第84話 強いられた冤罪

 木の裏に隠れ、一部始終を見守っていた二人は、二十六の騎士を瞬く間に殲滅した少年の姿を目に焼き付けていた。


 村の広場に転がり伏せた亡骸。その血に染まった少年は、白い髪を赤く染めて立ち尽くしている。


「メルティア様。彼はやはり、この世界でも強者の部類に入るようです。凄まじい速度でした」


「……うむ」


 愕然とした表情で呟いた白雪の言葉に、メルティアは頷いた。

 てっきり出番があると身構えていたのだが、その心配が杞憂に終わったのだ。

 それが嬉しくもあり、悲しくもあった。


「シラユキ。争わずに互いに手を取り合う。妾の思い描く理想は、甘い幻想でしかないのじゃろうか」


「……そう、かも。しれません」


 少女の寂しそうな声に、シラユキは肯定することしか出来なかった。

 目の前でこんな凄惨な光景を目の当たりにされては、否定する事なんて出来なかったのだ。


「言葉が通じても、思想が違えば敵対し、捻じ伏せるしかない。私には、彼がそれを……身を以て示したようにも見えます」


「……そう、じゃな」


 二人の脳裏に浮かぶのは、自国の大陸。その端に点在する村だ。


 この世界に来てから、侵攻を受けた村の様子は悲惨の一言に尽きた。

 村人達は殺害され、略奪され、若い女子供は拐われてしまった。

 しかし、いつか分かり合える日を夢見るメルティアは、報復はしないと決意し、宣言した。

 戦っても、異界に飛ばされた彼女達の現況の戦力では勝ち目はない。


 しかし。

 勝ち目がないと思える戦況をひっくり返す。

 目の前で。そんな光景を見せられてしまえば。


 自分のやろうとしている事が、愚かな行為だと叱責されているような気になって。


「……力が。守護者が、必要じゃな。妾にも」


 思わず呟いたその言葉に、シラユキが反応した。


「何を言われますか! 私は反対です。メルティア様があんな奴に嫁ぐなど、許せません」


 激昂しつつ、悲壮な顔で言うシラユキ。

 そんな彼女に、メルティアは静かに告げた。


「仕方無かろうて。剣の選定には、逆えん」


 メルティアの瞳に映る広場では、血溜まりの中に立ち尽くす少年に、一人の少女が駆け寄っている最中だった。


「シーナ!」


 緑髪を風に揺らし、息を切らせて。

 彼女は血濡れた姿も厭わずに少年に抱き付くと、その唇を奪った。

 もう限界だったのだろう。

 少年は背から地に倒れ伏せ、押し倒された格好で為されるがままになっている。


「見よ、シラユキ。微笑ましい光景じゃ。やはり、背を押した甲斐があったな」


「……メルティア様」


 人目も憚らず、愛し合う男女。

 

 そんな二人に羨望の瞳を向ける主を見て、シラユキは唇を強く噛んだ。


 何も言えない。己の無力さを悔いながら。

 





 見慣れた村の広場は、凄惨な光景になっていた。

 

