第20話 緊急依頼
差し出された依頼書を受け取る。
「なになに?」
目を通し始めると、横からミーアが覗き込んできた。
私服姿の彼女に近付かれた瞬間。妙に甘い匂いが鼻に付く。
なんだ? この匂いは。
何か振り掛けてるな、この女。
間違いなく自然な匂いじゃない。
恐らく、貴族御用達の香水と言う奴だろう。
結構値が張る品物らしいのに、よく買うな。
苦手な匂いだ。少し気分が悪い。
依頼が気になるのは分かるが離れて欲しいな。
指摘すれば間違いなく不機嫌になるだれうから言わないが、我慢し難い。
仕方ない。口呼吸で我慢するか。
依頼書へ意識を戻す。
「……行方不明者の捜索?」
「うん。そうだよ」
内容を確認しながら尋ねる。
受付嬢のお姉さんは頷いた。
「2ヶ月位前。憲兵団に最初の捜索依頼が来たんだって。まぁ、行方不明なんて珍しい事でも無いから、大事にはならずに捜索したらしいんだけど……未だに見つからないどころか、その日を境に居なくなる人が増え始めたらしいの。居なくなった人に共通してる点は、街の外に出掛けたまま帰って来ないという点だけ。後、十代から二十代前半の若い人が多い傾向にあるね。年配の人も、何人かいるけど……必ず若い人が一緒に居るらしいよ」
なんだそれ、怖過ぎる。
「急に人が消える、か。まだ増えているのか?」
「うん。つい最近来た捜索依頼は三日前だよ。周辺の村へ荷物を届けに行った馬車の御者さん一家が行方不明になったの。早馬を飛ばして荷物を届けに行った村へ確認しに行ったらしいんだけど、荷物は届いてたらしいよ」
「荷物が届いてるなら、帰り道に何かあったのか。何人家族だったんだ?」
「御者さんと息子さんが一人に、娘さんが二人。息子さんは成人したばかりで、娘さんは13歳と9歳だって」
「依頼人は奥さんってことか」
「多分ね。詳しい事は分からないんだ」
何故だろうと疑問に思いながら、依頼内容の続きを読む。
『街の外に関しては誰よりも冒険者の方が慣れており適任と判断した為、協力を仰ぎたい。
人探しは君達の領分でないことは重々承知しているが、是非一人でも多く依頼を受け捜索に参加して頂きたい』
と、いった旨の文章が綴られていた。
依頼主の欄には、王都にある憲兵団本部長の名前。
次いで、セリーヌ憲兵団支部長の名が記載されていた。
依頼主は行方不明者の家族ではなく憲兵団なのか。
これを見て、俺はまた一つ疑問を抱く。
「この不思議な現象とやらはセリーヌ以外の街でも起こっているのか?」
「あはは、凄いねシーナくん。他の人と目の付け所が違う」
感心したようにお姉さんは笑みを浮かべた。
「やっぱりか。要するにこれは国中で起きていて、憲兵団が余程対処に困ってるって事だな。冒険者に高い金を払ってまで、協力要請をしなければならない程に」
個人として仕事を受ける冒険者と違い、国から毎月一定量の給料を貰っている憲兵。
そこからの依頼という事は、これは国からの依頼と言っても過言では無い。
この依頼で受け取る報酬は、元を辿れば国民の血税だ。
余程の事態じゃなければ、あり得ない筈だ。
憲兵団が冒険者に依頼をするなんて。
既に騎士団は動いていると見て良いだろう。
「うん、そうだよ。被害が無いとこも確かにあるけど、他の支部にも同じ様な依頼が出てる。今、国中で人が急に行方不明になる不可解な現象が起きてるんだ。んー、これは事件の匂いがするね!」
お姉さんは楽しげに鼻をクンクンと鳴らした。
どうしてそんなに楽しそうなんだ。
これ。どう考えても笑い事じゃないだろ。
しかし、確かに不可解だ。
街の外に出た人間が、帰って来ない。
急に消える。
それ自体は特に珍しい事じゃないが、こうして問題になっているという事は被害人数が異常なのだろう。
普通。街道から死体の一つや血等の痕跡等、なにか見つかる筈だ。
聞いてみるか。
「ちなみに、捜索中になにか痕跡が見つかった事は?」
「勿論あるよ。あるけど、生存者はまだ一人も見つかってないね」
「それはこの街もか?」
「この街は時に酷いよ。関係有りそうなものは何も見つかってないって。強いて言えば、もう随分前から消息不明になってた人……冒険者が沢山帰って来れたくらい」
