えて。

 だが、そうすると。どうしても……


 やる前から、遠く及ばないと理解出来てしまう。

 

 それが嫌で、惨めで。


「シーナ。私はお前を利用しようとしていたのだ。だから私はお前との繋がりを何とか形にしたくて、発情期の相手にと誘った」


 だから俺は……俺も、一度逃げた。

 二度目だって、最初は無関係な他人に縋った。

 感情的になって、喚くだけの無力な子供だった。


「お前の欲する能力は、メルティア様と契り半竜となれば全て手に入るだろう。赤竜の守護者となったお前なら、あのねーさんにも勝てるかもしれない」


 なのに俺は、また逃げている。

 遺言でまで助言してくれた、母さんに逆らって。

 幼い頃に禁じられた嘘を吐いてまで。


 ……女神は言っていた。

 俺に与えられた力は、運命の相手。

 赤い竜姫の守護者となる事を前提にされている。


「だが、それでも私は、お前に人で在って欲しい。私はメルティア様を心よりお慕いしているのに……幸せになって欲しいのに」


 俺に密着していたシラユキは上体を離すと、俺の顔をジッと見つめた。

 そして、


「剣聖と呼ばれ、人のまま竜殺しと呼ばれるまでに至った自分の姉と、あの日。お前が戦う姿を見て、私は魅入られ……同じ武人として強く憧れた」


 あまりに真剣な顔で言うので、俺は困った。


「……俺は」


 結局。どう返すのが正解か分からなかった。


 ただ……

 俺に憧れたと言うなら、間違いは正すべきだ。

 俺は、ただ。与えられた力を振るっているだけ。

 所詮は紛い物なのだと。


「お前の子なら孕んでも良い。だから、どうか私に力を貸してくれないか? 私はこれ以上、あの姉を野放しにしておく訳にはいかないんだ」


 だが、その真実を口にする事は、今は出来ない。


 シラユキの事は信じているが、ここは公共の場。

 誰が聞いているか分からない場所だ。


 とは言え、俺とお前は同じ人ですらない。

 俺には、そんな狼耳も尻尾もない。

 基礎身体能力も白狼族のお前の方がずっと上だ。


 そんな台詞も、とても言うわけにはいかない。


「いい加減に説明しなさいよ。なにをそんなに長くくっついて、イチャイチャしながら話してるの?」


 あ、やばぁ……忘れてた。


 苛立った声に振り向く。

 すぐ後ろに、ミーアが両腕を組んで立っていた。

 最近、あまり見なくなった見慣れた不機嫌顔で。


「いや、別に大した話じゃない。実はな……」


 正直に話の内容を全て説明する。

 すると、彼女は眉間の皺を深めて。


「随分と真面目な話をしていたのね……それで? シラユキのお姉さん。結局どうするつもりよ?」


「……また来るなら戦うしかない」


 奴の雇い主は、あのクズ野郎だからな。

 その目的は俺を殺し、メルティアを奪い返す。

 そして、また自分が赤竜の伴侶に戻る事だろう。


「ふーん? ところで私、待ってる間に考えたの」


 そう言って。

 ミーアが掲げて見せたのは、俺の魔法書だ。

 どうやら勝手に俺の荷物を漁ったらしい。


「私の知ってる騎士に、貴方と同じ魔法剣士として暫くの間、騒がれてた人がいるのよ」


 女神の祝福を受ける者は、十人に一人くらいだと言われている。

 そして魔法士の才能を示される者は、その三倍。

 三十人程度に一人という、稀少な存在で。


「魔法剣士? それって、確か」


「そうよ。正式に認められてるのは、たった数人の凄く優遇されてる騎士達。あの勇者一行が抱えてる騎士団の団長様もその一人ね」


 剣士と魔法士。

 二つの適正を女神に示された者は本当に少ない。


 その中でも魔法剣士とは……

 剣と魔法を両立した戦法を用い、国に認められた能力を持つ者達が名乗る名称。


 と、確か以前読んだ本には書いてあった。


「まぁ全員あんたに比べたら、お遊戯同然の身の程知らずばかりだけどね?」


 は? ちょ……自慢げな表情で言い過ぎだろ。

 いや、そうか。こいつまさか……


「魔法剣士。私も昔、憧れた時期もあったけど……まさか将来は原典オリジナル持ちで、伝説の無詠唱まで使える魔法剣士様に嫁ぐ事になるなんて、夢にも思わなかったわ。流石は私ね。将来設計まで大天才よ」


 やっぱり憧れたんだ。

 本当に好きだもんなぁ、そういう話。


 少なくとも将来設計は大失敗ですよ? お嬢様。

 お前は今、敵だと思ってた魔人側に居るからな?

 第一、俺達が出会えたのも偶然だろうに。


「凄く格好良くて優しくて、私生活も充実してて」


「……充実してるか? 私生活」


 気が抜けない、荒事と隣り合わせの日常だ。

 そもそも外出禁止な時点で駄目だと思う。

 しかし、上機嫌な嫁はお構いなしに。


「えぇ。もう少ししたら……確かな絆も出来るわ」


 頰を紅潮させ、鼻息を荒くして。

 さす……と、ゆっくり自分のお腹を撫でる。


 ……いや。いやいや、絶対まだだろ。


「……お前、実は余裕だな?」


 だから本当にやめろ。シラユキの視線が痛いよ。

 どうしよう、居た堪れない……!