 騎士甲冑を身に纏い、首を失った亡骸。

 流れた血で染まった土。

 この広場は、幸せな思い出ばかりのだったのに。


 俺は、その中央に立ち尽くしている。


 悲鳴を上げる身体は激痛を訴えていて。

 胸中からは、激しい動悸を感じた。


 両手に握った騎士剣は、未だ手放せずにいる。


 速さを求めた双剣。

 奴等の誇りとやらで、その存在を埃のように払ってやったのだ。

 物言わぬ肉塊。地を転がる奴等を見ても、それ以上の価値は見出せなかった。


「ざまぁ、みろ……」


 血塗れのまま、呟く。

 口内は、鉄を舐めた様な……血の味がした。

 人間の血の味に、慣れてしまっている。


 全く嫌悪感がないので、そう思った。


 そうだ……皆は。

 村の皆は、無事だろうか。

 今後の事を、一緒に考えなければ。


 そう思い、視線を向けて気付いた。


「ひっ……」

「あ……あぁ……」

「オェ……オエェ……」


 村の皆は、酷く怯えた顔で俺を見ていた。

 騎士達の亡骸を見て、吐いている人も居る。

 優しかった笑顔は、何処にもなかった。


 俺は皆を救いたくて戦ったのに、誰も俺を認めていなかった。

 それが嫌でも、分かってしまって。


「シーナ! お前、なんてことをっ!!」


 不意に怒鳴り声がして見れば、コニーおじさんが俺を睨み付けていた。


「あなた! やめてっ! 何も言わないでっ!」


 おじさんと同じく、縄で縛られたままのシロナおばさんが彼に縋り付いている。

 しかし、おじさんは妻の言葉に。まるで聞く耳を持たなかった。


「煩い! よく聞け、シーナ! お前のせいで、この村はお終いだ!」


 怨嗟の声を吐くおじさんの言葉を、俺は黙って聞く事にした。


「お前が魔人を連れて来たせいで騎士がやって来て! 私達は異端者にされた! その上、お前はその騎士を殺したんだ! 幾ら剣聖でも、ユキナだって責任を問われるかもしれない! どうしてくれるんだ!」 


「やめてっ! あなた! やめてぇっ!!」


 それは、聞くに耐えない言葉だった。

 この状況でよくそんな口が叩けるな。

 本当に愚かだったのか、この人は。


「…………」


「……っ! なんだ!? 言いたい事があるなら、言えば良いだろう! この背信者が!」


 睨むと、おじさんは分かり易く狼狽えた。

 

 しかし、おじさんの言う事は的を得ている。

 俺は、王国を。人間を裏切ると決めた。

 魔人を連れて来たわけではないが、守る為に騎士を殺した。


 この事実が明るみに出れば、この村はただでは済まない。


「シーナ!」


 しかし、俺の推測が正しければ。

 一つだけ、間違っている事がある。


 このまま放置して、誤った考えのまま殺される。

 その方がこの人は、幸せで良いのだろうが……。


「シーナー!!」


 昔馴染みのよしみだ。

 その誤った考え、正してやろう。


「おじさ……ぐっ!?」


「シーナ!」


 足元の老騎士にの亡骸を漁ろうとした時。俺の首に抱きついて来たのは、ミーアだった。


 途端に全身に激痛が走り、膝が折れそうになる。


「ミー……んっ!」


「んん……!」


 更には、唇を塞がれた。

 体重まで掛けられれば、今の俺では耐え切れない。

 あっさりと押し倒されてしまう。


「んん……じゅる……ぺっ! んんっ!」


 俺の口周りについた血を吸い舐め取って吐き出し、ミーアは口内に舌を入れてくる。

 

 待て待て待て……っ!

 今はこんな事してる場合じゃ。


「はっ……んぁっ……んっ! んん……」


 視界には、必死に俺の口を啄む女の子の顔。

 鼻を擽る甘い香りが、俺から抵抗する意思を奪って行く。


 やだ……みんなが……見てるのにぃ……。


 暫くそうしていると、不意にミーアが顔を上げた。


 やっと解放してくれた……。


「ミーア……お前」


「心配して損した。あの最優の騎士を一方的に……流石、私の旦那様ね。格好良かったわよ」


 紅潮した顔で、ミーアは言った。

 えーと。確かに、恐れないとか言ってたけどさ。

 こいつも大概、やばい女だと思う。


「帰ったら、いっぱい慰めてあげるわ」


 …………。


 やめろよ。そんな顔で、そんな事言うの。

 命のやり取りをした後だぞ? 

 嫌でも昂るだろ。男の子舐めるなよ。


「良い加減にしろっ! 私達への当て付けのつもりかっ!」


 おじさんの怒鳴り声がした。

 ……これは俺達が悪いと思う。


「お前は良いよな! そんな可愛い貴族の娘に好かれて! それも、あのクリスティカ子爵家の令嬢だと!? ふざけるのも大概にしろっ!」


 凄い怒ってるじゃん。おじさん。

 幾ら俺の彼女が可愛くて貴族の……ん?


 ……ん? んん?