確かにそれは手掛かりになりそうにないな。
街の外で見つかる冒険者の死体なんて、珍しくもなんともない。
経験の浅い俺でも、何度か見た事がある。
肉を食い散らかされた人間の屍を。
「単なるモンスターや野生動物の被害じゃ無いかしら? よくある事じゃない」
唐突にミーアが口を挟んだ。
まぁ、その線が最も可能性が高い。
世の中には、急にモンスターに襲われて命を落とす人は多いからな。
本当に、良くある話だ。
「よくある事もここまで多いと異常だよ。それも冒険者じゃなくて、一般市民の被害がね」
確かにそうだ。
良くある事、もあり過ぎると異常。
特に、街道を走る馬車が何の痕跡も残さず消えるのはおかしい。
少し感覚が麻痺してたらしいな。
反省しないと。
「人を襲う新種モンスターの被害なんじゃないのか? 魔界から来たモンスターの生態は未知数だ。そういうのが居ても不思議じゃ……あぁ、そういう事か」
「おっ、シーナくん気付いたね。やっぱり君は、頭の回転が早いみたい」
お姉さんが、にっこり笑う。
これは随分と過大評価されたもんだ。現在与えられている情報から少し考えれば、俺じゃなくても誰だって辿り着く容易な答えなんだが。
「ど、どういう事っすか?」
「うぬぅ……全然分からん。もっと分かり易く説明してくれ」
お前ら、マジか。
「成る程。新種モンスターの可能性もある以上、この話。国庫を開いてでも早急に解決するべき案件だわ。これ以上野放しにしてたら、みんな恐がって解決されるまで仕事を休む人が大勢出るでしょう。そうなったら物資の流通が滞る。それに、本当に未知の新種モンスターが原因だとして。そいつが国中に……こんな辺境まで広がって居るんだとしたら相当不味いものね」
おお、ミーア。お前分かってるじゃないか。
この馬鹿二人と大違いだ。
「うん正解」
お姉さんが満足気に頷いた。
彼女が肯定したのを見て、二人も「成る程」と納得した様子で頷く。
「はぁ……分かったか? 要するに、例え解決出来なかったとしても原因くらいは突き止めたいんだよ、お偉いさんは。この話、俺等も無関係じゃないぞ。冒険者にとっては死活問題だ。本当に新種モンスターが居るんだとしたら、危なくて外に出れなくなる」
「ちょっとシーナ。あんた……流石にそこは戦いなさいよ。ホント、臆病なんだから」
腰に手を当て、ミーアが呆れたように嘆息した。
いやいや、別にただ怖いからこんな事言ってる訳じゃないぞ。
「俺が臆病だから、とかじゃない。魔界から来た新種と戦うなんて御免だ。攻略法どころか、生態すら良く分かっていないんだからな。そんな相手と戦うなんて、自ら死にに行くようなものだろ」
もし居たとしたら、そいつは無謀な馬鹿か、余程自分の力に自信のある愚か者か、身の程を知らない可哀想な奴だ。
中には本当に解決出来る者も居るだろうが、少なくとも俺の様な駆け出し冒険者には無理だ。
凡人は間違いなく出来る奴が解決するのを待った方が良い。
冒険者は冒険をするものだが、自殺志願者の集まりでは無い。
「ふむ、俺はシーナに同意っすね。情報さえ出回ってる相手なら、戦いようがあるっすけど……完全に未知の敵と戦うのはちょっと無いっすわ」
苦笑しながら、テリオが同意してくれた。
良かった。面白そうっすね、とか言い出したら頭ど突いてた所だ。
ガルも頷く。
「魔界の新種関係ならば、今暫くは騎士団。それこそ勇者様一行に任せ、生態や攻略情報が出回るのを待てば良いだろう。彼等はその為の英雄、人類の切り札だ。 中でも最強と名高い剣聖様が見つかってから随分立つ。更に兵力を揃えて魔界に攻め入ると言い出して税が上がり、一年近く経つのに……未だ魔界へ攻め入るどころか、 素振りも見せる様子が無いではないか。それくらいは働いて貰わんと困る」
「ガル、あんたちょっと言い過ぎよ。誰が聞いてるか分からないんだから、勇者様達への批判はやめときなさい」
「む。あぁ、これはすまん。失言だった」
今の失言じゃなくて本音だろうな。
まぁ確かに言い過ぎだった気はするが、言われてみれば遅い。
何してるんだろう。
取り返しのつかない被害を受ける前に何とかして欲しいものだ。