 折角、聞こえなかった振りをしてるのに!


「それじゃあ、話を戻すけど」


 ……そして自分勝手なのは、全然治らないな。

 もう俺が先に慣れてしまったよ。


「その魔法剣士が騒がれたのは、剣士の固有スキル身体強化フィジカルブーストを魔法で再現し、使い熟しているからよ」


「へぇ、そりゃ凄いな」


 身体強化の異能は単純だが、強力だ。

 熟練の異能者なら人体の限界を軽く超えた膂力を発揮することも出来るらしい。


 以前見た銀等級冒険者バルザ。彼の常人離れした腕力も異能によるものではないかと一時疑ったが、あれは違ったんだよな。


「本職の魔法士達は鼻で笑って、ネタ魔法扱いしたらしいけどね」


「え? なんでだ?」


 魔法剣士なら身体強化の恩恵は大きいだろう。


「忘れた? 本来、魔法は一つ発動している最中に他の魔法詠唱を始めると、前の魔法は霧散するわ。元々接近戦に弱い魔法士には恩恵がないし、法力を無駄に消費するだけだと思われたのよ」


「あー、なるほど。確かに……」


 まだ無詠唱が出来なかった頃、一度試したな。

 魔法書にも書いてあるし、確かに消えていた。


「でも、その魔法剣士は実力で周囲を黙らせたの。昨年王都で開催された模擬戦の大会で、あの剣聖と互角に打ち合って見せてね。格好良かったわ」


 ……あいつからの手紙で読んだな。


 剣聖の降臨を祝って開催された剣術大会か。

 確か、刃を潰した剣が支給されたらしい。


 あの神剣が使えなければ、幾ら全ての剣士の異能を使えるらしい剣聖でも……同じ身体強化の異能を使える奴なら、打ち合えた訳か。


 日々研鑽を続けているだろう、今と違って。

 まだ剣なんか握った経験もない村娘の頃だ。


 結局、優勝したのは勇者だったらしいが。


「そうか。全く知らなかった……ところで、なんでお前が、そんな見世物の観戦に招待されたんだ?」


「え? それは、お父様が……たまたま運良くね」


 お、気を抜いてたな? ちょっと漏らしたぞ。

 最近、ちょっと楽しくなって来た。

 いずれ絶対に自白させてやるからな。


「私の話は良いのよ。それで、あんたに相談されてから調べてたの。以前あんた、二つくらいなら併用しても余裕でいけるって言ってたじゃない?」


 確かに話した気がする。

 普段、魔法壁は常時展開してるから、他の魔法を使う時はどうしても二つ使うんだよな。

 三つ目からは制御が難しくて、四つ目は無理だ。


「だから身体強化の魔法が使えれば悩みは解消すると思って……ほら、ここにも書いてあるでしょ? 現行の固有スキルは魔法で再現出来るものが多く、魔法士とは無限の可能性を秘めているって」


 そう言って、魔法書の表紙を開いて見せてくる。


「ね? 試してみる価値はあると思うわ。それに、もし成功すれば、竜の力なんて無くても……」


 と、言い淀み。ミーアは暗い顔をした。


 うーん。流石ミーアだ。

 何故だろう。全く思い付かなかった。

 それに、ありがとう。

 それくらい、本当は嫌だったんだよな……


 お前だって、独り占めしたいよな。


「そうだな……早速、試してみよう」


 勿論、習得出来る魔法は術者の適正による。

 なので、まだ手放しで喜べたりはしないが……


「ありがとう、ミーア。お前は最高の嫁だよ」


「……え? このくらいで大袈裟よ……頑張って」


 お陰で希望が見えた。

 既に脱力していたシラユキから、すぐに離れる。

 そして、剣を構え。精神を研ぎ澄ませた。


「どうした? 急に雰囲気が変わったようだが……ミーアに何を言われた?」


「……まだ、諦めるのは早いってさ」


「なに?」


 落ち着いて、イメージしろ……。

 視界に映る景色に、俺の希望を反映させろ。


「小手先の技が凄い奴なら、それだけでは凌げない一撃を。両手で、二本の剣で、間髪入れずに力強い斬撃を繰り出し続ければ良い……そうだろ?」


 ……っ! あっ、来た……分かる。

 魔法が……女神の意思が。

 俺の想いに応えようと身体中を駆け巡るのが!


「なんだと? お前は一体、なにを言って……っ。くぅっ! な、なんだ? この風は……っ!」


「法力が漏れ出ちゃってる……やっぱり身体強化は再現するのが難しい魔法なのね」

 

 二人のお陰で、ユキヒメ攻略の糸口は掴んだ。

 そうだ。シラユキの言う通りだったんだ。

 俺は、自分の強みを押し付ければ良い……っ! 


「所詮、ユキヒメも人なんだろう? だったら……妖刀だか、なんだか知らねーが……っ!」


 駄目だ、全然纏まらない……っ!?

 かき集めろ、体内に留めろ……漏れ出すな……!

 あぁ、クソッ! 言う事を聞きやがれ……っ!


「叩き折ってやる。奴の傲慢な態度ごと、全て! だから力を貸せっ! 言う事を聞いてくれっ!」


 必ずものにしてやる……次に、奴が現れる前に。

 俺は人のまま、人を超えなきゃいけないんだ!