 ちょっと待て。初耳なんだけど。

 クリスティカ子爵家って。王国のどの街にもある商会の元締めをしてる名家じゃないか。

 俺も買い物したぞ。狩猟用ナイフを一本な。


「ミーア? どういう事?」


「気にしなくて良いのよ? シーナは」


 ミーアは、チュッと俺の頰に口付けた。


 ……こいつ、隠そうとしてやがる。

 

「いや、そういう訳には……」


「あの人と私、どっちが大事?」


 ……卑怯だろ、その聞き方は。

 そんなの天秤に掛けるまでもないじゃないか。

 そっちがその気なら、聞き方を変えよう。


「……因みに、リリィって何処で買ったんだ?」


 突然買ってきた馬の名を出すと……。

 

 ミーアは、ふいと顔を逸らした。


「言ったでしょ? 親切な人に譲って貰ったのよ」


 ……成る程。そりゃあ、親切にもなるよな。

 だって、商会主の愛娘だもん。

 こいつも隠し事してたのかよ。信じらんない。


 道理でやけに教養があると思ったよ……。


「なによ。もう抱かれたから、返品不可です」


「やられた……」


 商人の娘らしい言葉で言われれば、追及は出来ない。

 貴族令嬢は結婚まで純潔を重んじると聞いていたから、誘惑されて安心していたのに。


 道理で必死に誘って来たわけだ。


 なんで冒険者なんかやってるんだよ。

 お陰で抱いちゃったじゃん。どうしよう。


 俺。貴族の女の子、嫁に貰うのか。


「見損なったぞ、シーナ! 幾らユキナに捨てられたからと言って」


 人が折角感慨に耽ってるのに、煩いな。


「次、口を開いたら首を斬り飛ばすぞ?」


 あまりに不愉快なので喚くおじさんを睨む。

 途端。おじさんは、分かり易く怯えた。


「な……な、な……」


「こら、シーナ。弱い者いじめは駄目よ?」


 ミーア。お前のその発言が、一番酷いと思う。


「別に俺を貶すのは構わない。だが、ここにはミーアが居るんだ。あんたの勝手で的外れな考察は聞くに耐えないからな。黙ってろ」


 萎縮したらしく、俯くおじさんを睨みながら低い声で脅す。

 すると、今度はおばさんが俺を睨み付けてきた。

 

「シーナ。あなた、そんな言い方!」


「ミーア。ちょっと退いて? 少し話すから」

「うん」


 シロナおばさんの叫び声を聞き流しながら、ミーアに身体の上から退いて貰う。

 その後、立ち上がった俺は騎士剣を手に二人へ近付いた。


「あ……ああ、あああ」


「や、やめなさいっ! 私達が悪かったから!」


 縄を切ってやろうと思っただけなのに、怯え過ぎだろ。

 そんなに怖いのか? 俺は。

 気になって周りを見れば、他の皆も固唾を飲んで見守っている。

 どうやら、俺の反感を買いたくないらしい。


 ただ一人。


「馬鹿者。シーナは縄を切ろうとしとるだけじゃ」


 村長の爺さんを除いて。

 俺は怯えた表情のまま、大人しくなった二人の縄を切ってやった。

 続いて、爺さんの縄も切った。


「すまんな、シーナ」


「構わない。それで爺さん、こいつら、なんで来たか分かるか?」


「分からん。罪状を読み上げる前に掃除してしまったからな」


 成る程。もう少し待った方が良かったのか?

 いや、ミーアがもう余計な事をしていた。

 致し方ない。


「お前、ホント容赦なくなったの? 街でどんな生活してたんじゃ」


「盛りの付いたネズミの駆除を少々な。罪状を読み上げるって言ったな。その紙は?」


「最優の騎士殿の胸元じゃよ」


 言われて見れば、既にミーアが老騎士の胸元に手を突っ込んでいた。


 あいつ、死体に触るなよ。

 本当なら見せたくもないのに。


「これね。うわ……汚いわね」


 血に濡れた羊皮紙を見て、容赦ない事を言う。

 まるで塵でも触ったような、心底嫌そうな顔だ。

 そんな彼女が、俺は好きだ。


「読んでくれ、ミーア」


「うん。えーと……」


 暫く黙って羊皮紙に目を走らせたミーアは、気不味そうな顔をあげた。


「要約で良い? 流石に異端者とか言われるの嫌でしょ? 皆」


「それで良いよ。内容を簡潔に纏めてくれ」


 周囲を見て確認しようとしたミーアに、俺は間髪入れずに言った。

 長々不愉快な文章を聞く必要はないからな。


「酷いわよー? これ。要約するとね。コニーさんとシロナさんは、赤ん坊の時のユキナ様を誘拐した犯人で、彼女の真の血筋はローレン家でした。だから村ごと焼き払って断罪します、だって」


「えっ!?」

「そんな!」


 いや、滅茶苦茶過ぎるだろ。

 ミーアの説明も分かり易過ぎて驚いたな。


 ……流石。貴族のお嬢様。

 今夜は全部吐くまで、虐めてやるからな?


