第23話 突然の訪問者。


 冒険者活動を休止して十日が経過した。


 最初の数日はミーアが宿に訪ねて来て執拗に依頼に誘って来たり、テリオやガルが遊びに誘ってくれたりしたが、ここ数日はパッタリと途絶えている。


 お陰で、俺は暇を持て余していた……訳では無い。


 朝から昼までパン屋の店前に立ち、夕方から夜中まで飲食店で仕事を終えた人々や冒険者達の相手をする毎日。

 日中は鍛練も欠かさない。

 街に来てから数ヶ月。働かせて貰っていた職場のお陰でそれなりに忙しく充実した日々を過ごせていた。

 だが、欲を言えば一日でも早く外に出て冒険したい気持ちは消えず、情報収集は怠っていない。


 とは言え。街の中でやれる事は限られている。

 自由に使える時間でギルドに顔を出したり新聞を購読したりしている程度だ。当然、得られる情報は無いに等しい。


 どうやら未だ行方不明者は誰一人見つかって居らず、大きな進展はない様子だ。

 このままだと暫くは冒険者稼業に戻れない。

 僅かだが、焦りを感じ始めていた。

 近い内にせめて原因くらいは突き止めて欲しい所だ。

 新種モンスター。魔人等の魔界関係は是非とも否定されて欲しい。


 内容次第では行方不明者捜索の依頼は受けても良いものになる。

 そうなれば俺も冒険者稼業を再開することが出来るのだが、


「んー。はぁ。今日も疲れた」


 深夜。

 飲食店の仕事を終えた俺は、暗い夜道を宿へ向かって歩いていた。

 頼りない明かりを頼りに、足元に注意を払いながら進む。

 日中の喧騒が嘘の様な静寂の中。腰に下げている剣が小さな金属音を奏でていた。


 部屋を借りている宿に到着した。

 年季の入った木製の扉が印象的な玄関前は、こんな時間でも人が入って来れる様に蝋燭が灯されている。

 四段の石階段を登り、扉を開く。

 中に入り扉を閉めた俺は、今日も一日働いた自らの疲労感を労わりながら、身体を清める為に湯の入った風呂桶を購入しようと受付へ向かう。


「あっ! ちょっと君。シーナ……シーナくんだよねっ!」


「っ!」


 突然。右側から音声の殴打を受けた。


 一瞬で日常を破壊した声は清涼で、名前を呼ばれたのでそちらを向く。

 視線の先にあるのは、食事処だ。 

 そこに、椅子を押し退けて立っている者がいた。

 今の声は、彼が発した物らしい。


「そうだけど。あんたは?」


 男の容姿を観察しながら、尋ねる。

 蜂蜜色の髪に、赤い瞳。


 背格好から、恐らく男性なのだろうが……。

 女性だと言われても不思議に思えない中性的な整った顔。

 少なくとも、女性だと言われても俺は受け入れられる自信があった。

 声も女性でも違和感の無いものだ。

 身体の線も細く男性にしては華奢な気がする。

 だが、少し目を凝らして観察して見れば分かる。

 服装の上からでも身体付きがしっかりしている事に気付いた。

 結構筋肉質だ。少なくとも俺より逞しい。

 腰には青鞘に収まった片手剣が下がっている。

 得られた情報から、相手が冒険者の青年で俺と同じ速度重視型の軽剣士だろうと考察出来た。

それも、間違いなく俺より格上。冒険者としては数年先輩だろう。


 青年は自身の胸に手を当てた。


「僕の名前はアッシュ。ミーアの仲間の一人、と言えば分かるかな?」


「え? あー、貴方がアッシュか。話は聞いている」


 彼は自ら、ローザの仲間だと告げた。


 話には聞いていたので頷く。

 確証は無いが、こんな嘘を吐く理由がある様に思えない。

 彼が唯一まだ出会ってなかった彼等の仲間。最後の一人か。

 休養理由は、家族の事情で別の街にある実家への帰省。

 若い男性と聞いていたので、性別も間違っていないようだ。

 それが何故、こんな夜中に俺の元へ来たのだろうか。

 疑問に思っていると、アッシュはホッとした様子で溜息を吐いた。


「良かった。話が早くて助かるよ。疲れている所悪いんだけど、とりあえずこっちに来てくれないか? 話す時間が欲しいんだ」


「……それは構わないけど」


 返答し、周囲を見渡す。

 他に誰も居ない見慣れた場所。

 普段はこの時間でも受付に座って編み物や居眠りしている看板娘。リズも珍しく不在している。

 ……サボりかな?