「っ! ぐぅ……あぁ、あぁああああっ!!!」


 全身を駆け巡る法力は、暴れ狂う。

 主人に激しい激痛を与え、高熱を生み出して。


 まるで、俺を試すように。


 

 

 




 一方その頃。

 ユキナは学生として籍を置く王都の学園に居た。

 彼女が今日ここに来たのは、学園長に会う為だ。


「それでは、失礼致します」


「はい、どうか頑張ってくださいね」


「必ず朗報をお届け出来るよう、勤めて参ります」


 そして既に、その要件は済ませていた。

 白を基調とした学生服に身を包んだ彼女は、軽く手を振る学園長に微笑んで見せると退出した。


 扉を静かに閉め、一息吐いたユキナは踵を返し、ゆっくりと歩き出した。


 彼女が居る学園長室と職員室がある第三棟から、校門に最も近い高等部がある第二棟へ。

 校内を歩き、その渡り廊下へ差し掛かると、


「ユキナ様、ごきげんよう」


「本日も大変麗しいですわ、ユキナ様」


「聞きましたよ、ユキナ様。また魔界へ赴かれるのでしょう? お気を付けて」


「遂に勇者一行、再始動ですねっ! 学友として、ご武運をお祈りしています」


 昼休みという事もあって、すれ違う生徒達は足を止めて挨拶してくる。

 声を掛けて来るのは同性か、家格が同等以上の者ばかりだが、


「はい、ごきげんよう」 


「いえ、恐れ多いですわ。セナリハ様こそ、本日も大変お麗しく……」


「ありがとうございます。精一杯勤めて参ります」


 その一人一人に丁寧な対応をしていれば、当然。中々前へは進めない。


 ユキナは、侯爵令嬢である自分には声を掛ける事すら許されない立場の者達にも、一人一人。丁寧に手を振るので……渡り廊下を渡り切る頃には、酷く気疲れを感じていた。


(……早く出たい)


 胸の内に従い、ユキナは先を急ごうとする。


 とは言え、本当に急げはしない。

 誰か一人にでも、はしたない。そう言われれば、待っているのは恐ろしい淑女教育のやり直しだ。


 通う事が決まった時は、息抜き出来ると喜んだ。

 そんな学園だが、今は苦痛でしかない。


「あら? 騒がしいので誰かと思えば、お姉様ではありませんか」


 もうすぐ外への出口という時だった。

 不意に廊下を曲がって現れたのは、


「アリシャ……ごきげんよう」


 見知った顔の女生徒だった。

 背後に6人もの同性の取り巻きを従えた彼女は、ユキナと同じ銀髪碧眼の幼い女の子。


 アリシャ・ローレン。


 最近、剣聖の実妹として注目されている生徒だ。


 そんな彼女は、中等部の制服を着用している。

 取り巻きの中には高等部の生徒も二人いるので、顔を見るが……名前が分からない。

 ユキナは学内の貴族の嫡子を全て暗記している。

 なので、平民の生徒だろう。


「嫌ですわ、お姉様。実の妹相手に他人行儀な」


「……そうでしょうか? それで、アリシャは何故高等部のある第二棟に?」


「職員室に要件がありまして。お姉様は……あぁ、休学届の提出ですか。本日だと仰ってましたね」


 笑顔を浮かべながら、探るような目をする妹。

 ユキナは、そんなアリシャが苦手だった。

 とても今年で14歳になる子供とは思えない。

 流石は、生まれながらの貴族様だ。


「はい、これから登城します。では……」


 あまりに他人行儀なユキナの様子に、取り巻きの女生徒達が困惑の表情を浮かべ、ひそひそする中。


「……あぁ、もう限界」


 さっさと去って行く、姉の背を見送りながら。

 何故か、アリシャは無性に腹が立ってしまった。


「待ちなさいよ!」


 気づけば、アリシャは声を荒げていた。

 握った拳がぷるぷると震える。

 それくらい今の彼女は苛立っていて、とても我慢出来なかった。


「……そんなに声を荒げて。はしたないですよ? アリシャ」


 足を止めたユキナだが、振り返る事はしない。

 それが余計、妹に火をつけるとも知らずに。


「うるっさい! あんた、ホントに何なのよっ! そんなに後悔するくらいなら、なんで……なんで、あんな事言ったのよっ!!」


「アリシャ様、皆が見ています……」


「うるさいっ! これは家族の問題よっ!」


「ひい……っ」


 取り巻きの制止を振り払って、ギロリと睨む。

 そうして大人しくなった女生徒から、姉の背へとアリシャは向き直った。


「あんたが……女神様に選ばれた剣聖が、どれだけ大きな物を背負ってるかなんて知らない! でも、だからって……育てて貰った人達を見限る理由は、もっと分かんないっ!!」


「…………っ」


「あんたが言ってる事は、いつも嘘ばっかりよ! そうじゃなきゃ、そんな顔はしないはずでしょ! あんたは育ての親から酷い扱いなんて、絶対されてなかった! だからっ……だから悲しいんだっ!!後悔してるはずなんだっ!!」