「あー……二人共。言いたい事はあるだろうけど、分かってるから黙ってろよ。話がややこしくなる」


 良かった。俺、間違ってなかった。

 こいつらは斬って、死んで当然だ。


 そんなことを思いながら、騒ぎそうだった二人に釘を刺して置く。


「馬鹿ねー、狙いは歴史の改変ってわけ? まぁ、いずれやるだろうなって話は、ふわって聞いたわ」


 ……お。口を滑らせたな? ミーアの奴。

 そんな情報、普通は手に入らないんだよ。


「へぇ。何処で聞いたんだ? そんな話」


 尋ねると、ミーアは羊皮紙で顔を隠した。


「……去年。親切な人が教えてくれたのよ」

 

 ……なるほどー。また親切な人か。


 冒険者になる前、貴族の社交場で聞いたらしい。


「そういう事だ。この村全員、あの女に裏切られた訳だな」


 ユキナの両親、村の皆の順で見渡す。

 皆、絶望した表情を浮かべていた。

 今に始まった事じゃないだろうに。今更かよ。


「あ、あの女って。そんな言い方は、やめろっ!」


 狼狽えていた癖に、未だ娘を守ろうとする父親を俺は睨んだ。


「あの女だよ、コニーさん。あいつは勇者に股を開いて、権力に尻尾振って故郷を焼こうとした馬鹿女だ。二度と名前なんざ呼びたくねー」


「やだ、良い事言うじゃない。流石私のシーナね」


 感激したらしく、ミーアが嬉しそうに抱き付いてくる。


 真面目な話してるんだから、くっ付くな。

 大体。もうお前、血塗れじゃないか。


「あ。書いてあったけど、証拠として記憶水晶に過去を保存しているらしいわ。見る?」


 なんだそれ。面白いものがあるじゃないか。


 記憶水晶は非常に高価で貴族にしか出回らないと話に聞いた。

 だから、見た事ないんだよな。見たい見たい。


「それは面白そうだな。探してくれ。皆で見よう」


「分かったわ」


 ミーアが、また老騎士の遺体を漁り始めた。

 本当にこいつ、俺の言う事なんでも聞くな。


「あ。あったわ。これね」


「それじゃ、馬鹿女の上映会やるかー」


 老騎士の腰回りを探っていたミーアの手に、透明な水晶が掲げられた。

 それを見て、俺は村の皆にお楽しみ会の開催を告げる。


「だから、そんな言い方はやめろっ!」


「あなた。黙りなさい! これ以上、恥をかかせないでっ!」


 激昂するおじさんをおばさんが必死に宥めている。

 往生際が悪いな、あんたの娘は屑なんだよ。


 もうコニーとシロナで良いや。面倒臭い。


「シーナ。私、魔法士の才はないの。お願いして良い?」


 あ。そう言えば。

 水晶を使うには、法力が必要だったな。


「分かった」


 ミーアから水晶を受け取り、法力を込める。

 すると水晶が光って、現れたのは……。


『国民の皆様。本日は陛下の誕生式典にお集まり下さり、誠に有難う存じます』


 城のバルコニーに立つ、着飾った姿のユキナだ。

 結構、綺麗に映るもんだな。

 成長したユキナは、やはり。更に美しさに磨きがかかった気がする。


「へぇー。これが剣聖ユキナ? 凄い美人ね?」


 水晶を見たミーアが、凄い顔で俺を睨んできた。


 ……間違えるなよ、俺。

 ここで間違えたら即死だ。


「お前の方が可愛いよ」


「へ? もう。ばか♡」


 照れたミーアから、ポカッと肩を殴られる。


 良かった。ご機嫌だ。

 間違えてたら顎を本気で撃ち抜かれそうだもん。


「あぁ……! ユキナだ! ユキナが映ってる!」

「ユキナ……綺麗になって……っ!」


 ドレス姿のユキナを見て、二人が水晶に寄ってきた。


 半年前に見たばっかりだろうに。

 親馬鹿を発揮している二人はさて置いて、俺は隣のミーアに尋ねた。