 不思議に思いながら、誘われるままにそちらへ行き、対面の椅子を引く。


 腰を下ろすと、アッシュはもう一度。安堵したように溜息を吐いた。


「良かった。話には聞いて居たけど、本当に居た。あぁ、自己紹介がまだだったね。さっきも名乗ったと思うけど、アッシュだ。宜しく」


 微笑んで、アッシュは右手を差し出して来た。

 

「……シーナだ。こちらこそ宜しく」


 手を握って軽く振り、離す。


「それで、用件はなんだ?」


 挨拶の後。早速要件を尋ねる。

 突然訪ねて来て、こんな夜中まで待っている位だ。

 余程重要な用件があるのだろう。


「あ、うん。じゃあ早速……シーナくん、君。ローザ達の行方を知らないか?」


「ローザ達の行方? 何だ、どういう事だ。まさか……帰って来てないのか?」


「うん。僕、二日前にセリーヌに戻って来たんだけど、連絡が取れないんだ。ローザじゃなくても良い。ガルジオ、ティーラ、ミーア。誰でも良いんだ。知らない、かな?」


 不安気な顔で、弱々しい声音。

 様子を見る限り、本当に連絡が取れないらしい。

 以前。ローザは基本的に泊まりの依頼は受けないと言っていた。

 理由は言わなかったが、恐らく。仲間に女性がいる事を配慮しているからだとガルは言っていた。

 だから必ず毎日。街に戻ってくる筈。


 ……嫌な予感がした。


「すまない、知らないな。あぁ、テリオの名前がないようだが、あいつは?」


「あぁ、うん。テリオとは会ったよ。風邪を引いて寝込んでいたんだ」


「なに? 大丈夫なのか?」


「うん。もう治ってるみたい。元気そうだったよ」


 テリオ。風邪引いて寝込んでたのか。

 水臭い奴だな。言ってくれれば買い物くらい手伝ったのに。


「そうか……ギルドに確認はしたのか?」


「それは勿論。最後に受けた依頼は、行方不明者捜索と原因究明の依頼。何でも、緊急依頼で今は常駐らしいね」


 実入りが良く暫く続けると言っていたから、この話自体は予想通りだ。


 ……糞。やはり嫌な予感がする。


 皆に限って迷子になったなんて、素人みたいな失敗をしているとは考え辛い。

 街に居ないとなると、何か帰れない理由があるのだと予想するのが自然か。

 それに。俺は兎も角、あいつらが仲間のテリオに何も言わず泊まり込みで捜索しているとは到底思えない。

 そもそも、あの依頼は毎日帰還報告をしないと報酬が出ない筈だ。

 危険な森の中で野営してまで粘る理由は無い。


 ミーア。お前、大丈夫だよな?