「……うる、さい」


「あんたが最後に見せた笑顔は、幼馴染の男の子の話をしている時だった! とても信じられなかったけど、あんたの笑った顔を見てたら本当なんだって信じられたっ!」


「うるさい……」


 華奢な肩を震わせて、ユキナは俯いた。

 ポロポロと溢れる雫の光を、アリシャは見逃さなかった。


「あんたは何の為に戦ってるの? 剣聖だから? 勇者様に従って嫁がなきゃいけない立場だから? ねぇ教えて。なんで、あんたは戦うのっ!!」


「うるさいっ!!!」


 俯いたまま、ユキナは力の限り叫んだ。

 いつの間にか周囲には人集りが出来ていた。

 静まり返った廊下で、大勢の視線を浴びて。

 アリシャは肩で息をしながら、ゆっくりと問う。


「ねぇ? 今、あんた笑えてる? 最後に笑ったのいつよ……? 答えて、お姉様」


「…………」


 答えは沈黙だった。


 歩き出したユキナは、決して振り返る事はない。

 そんな姉の弱々しい姿に手を伸ばし、アリシャは力一杯歯を食い縛って。


「絶対、絶対に変な気を起こすんじゃないわよ! あんたのせいで死んだ沢山の人達に報いる為にも、あんたは生きなきゃいけないのっ! だからっ!」


 去って行く姉の歩みは止まらない。

 こうなってしまった以上。きっと、もう姉は家に戻って来ないだろう。


「世界を救った後も、生き続けなきゃいけない! そうじゃなきゃ、あんた一生誰にも自分を誇れなくなるわっ! そんなの、そんなの……同じローレンとして、妹として許さないからっ!」


 戦場となる魔界に向かうまで、あの馬鹿姉は。

 王城にあるらしい部屋に篭ってしまうのだろう。

 そんな確信だけは、容易に想像出来て。


「大好きな幼馴染にも悪いと思うなら生きてよ! 生きて帰って来なさいよっ!? お姉様っ!!」


 今まで溜まりに溜まった鬱憤を晴らす。

 それしか、まだ幼いアリシャには出来なかった。


「何とか言えっ! いつもいつも私は不幸ですって顔してさっ! ムカつくのよ、あんた見てると! なにが剣聖だ! この馬鹿っ! 大っ嫌いっ!!」


 偉大な存在として讃えられる。

 大嫌いな姉の姿が、完全に見えなくなるまで。






 そんな事があった、同日。

 学生服のまま登城したユキナが真っ先に向かったのは、勇者一行の執務室だった。

 扉を開くと、在室していたのは金髪赤目の青年。勇者シスルが一人のみ。


「あっ。ユキナ来たね。早速手伝ってよ」


 他の二人が今日、不在な事は知っていた。

 あの二人には、戦う理由があるのだ。


(やっぱり、シスル様だけ……)


 家族や友人。

 賢者ルナに至っては、明日は恋人と過ごすのだと昨晩、嬉しそうに語っていた。


(私には、何もない……許されない、のに……)


 昨晩のルナの顔を思い出す。

 やはり羨ましくて、妬ましくて仕方ない。


 時には、全てをぶち撒けてしまいたい。

 ルナも自分と同じく、全部失ってしまえば良い。


 そんな風に思ってしまう程には……腹が立つ。


「はい……」


 だから今日、ユキナは来たのだ。

 勇者であるシスルが抱える、自分達より圧倒的に多い書類の山を手伝う事を了承して。


「じゃあ早速、こっちから。君でも出来そうなのを纏めてあるけど、困ったら言ってね」


「…………」


「ユキナ?」


 思い詰めたような表情のユキナに違和感を覚え、青年は名前を呼ぶが反応はない。

 これは何かあったと悟り、シスルは手を止めた。


「どうやら、仕事どころでは無さそうだね?」


「……申し訳ありません」


「いいよ。僕で良ければ相談すると良い」


 いつになく優しい声音に、ユキナは酷く安心感を覚えて俯いた。

 故に彼女は気付かない。

 机の下で青年が、そっと聖剣の柄に触れた事を。


「僕は勇者であると同時に、君の婚約者だからね。当然だよ」


 女神の創った奇蹟では、精神の干渉は出来ない。

 しかし勇者にのみ与えられた、ある特権がある。

 そして英雄と呼ばれる彼等は、神器。

 もしくは与えられた役職に関連する武器に触れている最中のみ、力を発揮出来るのだ。


 効果は、すぐに現れた。


「……では、少しだけ」


「あぁ待った」


 おずおずとユキナは近付いて来ようとする。

 そんな彼女を青年は即座に手を上げて制止した。


「折角、二人で休憩するんだ。場所を変えよう」


 その言葉の意味が理解出来ないほど、二人は短い関係ではない。

 途端に白い肌を一気に紅潮させ、ユキナは……


「はい……」


 こくん、と頷いた。






 その後の展開は、ユキナの予想通りだった。

 シスルに連れられ、城内を歩いて向かった先は、彼が寝室にしている豪勢な部屋だ。  


 やはりここに連れ込まれるのかと思いながら。


「じゃあ、ベッドに行こうか」


「……はい」

 