「ミーア。ここは?」


「王城よ。そう言えば、陛下の誕生日だったわね」


「そうか。今年は出なくて良かったのか?」


 尋ねると。ふい、と顔を逸らされた。

 こいつ……中々しぶといな。


 それから暫く見ていたが、内容はミーアが言ったものと変わらなかった。

 問題なのは、国王の前で。国民全員に向かって、本人が言っている事だ。

 馬鹿だとは言ったが、ここまで馬鹿とは思わなかった。


 水晶が消えたので見れば、問題の馬鹿女の両親は口をパクパクさせている。

 大丈夫か? 呼吸、出来る?


 村の皆なんて泣き出してるよ……。


 二人を内心馬鹿にしていると、ミーアが肩をちょんちょんと叩いて来た。

 視線を向けると、彼女は呆れた様な表情で。


 水晶を指差して言った。


「あんた。こいつのどこが好きだった訳?」


「言わないでくれないか?」


 酷い。言葉の暴力だ。

 容赦なさ過ぎるだろ、この女。


「だって、こんな……酷過ぎるわよ?」


 呆れてものが言えない、と言った雰囲気のミーアの右手を、俺は両手で包む様に握った。

 そして、真っ直ぐに目を見つめてやる。


「こいつのお陰で気付いたんだ。俺は、ミーアみたいな賢くて強い女の子が好きなんだって」


 すると彼女は、照れたらしく頬を紅潮させて。


「そう。本当に良い子ね。あんたの幼馴染」


 最近、ミーアの扱いが上手くなった気がする。 

 ちょっと褒めると、割とすぐに掌を返すのだ。


 ……なんか俺、悪い男になってきてないか?


「あら、シーナ。あんた……」


 俺の手を見て、ミーアが気付いたらしい。


 震えているのだ。実はかなり辛い。

 今回は最長だったからな。異能を使うの。

 走った距離も、使っていた時間も。


 お陰で、全身が悲鳴を上げている。


「ごめん。そろそろ限界」


 強がっても仕方ないので小声で言うと、ミーアはジッと俺を見つめて。


「ホント強がりね。分かった。任せて」


 力強い瞳を見せてくれ、俺の手の上に左手を重ねてくれた。


 すぐに村の皆へ顔を向けたミーアは叫ぶ。


「あー、皆様。各々思う所はあるでしょうが、話の続きは明日。日没後に集会場へ! 私も彼もご覧の通り、酷い格好です! いつまでもこのままでは衛生上、良くありません! まずは落ち着いて。各人、心中の整理を致しましょう! 本日はゆっくりとお休み下さい! では、私達は失礼します!」


 そんな挨拶で強引に場を締めたミーアは、俺を見て小声で言った。


「大丈夫? 肩貸そうか?」


 ……本当に。

 気遣いが出来る良い子になったな。


「大丈夫。帰るまでは、頑張る。家に帰ったら、色々頼むよ」


 俺の強い所に惚れてくれた女の子は、力強く頷いて。


「わかった。お疲れ様、ゆっくり休んでね」


 俺の弱いところも、受け入れてくれた。

 全く……命を賭けて取り戻した甲斐があったな。









 夜中に目覚めた俺は、戦って昂った身体を持て余して……。

 甘えてきたミーアに慰め、癒して貰った。


「おい。貴族令嬢なんて聞いてないぞ。吐け」


「あっあっ……ちが……っ! あっ♡」


「お前も隠し事してたんだな。お仕置きだ。ほら、早く認めろって」


「んあ……♡んん……っ! はぁ……いぃよぉ……あんっ♡」


 虐めてやると、ミーアは凄く悲しんで……。

 

「もっと……して……?」


「え」


 肝心な事は頑なに認めなかった。






















 ノクターンは書きません。

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