 気付けば俺は、右手を強く握っていた。


「……分かった。教えてくれた事、感謝する。残念だが話す事は無いな。では、これで失礼する」


 本当は今直ぐにでも探しに行きたいが、流石に遅い。


 既に街の門は閉ざされ、外に出る事すら叶わないだろう。

 非常に歯痒いが、焦っても仕方がない状況。

 今晩出来るのは、捜索の準備を整え身体を休める事だ。

 探しに行かないという選択肢は無い。

 外は危険なんて言ってる場合じゃない。

 皆には世話になっている。このまま何もせず見捨てるつもりはない。

 母さんは言っていた。他人に受けた恩は時間が掛かっても良いから、必ず返せと。

 今がその時だ。

 立ち上がり、部屋に戻ろうとする。


「ちょ、ちょっと! 待ってくれ。やっぱり何か知っているのかい? 随分慌てた様子だけど」


 呼び止められ、仕方なく足を止める。


 邪魔するな、と思ってしまい。少し苛々してしまった。

 振り返りアッシュの顔を見て、唇を噛む。口に出しそうだったのを堪える。

 駄目だ、この人は悪くない。

 この感情は俺の我儘だ。吐き出してはいけない。


「はぁ……」


 言葉の代わりに、深く息を吐く。

 僅かだが気持ち悪さが収まった。

 途端。何か言わなければ、という衝動に駆られた。


「……先程も言ったが、生憎。俺は何も知らない。だが、懸念していた事がある。だから俺は、あの依頼を受ける事を反対していた」


 言葉にした途端、何故俺はあの時。皆を止めなかった。と後悔した。

 握っている拳に力が篭る。


「こうなる可能性は充分にあった。何も驚く事じゃない。帰って来ないなら探しに行けば良いだけの事だ。手紙を貰っていたなら知っていると思うが、俺は貴方の仲間に大きな借りがある。このまま何もせず見捨てるつもりはない」


 そう告げる俺を、対面に座る青年は目を見開き口を半開きにして見ていた。

 少し呆気に取られている様子だ。

 構わず続ける。


「明日から捜索に入る。こんな夜分遅くここを訪ね、情報提供してくれた事。感謝する。ありがとう。貴方が良ければ、今後も何か分かったら教えてくれたら助かる。では、準備をするのでこれで失礼する」