流石に一刻も早く解決しろとは言わないが、もっと沢山の有力な情報を手に入れて公開して欲しい。
呑気に魔人を奴隷にしてる喜んでる場合じゃないだろ。アホか。
というか、俺が街に来る前に税金上がっていたのか。知らなかった。
村に居た時は無頓着だったから、前がどれくらいで今とどれ程差があるかは知らない。
ちなみに現在の税金は、一般庶民は月の所得から三割。
冒険者は等級によって差があり、俺の白等級は毎月二万エルナと決まっている。
冒険者も国民の一人には変わりない。
少々高いが税は仕方ないと割り切っている。
それとは別に、最近は勇者様募金というものが流行っていると聞く。
望めば勇者一行に投資する事も可能なのだとか。
無論やった事はない。やる気もない。
自分の事で手一杯だ。今は。
「今回の件は勇者様一行も動いているらしいよ。だからほら、君達もどうかな? セリーヌを救う勇者の一人になってよ」
受付嬢のお姉さんがウインクした。
ふーん勇者一行も関わっている仕事なのか。
それ程、状況は緊迫しているらしい。
なら尚更。この依頼。
「悪い、これは受けられない」
俺は手に持っていた依頼書を受付嬢へ差し出した。
この依頼は受けちゃいけない。そんな気がする。
何より、新種モンスターの可能性がある以上。大きな危険が伴う。
これは白等級相応の仕事じゃない。
「えっ。なんで?」
不思議そうな顔をする受付嬢。
理由はしっかり述べておいた方が良さそうだ。
「当然。これは俺の身の丈に合わない依頼だと考えたからだ。俺はまだ駆け出しの白等級で、戦闘力は勿論。人探しをした経験も情報収集能力も無ければ、こういうのに詳しい専門家の知り合いも居ない。役に立てない。だから、この依頼は受けられない」
時には冒険するのも良い。
だけど、必要以上の背伸びは全く必要ない。
冒険者は冒険してはいけない。
自分の身の丈に合い、必ず成果を出せる自信と見込みのある仕事だけを選び、確実にこなしなさい。
どれだけ親しい人の頼みだとしても、決して簡単に頭を縦に振ってはいけない。
母さんはいつも念入りに言っていた。
この仕事は身の丈に合わない仕事だ。
間違いなく確実にこなせない。
「えーっ! 良いじゃない。やってよぉ、シーナくん。ほらこれ、やる事はシーナくんが普段受けてる、生態調査と大して変わらないよ? 難易度も低いし、実際成果が出せなくても受けてくれるだけで良いんだよっ?」
必死な顔で詰め寄ってくる。
言われてみればそうだ。
これは討伐任務では無い。戦闘を強制される仕事じゃない。
ただ、特定の成果を求められる調査依頼だ。
確かに難易度は高くない。
寧ろ、美味しい仕事だと言える。
少し、美味しすぎる位だ。
だが俺は、
「悪いが、成果を出せそうにない仕事はやらない性分なんだ。知ってるだろ?」
「うー……」
期間は決して長いとは言えないが、受付嬢の中で最も付き合いのある彼女は俺の性格を充分理解してくれているらしい。
唇を尖らせ分かり易く拗ねてみせた。
「それでも、やってくれなきゃ困るんだよぉ。今回だけ、今回だけ何とか頼むよぉ!」
「駄目なものは、駄目だ」
「えー! お願いだよっ! ほら、この通り。お姉さんのお願い、聞いて? ね?」
「無理」
「えー!」
両手を合わせ、懇願して来る彼女に断固拒否する。
若干涙目だ。必死だな。
可愛いが騙されてはいけない。
冷静に考えれば余計不信感が募った。
普段、ギルドが。受付嬢が冒険者に対して、個人に仕事の依頼を持ってくる事はまずない。
例えあったとしても、お勧めの依頼を紹介したり依頼主が名指しの仕事を凱旋している事を告げる程度。
強制する事は不可能だ。
何が彼女をこうまでさせるのか、尋ねる必要があるな。
「なぁ」
「ねぇ。どうしてそんな必死なの? 本人が受けないって言ってるんだからそれで良いじゃない。ギルドが仕事を強制するのはおかしいでしょ? 」
あっ、ミーアに言われた。
まぁ良いか。聞けるなら。
「うっ……言わなきゃ、駄目?」
「別に良いが、仕事は受けないぞ」
「う、う〜」
困った様に眉を寄せる受付嬢。
そんな顔をされても困る。
俺は我儘を言っている訳じゃない。