 拒否する権利のないユキナは、大人しく従った。


 豪華で巨大な天蓋付きのベッド。

 その端に静かに腰を下ろしたユキナの隣に、


「なんだか久し振りだね、君が来るのは」


 金髪の青年は躊躇いなく座って、その肩を抱く。


「……はい」


「そう言えば、まだ学園の制服のままなんだね」


 ローレン家の侍女が丹精込めて纏めた。

 そんなユキナの長くサラサラな銀髪に、シスルは無遠慮に手櫛を通して、指の間で弄ぶ。


「……はい」


 無論ユキナは全く抵抗しない。

 学園の制服姿の彼女は、やはり従順だった。

 お陰で機嫌を良くして、シスルは笑みを深める。


「いいねぇ。いずれ、一度はと思っていた趣向だ。それじゃあ覚悟は良いかな?」


「……どうぞ」


 ズイと顔を近付けられても、不快感はなかった。

 しかし、その感情は世の女性達とは異なる。

 美しい勇者、英雄に憧れる彼女達のように……


 ユキナは、自ら望んで従っているのではない。


「ん……」


 ただ、今更だと……そう思うだけだ。


「はっ……」


 唇を重ねただけで、数分の時間を過ごして。

 その後。シスルの手で、ゆっくりと……

 寝台に丁重に寝かされたユキナは、じっと虚空を見つめていた。


「今日は大人しいね。どうしたのかな?」


「…………」


「そっか。言いたくないか」


 青年は覆い被さり、襟元を緩める。

 そこからは互いに言葉はなく、展開は早かった。


 慣れた手付きで衣服を乱され、肌に触れられる。


 どうやら彼は制服を脱がすつもりはないらしい。

 そして布越しに指先で触れられ、なぞられて……

 途端にユキナは背筋がゾクゾクと震えた。


 歯を食い縛り、ユキナは瞼を閉じた。

 そうして、普段通り強く想う。だが……


(あれ……)

 

 その違和感には、すぐに気付いた。

 いつもなら、すぐに訪れる幻視が。幻聴がない。

 帰省して、久々に会った幼馴染を見て。

 取り戻した大切な想いを守ってくれていた。

 そんな存在を、全く感じられない。


「ユキナ、口開けて」


「……っ! は、はい」


 そうこうしている内に、時間切れになった。

 瞼を開けると至近距離にある青年の瞳は紅い。


「あ……っ」


 一度それを認識してしまうと、もう重ならない。

 宝石のように透き通った、あの青い瞳に。

 この世に、ただ一人のはずだった。

 愛する少年に、目の前の青年を置換出来ない。


「ん……ちゅ……あっ……はっ……あぁ……」


 そのまま、口内を舌で蹂躙されて……

 一瞬で、ユキナは現実へと引き戻された。


 折角耐えていた快楽が苦痛に変わっていく。

 なのに身体は、確実に火照っていく……!


(なんで……? なんで、なんで……?)


「あ……あっ♡ あぁ……っ♡」


 暫くして、自由になった自分の声を聞いて。

 その甘い声音が気持ち悪く、醜いと感じた。


「うん、もう良さそうだね。君も久々だからかな」


 涙で滲む視界の中で、青年は笑みを浮かべた。


「う、うぅ……」


 青年の両腕が、スカートの中に伸びて来て。

 するり、と衣擦れの音がした。

 途端、下半身の心許なさに羞恥心が増す。


「さぁ、ユキナ」


 優しい声に、赤い顔のユキナは黙って頷いた。

 すぐに、カチャカチャと金属音がする。

 そんな、青年がベルトを外す音を聞きながら。


(今更……うん、今更だよ……大丈夫)


 無理にでも自分自身を納得させ、鼓舞する。

 実際、今更だ。もう何度も、全て見られている。


『女神様に大人だって認められたら、その夜に』


 幼い頃に約束し、待ち望んだ。

 いつかと夢見て、初恋の少年と大切にしてきた。

 そんな純潔を散らしたのも……この青年だ。

 

 ……そう、今更なのだ。嫌悪感はない。


「いい子だ……そうだ。今夜は君が悩みを話す気になるまで、やめないからね?」


「へっ? あっ……はい……うあっ……」


 だから、ユキナは抵抗せずに受け入れた。

 今までとは違う、一際強い快感に身体が跳ねる。

 豪勢なベッドの上で、自分を押し倒す美麗な男。

 その瞳に映る彼の姿は、やはり……


(ああ、そっか……認めるしか、ないんだ)


 白髪ではなく、金髪で。

 青い瞳ではなく、赤い瞳で。

 中性的で可愛い顔立ちでは、なくて……


 貧しい村で育ち、痩せていた。

 そんな彼にはない絶対的な安心感があった。


(シーナは、死んじゃったんだ……)


 生まれた時から、大貴族。 

 王家とも繋がりのある、公爵家の後継者。

 そして、誰もが憧れる女神に選ばれた勇者。  


「じゃあ動くよ?」

 

 ボロボロになるまで擦り切れた古い服なんて……

この青年は一度も着たことがないだろう。


 そんな、歳上の……勇者様の姿だった。

 

 

 



 

 ゆっくりと流れる、長い時間の中で。

 激しく、たまに優しく。何度も肌を重ねて……

 気付けば壁時計の短針は、三つ程進んでいた。


「まだ話す気になれないかい?」


 最初は拘っていた制服も三度目の時。

 激しい行為中に全て剥ぎ取られた。


 そんな、一糸纏わぬ裸体のままで。

 青年の逞しい左腕に抱かれた銀髪の少女は、


(……今日のシスル様は、いつもと違う気がする)