 頭を下げ、踵を返す。

 もう恐いなんて言ってられない。

 早速。まずは何をすれば良いのか、思考を巡らせる。

 絶対に連れ帰る。この際生死は問わない。その為には、入念な準備が必要だ。

 行方不明になってからどれ程経っているか分からない。

 既に手遅れかもしれない。

 だが、それでも良い。

 その場合。亡骸くらいは見つけて連れ帰り、ちゃんと弔ってやりたい。

 獣の餌になんて、して堪るか。

 最も、それは最悪の場合の話だ。

 大丈夫だ。あいつらは強い。一番歳下のミーアも凄腕の弓士だ。きっと生きてる。

 後ろ向きな事を考えるな。

 酷い焦燥感に駆り立てられているのが、自分でも分かる。

 今すぐにでも飛び出したい気持ちを自分に言い聞かせながら必死に抑える。


「ま、待つんだ。そんな事僕だって知ってるよ。だけどもし違ったら……君が何か知っていたら良いなと思って、ここに来ただけなんだ。少し落ち着けよっ!」


 階段へ向かって始めると背後から大声で呼び止められた。

 再度足を止め、振り向く。


「俺は落ち着いている。あぁ、そうだ。アッシュ。この事は憲兵団とギルドに通報しているのか?」


「えっ? う、うん。勿論ギルドには報告してるよ。憲兵団はまだだけど」


 流石にギルドには報告しているか。

 明日、憲兵団セリーヌ支部にも報告して捜索依頼をする必要があるな。


「そうか。他にも分かってる事があるなら情報をくれ」


「え? 情報って言われても、何も分からないからここに来たんだよ」


 アッシュは、弱った表情で言った。

 そんなこと分かってるんだよ。

 もう少し頭使って話せ、苛々する。


「あいつらが最後に依頼を受けた日で良い。それくらいは聞いてるんだろ?」


「あ、うん。三日前の早朝だって。僕がこの街に来る前日だよ」


 言われてみれば、その前日ぐらいから急に誰も来なくなった。

 糞。何で不思議に思わないんだ俺は。

 三日か、結構経ってるな。

 あいつらは普段。もしもの時の為に翌日、昼までの食料と水を携行している筈だ。

 必然的に食料と水が尽きて一日半経過している事になる。

 人間、食べ物は二日くらい我慢しても何とかなるが、水分不足は不味い。

 その状態で装備を背負って動くのは相当辛い。何より危険だ。

 無事なら流石に現地調達に成功していると思うが。


「わかった。他に聞きたい事は無い。お引取り願おう。あぁ、出来ればテリオにお大事にと伝えておいてくれ」


 踵を返すと、椅子が跳ねる音がした。

 アッシュが立ち上がったらしい。


「もう帰れって……まさか一人で探しに行く気? 無謀過ぎるよ」


 無謀、か。

 思わず足が止まる。

 確かに無謀だ。俺一人で見つけられる可能性は限りなく低い。

 だけど、


「何もしないよりマシだ」

「アテはあるの?」


 振り向いて、アッシュの顔を見て、少し俯く。

 アテなんて、ある訳がない。

 せめてセリーヌを出て、どの方向へ行ったかだけでも分かれば良いのだが。

 何か手掛かりくらいは無いものか。

 空から都合よく落ちて来たりしないかな。


「そんなものあったら、苦労しない」


「じゃあアテもなく探すつもり?」


「そう、なるな」


「はぁ……まぁそうだよね。そうなるよね。よし、シーナ」


「何だ?」


 溜息を吐いたアッシュは、ピッと俺を指差した。

 その仕草がミーアに酷く似ていて、少し驚く。

 二人は、仲が良いのだろうか。


「明日の早朝。依頼が張り出される時間に、ギルドに集合だ。くれぐれも遅刻しないでくれよ」


 考察していると、一方的に言われる。

 何だこいつ、勝手に仕切り始めたぞ。

 仕草がミーアなら性格もミーアか?

 勘弁してくれ。


「何でお前の指図を受ける必要がある?」


 目付きを意識して鋭くする。


 言い方はキツイが、彼の為だ。

 俺と一緒に探そうと言う意味みたいだが、ローザの仲間という事は間違いなく俺とは比べ物にならない経験と腕を持っている筈。


 それに、女神の祝福とやらも保持しており、使いこなしているに違いない。

 間違い無く足手纏いになる。俺が。

 別々に捜索した方が良いと思うのだが。


「えっ、あー。うーん」


 断られたのが意外だったらしく、アッシュは少し悩む仕草を見せる。

 ここで押し通そうとしない辺り普通だ。

 性格はミーアじゃないな。安心した。


「じゃあ聞くけど、何で君が僕の仲間を探す義理があるのかな? 依頼もしてないのに」


 今度はこちらが眉を寄せる番だった。

 何を言ってるんだ、こいつは。


「理由は述べた筈だ。あいつらには世話になっている。探したいと思うのは当然だ」


「そうだね、僕も同じだよ。だから一緒に探そうって言ってるんだ」


「何でそうなる」


「君はローザ達を心配して探したい。無事を確認したいんだろう? 僕も同じだ。だからここに来た。僕達は同じ志と目的を持つ同士だ。そうだろ?」


「まぁ、そうなるな」


「じゃ、君は僕の仲間だ。違うかい?」


 言われてみればそうだが。

 あれ、なんか俺。上手い事丸め込まれて無いか?


「いや、しかし……」


「良かった。折角帰って来たのに仲間が行方不明になってて、一人で心細かったんだ。幸いテリオは無事だったけど……後二、三日は動けそうに無いしね。君の事は帰省中に皆からの手紙で聞いているよ。随分頭が切れるんだって?」


「皆が手紙を?」


「うん、定期的に近況報告をしていたからね」


 何だそれ、気になる。

 俺なんて言われてるんだろう。

 アッシュが訪ねて来るくらいだし、悪くは書かれてないと思うのだが。

 頭が切れるなんて嬉しいこと言ってくれるな。照れるじゃ無いか。

 過大評価にも程がある。


「皆は君の事を、新しい仲間だと言っていた。仲間の仲間は仲間だろ? 僕と君は仲間だ。だから、手を貸してくれないかな?」


「え、あ。いや……」


「頼むよ。一人は心細いし……皆は君と仲良くしてるみたいだけど、僕は君の事をまだよく知らない。それってとっても不公平じゃ無いか。だから、ね? 皆と同じ様に、僕とも仲良くしてくれよ」


 真剣な顔を崩して、アッシュは笑みを浮かべた。

 凄い、何だこいつ。

 凄まじい対人スキルだ。高過ぎる。

 ちょっと引く位だぞ。

 こんなに狼狽されられるなんて、いつ振りだろう。

 ミーアみたいとか一瞬でも思ってごめん。俺が悪かった。

 可能ならミーアに分けてやってくれ、その人当たりの良さ。


 俺は良い笑顔を向けてくるアッシュから顔を背け、


「こちらこそ。宜しく、お願いする」


 震える唇を必死に動かした。

 駄目だ。こんなに人当たりが良い奴初めて見たから、対応が分からない。

 ローザのパーティーは良い奴の集まりだと思っていたが、こいつは別格だ。

 何だこの格好良さは? 後光が射してる。


「良かった! 有難うっ! いや、助かるよ。僕一人じゃギルドは分かるけど、憲兵団に通報するなんて考えは浮かばなかったかもしれない。明日はそれからやろうか」


「え? あ……」


「よし、希望が見えて来た。一緒に頑張ろうね、シーナ。絶対に皆を見つけようっ! 出来るだけ早くっ!」


「あ、うん……」


 あ、駄目だこれ。

 付いていけないよ、この空気。

 唯でさえ疲れてて頭回らないのに、無理だよこの人の相手。


「よぉし、仲間を得られた事だし、名残惜しいけど今日はもう失礼するね。折角仲間になれたんだから、色々話したい事はあるけれど……もう遅いし、明日は早い。それに話なら明日から沢山出来るから、今日は我慢するよ」


 にっこりとアッシュは笑みを深めた。

 助かった。安堵する俺に、アッシュが近づいて来た。

 今度は。な、なんだ。

 思わず後ずさりたくなるのを堪える。


 目の前に来たアッシュは、俺に手を差し出した。

 凄い笑顔で。


「じゃあもう一度だけ握手しよう。さっきとは違う仲間の握手だ」

 

 また握手するのかよ。

 まぁ良いか。

 それで気が済むのなら。


 手を差し出して握ると握り返して来た。

 必然的に俯いていた顔を上げると、アッシュは良い笑顔のまま首を傾げた。


「宜しくな、シーナ!」

「あ、あぁ……宜しく」


 未だに慣れなくて、狼狽えてしまう。

 あぁ、浄化される。

 なんか、綺麗になってる気がするよ、俺。

 暫く握手を続けて、相手が離したタイミングで離す。

 間違い無く握手の時間記録更新したぞ。


「じゃ、僕はこれで。明日は朝からギルドに集合だ。寝坊しないでくれよ」


 馬鹿な事を考えていると、アッシュは笑顔のまま手を挙げて踵を返した。

 一度机の方に戻って雑嚢を取ると、出口に向かって歩いていく。

 俺はそれを、ただ呆然と見送る。


 アッシュが扉を開け、外に出たのを見て我に帰る。

 俺も部屋に戻る為に踵を返すと、


「あっ、シーナ」


 呼ばれてドアの方を向く。

 何だよ、まだ何かあるのか?


「なんだよ」


 悪態を吐いてしまいそうになった俺は……。


 顔だけ扉の隙間から出したアッシュの柔らかい笑みを見て言葉を詰まらせた。


「君に会えて良かった。本当に心細かったんだ。有難う」


 言うだけ言って、扉を閉めて去って行った。

 本当に何なんだあいつ。訳が分からん。


「突然やって来て、勝手に去って行きやがって……嵐みたいな奴だな」


 呟いた後、思考する。

 ローザ達が行方不明になった事。

 自分が今、やりたい事。

 早く見つけて無事を確認したいという焦り。

 アッシュの事。

 テリオの風邪。


 色々な事が一気に起こり過ぎたせいか、上手く考えが纏まらない。


『精々頑張りなさい。くれぐれも簡単に死ぬんじゃないわよ』


 以前。ミーアに言われた言葉を思い出す。

 大丈夫、だよな? あいつ。

 簡単に死ぬな、と俺に言って置いて、先に死んだりしたら許さねぇからな。

 あの馬鹿女。全く、心配掛けさせやがって。


「はぁ……あぁ、苛々する」


 色々抑える為に、頭を掻きながら踵を返す。

 とりあえず、今分かる事は一つだ。


「明日から大変そうだな」


 準備して早く寝よう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る