 青年と共に過ごす穏やかな時間に戸惑いつつも、すっかり気を許してしまっている自分に気付いた。

 

 当初は、幻でも会いたい人が居る。

 それだけが目的だったはずなのに……


「ゆっくりで良いよ? ちゃんと聞くから」


 優しい声で囁かれ、大きな手に頭を撫でられる。

 心地良い。ユキナは素直に、そう思った。

 ずっと昔から夢見ていた状況に、目を細める。


「話します……話させて、ください」


 気付けば、ユキナは自然と口にしていた。

 誰でも良いから、話を聞いて欲しい。

 あの成人の儀から、ずっとそう願っていた。


「良かった。やっと話す気になってくれたか」


「はい……」


 恐る恐る、ユキナは青年の胸に甘えてみた。

 しかし。やはり咎める気はないらしい。

 そんな普段と違う青年の様子に驚き、戸惑い。…


 やっと意を決したユキナは、一度深呼吸をした。


「私は、何の為に戦えば良いのでしょうか?」


 口にすると、ユキナは青年の反応を待った。

 その赤い瞳は力強くて、頼り甲斐があった。

 暫く。そうして、じっと見つめていると……


 ふと、青年は微笑んだ。


「それはきっと、君自身が決める事だよ」


「え……?」


「だって、そうじゃないと意味がないだろう?」


 青年の言葉は不思議と、ストンと胸に落ちた。

 と、同時に。脳裏に故郷の人達の顔が浮かぶ。


「……でも、見つからないんです。私は全部、全部失ってしまったから。だから……」


「だから僕は、君に理由を作ってあげようとした」


 青年に素肌の腹を撫でられ、ユキナは困惑する。

 その言葉の意味が、まるで分からなかった。

 

 金髪の青年は、言い聞かせるように続ける。


「ねぇユキナ。どうして僕が婚前交渉を禁忌とする貴族の習わしを無視してまで、君とこういう関係を持つ事を了承したと思う?」


「え……? それは、私が平民だから……」


「違うよ。分かるだろう?」


 青年に見つめられ、ユキナは観念した。

 きっと彼は、最初から……

 自分が今の立場になる事を予見していたはずだ。


「でも、私には故郷が。恋人のシーナが居て……」


「そうだね。だから正直、嫉妬もあった。だって、君は最初の頃。ずっとそうだったから」


 最初の頃と言えば……故郷に帰りたい。

 誰にでも、そう懇願していた覚えがある。


 だって、やっと待ち望んだ成人を迎えて。

 幼い頃に交わした約束を果たせるはずだった。

 憧れ続けた、彼のお嫁さんになれるはずだった。


 それなのに、突然引き離されて……


 まさか、青年は彼に嫉妬したと言うのか。

 公爵家の後継者で、勇者に選ばれた彼が平民に?


「嫉妬、ですか? まさか、シスル様が……」


「君だって、女神様から特別な寵愛を受けている。君は自分がどれだけ恵まれているか知るべきだ」


 平民、それも辺境の小さな村で育った村娘。


 そんな少女が誰もが見惚れる美しい容姿を持ち、

更には信仰される女神に力を授かって成り上がる。


 剣聖ユキナは、ただの村娘ではない。

 世の全ての少女達が、一度は強い憧れを抱く。

 そんな御伽話のような存在で。


「君は、幸せにならなきゃいけない。誰よりも」


「私が、幸せに……?」


 彼女には、常に幸せを体現して貰わなければ。

 人々に夢を与え続ける存在で居て貰わなければ。

 何故なら、ユキナは女神に選ばれた剣聖だから。

 不幸な表情ばかりされていては、困るのだ。


「そうだよ。その為に皆、手を尽くしていたんだ。やり方は間違ってたけどね」


「……嘘です。そんな訳がありません」


 確かに彼女を巡って、様々な思惑はあった。

 しかし勇者である彼は、全てを知り得ている。

 だからこそ、彼は一つの結論を述べる他ない。


 皆、良かれと思ってやったのだ……と。


「本当だ。君はただ、受け入れるだけで良かった。そうすれば君は今頃……誰もが羨む、この世で最も幸せな女性になれていたはずなんだ」


 そして、思ってもない事を平然と口にするのは、貴族である彼にとって必須技能だった。


「……そんな。だって、私は」


「勿論、君の価値観が最初から恵まれていた僕達と異なるのは分かってる。そうさせた最たる原因が、故郷に残して来た男の子だって事もね」


 青年の手が銀の髪を払い、ユキナの頬に触れる。

 じっと見つめられる赤瞳から目が離せなくなる。


「だから僕は嫉妬したんだ。僕はそれまで、誰にも劣った事がなかった。勇者になる前から、ずっと。誰もが僕を褒め称えたし、誰もが僕を求めていた。だから幾ら美しい君でも、数日程で手懐けられる。僕は初めて君を見た時、そう思っていた」


 青年は知っている。

 この世界は、残酷な嘘で溢れている。


「なのに君は、彼を忘れなかった。こんなに容姿も心も美しい女性は、他に見た事がない」


 だから騙される方が悪いのだ、と。


「……私は、本当に美しいのですか?」


 とは言え、ここまで騙し易い少女は初めてだ。


「うん。正直、見惚れたんだ。初めてだったよ……だから腹が立った。君をあそこまで夢中にさせた、平民の男の存在がね」

 

 真剣な顔で言われて、ユキナは思い出す。

 あの村で休むと決まった時、命じられた言葉を。


 わざわざ村の皆や幼馴染に剣聖の姿を見せ付け、

彼を傷付けるだろう、決別の言葉を選ばされた。


「ここに来てから食生活が変わり、規則正しい生活をして、剣聖として研鑽する毎日……お陰で君は、どんどん魅力を増していった。今の君は凄く綺麗な女性に成長したよ。そんな君が思い続ける幼馴染は一体、どんな奴なのか。憎くて仕方なかった」


 あの日。

 この青年が何故、そんな酷い真似を強要して。

 そして、頑なにやらせようとしたのか。


「そして、実際に彼を見て、初めて思ったんだよ。もしかしたら勝てないかも……って。彼の瞳には、それ程なにか強い意志が宿っているように感じた。ただの平民で、痩せた身体にボロ布を纏っている。そんな、みすぼらしい村人のくせに生意気だって」


 ……やっと。腑に落ちた気がした。


 彼は、大好きな幼馴染は、もう勝っていたのだ。

 あの勇者に、負けを認めさせていたのだ。


「その事が、余計に僕を苛立たせた」


 流石、シーナだ。大好きな幼馴染だ。

 久し振りの暖かい感覚に懐かしさを覚えた。

 勇者の腕の中で、ユキナは嬉しくなる。


「……思えば。シーナは昔から、ズルい人でした」


「今は、我ながら卑怯な手を使ったと思ってるよ。僕は、彼が何も出来ないと承知の上で……」


「でも結局、きっと最初から見抜かれていたのかもしれません……だから彼は、なにも話してくれずに去ってしまったのかも……今は、そう思います」


「……まさか。彼は所詮、ただの平民だよ」


 そう口にしながら、青年は再度。自問自答する。

 まさか。本気で、そう考えてしまう程度には……

 あの少年は、己が価値を示してしまったから。


 最優の騎士。

 女神から唯一無二の権能を与えられた老騎士と、王国の頭脳と名高い宰相。

 その思惑を人知れず切り伏せ、崩壊させる事で。

 そして、彼は颯爽と表舞台を去ったのだ。


 真実は、誰も知らない。

 故に。それは、ただの憶測に過ぎない。

 それでも、やはり考えずにはいられないのだ。


 いつかまた、会える日が来るに違いない。


「はい……ただの平民ですよね。あの勇者様ですら勝ち逃げされた……自慢の幼馴染です」


 取るに足りない矮小な平民。

 そう結論付けるには、あの少年はやり過ぎた。


 辺境の小さな村。その広場で見た、暗い瞳。

 あの時に感じた違和感は、正しかったのだと。


「ユキナ……それでも彼は、もう居ないんだ」


 認めれば、本当に苛立ちが募った。

 自分の声が普段より低い事に気付いたシスルは、整った少女の顔をジッと見つめながら。


 ……密かに口端を上げる。


「君の故郷も、もうない。君が守る為に戦う理由はもうない……そんな君に一緒に戦って欲しいなんて図々しい事を言える資格は、今の僕にはない」


 そうして青年は、また仮面を被った。

 醜い内側を隠す為に、思ってもない事を口にし、発する言葉に説得力を持たせる為に。


 彼はそうやって、醜い本質を偽る。

 全ては人々が望む、理想の勇者で在る為に。


「それでも、僕は勇者で、君は剣聖だから……その事実だけは覆せない。だから戦ってくれないか? 君が愛した人達が生きた証を、この世に残す為に」


 そして。目の前の少女を騙して、もう一度。

 今度こそ、自らの本懐を遂げる為に。


「……では、私の戦う理由になって下さい」


 そんな思惑など知らない少女は、真っ直ぐに。

 決して、青年の瞳から視線を逸らさずに告げた。


「幾ら己を鼓舞しても、失ったものの為には必死に戦えません……私は、弱いから。だからシスル様が証明して下さい。私がこの世で最も恵まれた女性であるなら……こんな私でも幸せになれると」


「……わかった。僕は、どうすれば良い?」


 尋ねられ、少女は悩んだ。

 これを言えば、戻れなくなる。

 自分の選択は、本当に正しいのかと自問した。


『ユキナ』


 その時、少女は遂に望んだ幻視を見た。

 しかし、それはあまりに一瞬で。

 何度もう一度と望んでも、決して蘇らない。


 お陰で少女は、より強く実感する事になった。

 かつて愛した少年は、助けてくれなかった。


 必ず守る、幸せにする。

 そう……何度も約束してくれた癖に……


 彼は結局、最後まで来てくれなかったのだから。


(……ごめんなさい、シーナ)


 そして、少女は選択する。


(……さようなら)


 もう一度、愚かな選択を。

 

 目の前の青年の首に腕を回し、寄り添って。

 曇った瞳に熱を灯し、恋慕の感情を示しながら。

 

「ただ、お側に。貴方の最も近くに置いて下さい。二番目でも、三番目でもなく……皆が憧れる勇者の一番近くに。それならば私は全てを忘れ、この身が果てるまで貴方に尽くすと誓えます。かつて、この世界を平穏に導いた先代のように……私が、今代も剣聖である、この私だけが……貴方様の正妻に最も相応しいのだと証明する為に尽くしましょう……」


 当然、まだ大きな疑心はあった。

 それでも少女は、選んでしまったのだ。

 自分を隣に置き、守り、共に戦える存在を。


 そして、目の前の少女が向ける縋るような瞳に。

 青年は久しく忘れていた感情を抱いた。


(……なるほど。確かに、それは強力な呪いだね。ユキナは僕にも半分背負わせる気か)


 気を抜けば、噴き出しそうになるのを堪えて。

 努めて平静を装った青年は、決断した。


「いいよ。それで君が戦えるなら」


「……本当に構わないのですか? 私は、あの人の代わりになれと言っているのですよ?」


 負けを認めるのか? と問われている。

 私が大好きだった少年は、凄かったろ? と。


 しかし、青年は全く気にするつもりはない。


(馬鹿な娘だ。結局、結果が全てなんだよ)


 やはり我慢出来ずに、青年は微笑んで。


「いいよ。その程度で、君が手に入るなら」


「……そう、ですか」


 途端、少女は脱力した。

 すぐに目を伏せようとした少女の顎を捕まえる。

 そして、再度目線を合わせた青年は唇を塞いだ。


「……あっ」


 すると、ユキナは諦めて瞼を閉じる。

 唇を重ね、舌を絡め、互いを求め合う二人。

 そして、ふと示し合わせたように一度離れて。


「今日からずっと、存分に僕の近くに居ると良い。この部屋も自由に出入りして構わない。いいね?」


「……はぃ。シスル様」


 華奢な身体を押し倒すが、抵抗は全くなかった。

 寧ろ、ユキナは嬉々とした表情を浮かべている。


 月明かりを浴びた美しい少女の汗ばんだ艶肌は、男として強い優越感を青年に与えた。


「代わりに、君は今から僕のものだ。いいね?」


 青年は、その手で少女の柔肌を手荒に撫でた。


「あっ…… は、はいぃ……」


 とろん……と蕩けた瞳で見つめられる。

 その月明かりで彩られた裸体に溜息が漏れた。

 一度でも彼女を目にした者なら、誰もが欲する。

 強く焦がれ、夢に見るだろう絶景だった。


「仕事は、昼食を食べてから頑張ろうか」


「へ? あ……はい……」


 言葉の意味を理解して、ユキナは頷いた。

 彼女の碧眼には、もう目の前しか。

 その金髪の青年の姿しか映っていなかった。


「……きて、ください。はやく……忘れさせて」


 何の躊躇いもなく、少女は自ら両脚を開いた。

 そうして、青年を受け入れる体勢を整えて。


「貴方の覚悟を、示して下さい……シスル様」


 今宵も既に何度も青年を受け入れ、繋がった。

 既に主人を覚えた己が身を見せつけるように。


「お願いします……忘れたいんです……全て」

 

 今の彼女には、あれほど守りたかった想いは。

 かつて夢にまで見た幸せな未来は、もうない。


「わかってるよ」


「あ……あ、あぁ……っ」


 青年は、そんな願いを叶える為に動き出した。

 そして、僅かにあった邪魔でしかない残り滓は、


「君は、今日から僕の妻だ」


「うくぅっ……」


 何度も経験済みの、その瞬間……

 青年と一つになった快楽と共に、完全に消えた。


「あ……あぁ……あっ……いぃ……いぃ」


 頭の中に流し込まれた電流が塗り替えていく。

 思い出が、気持ちが、大切なものが壊れていく。

 少し前までは、嫌で嫌で仕方なかった感覚だ。


 そのはずなのに……今は、


「あぁ……あ……っ! きもち、いぃ……」


 認めてしまおう。拒む必要なんて微塵もない。

 不思議と、そう思えて……


(……さよなら、シーナ)


 残っていた恐怖心は、跡形もなく消え去った。


 


 



 あとがき



 後半部分が過激過ぎたから削除した……




 なろうならアウト、カクヨムならギリを攻めた。

 プロット作成中は諦めていた描写です。


 ユキナを救えってコメント欄が喧嘩してたから。


 お望み通り、救 っ た よ? 


 快楽堕ち出来て良かったね?


 優しい作者ですから←



 あ、物を投げないでください。やめてっ!



 シーナが運命を受け入れないのは嫁のせいです。

 ここで解説しますと、流石は運命の相手。

 初めて見た時にメルティアに一目惚れしてます。

 正直、性格も容姿もミーアより好きなくらい。


 だから、シーナは最近おかしいです。

 ミーアを可愛い可愛いと思い続けてる訳ですね。

 情事に積極的な理由も然りです。


 幸い、ミーアも気付いて頑張ろうとしてます。

 彼女は空回りするほど馬鹿じゃない。

 お陰で彼も精神的にも助かってる状態です。


 もし、ぶっ殺されたら全部解決します。


 ユキナも正直悪くないです。

 シーナとユキナが逆の性格だったら、簡単に解決出来ちゃいます。


 はい。質問受け付けてます。


 作者への文句はTwitterまで。



 ちなみに今回は、二万字以上あります。はい。


 書いてる最中にマウス握り潰しちゃった。

 買わなきゃ。

 



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