受けても仕方ないから断ってるんだ。
意地悪をしているつもりはない。
彼女は、顔を僅かに背け、ボソッと。
「……ノルマが、あるの」
「ノルマ?」
「そう……受注してくれる人。参加させなきゃいけない冒険者の数。受付担当一人あたり五人……それも、毎日」
「ノルマって、あんたねぇ……」
呆れた様にミーアは溜息を吐いた。
俺も同じ気持ちだ。これは呆れた。
今日は妙に気が合うな。
「だ、だって仕方ないじゃない。これ、緊急依頼扱いになってるんだもん……それくらい大変な状況なんだよ。参加してくれる人が少ないと、偉い人から支部長が怒られちゃうのっ。支部長が怒られちゃうって事は、ギルド職員皆んな怒られちゃうって事なんだよっ。おきゅ……んんっ。冒険者ギルドの尊厳に関わる、重要案件なんだよっ!」
「今、お給料に関わるって言い掛けなかったか?」
「そんな滅相も無い事、言ってません。是非、ギルドの為に参加し、ご尽力ください。これは緊急依頼です。我がギルドが誇る冒険者。皆さんのお力が必要なのです」
いや。今絶対言い掛けただろ。
ギルド職員が嘘つくな。
急に言葉が丁寧になったあたり怪し過ぎる。
とりあえず、減給されたく無い事は分かった。
「成る程〜。だから皆、今日はカウンターじゃなくて歩き回っているんすね。珍しいなって思ってたんすよ」
テリオに言われて辺りを見渡す。
言われてみれば確かに、彼女と同じ職員。受付嬢達がギルド内にいる冒険者達の元を訪れ話をしていた。
受付嬢は外見が優れている為か、楽しそうに話している者が数人いる。
鼻の下が伸びてる情けない奴も居た。
よく見ろ。その受付嬢、目が笑ってないぞ。本気で営業してるぞ。
普段は有り得ない光景だ。
なんで気付かなかったんだろう。
「……そういう事なら暫く冒険者稼業を休むしかないか。急に暇になってしまったな……仕方ない。ミーア、買い物付き合おうか?」
「えっ」
ミーアの目が、大きく見開かれた。
なに驚いてるんだよ。お前が誘ったんだろ。
「ほ、ほんと? 本当に付き合ってくれるの?」
「あぁ、暇になったからな。俺に遊び方とやらを教えてくれ」
「そう……ふん、仕方ないわねっ。しょうがないから、付き合ってあげるわ」
普段通り自信に満ちた顔で、彼女はふんと鼻を鳴らした。
相変わらず偉そうな態度だ。
思わず首を傾げる。
「お前の買い物だろう? 付き合うのは俺の方じゃないのか?」
「っ! い、いいから。いきましょっ!」
踵を返し、歩いていくミーア。
なんだか肩が怒ってるし、歩き方がぎこちない気がする。大丈夫か。
心配しながら付いて行こうとすると、
「ちょっと待つっすよ!」
「待つが良い、シーナ」
テリオとガルの二人が、俺の前に立ち塞がった。
二人とも顔が必死だ。
「何だよ」
「何だよも何もないっすよっ!」
テリオは受付嬢から、先程俺が突き返した羊皮紙を奪い取ると、俺の眼前に突き出した。
そして、一つの項目を指差す。
「ここ、見てみるっす!」
それは、報酬の欄だった。
当然先程確認して居るので、内容は見なくても分かる。
「捜索一日につき、何の成果をあげられなくても、二万エリナっすよっ! 有力情報の発見と提示で、内容に応じて別途報酬っ! 行方不明者を発見した場合、手配金総取り。この依頼、美味し過ぎるっす!」
確かに美味し過ぎる。
成果をあげられなくても、参加するだけで一日二万エリナ。これだけあれば三日は生活に困らない。少し贅沢も出来る。
正直破格の条件だ。
二人の必死な形相を見て、込み上げてきた溜息を吐く。
「だからこそ余計に怪しいんだ。目先の金に釣られてよく分からない依頼に命を賭ける程、俺は馬鹿じゃない」
「冒険者は金の為に命を賭ける仕事だ。お主も既に、何度か死線を潜ってきただろう。我等と共にな」
「そうっすよっ! それに、俺も正直行方不明者も新種モンスターもどうでも良いっす! 今は仲間の危機っすよ! ここで見捨てる奴なんて仲間じゃ、いや。冒険者じゃないっす!」
行方不明者と新種モンスターがどうでも良い。
そんな事を大声で言える方が冒険者、いや。人じゃないと思う。
「金がないのは自己責任だろ。それにお前等、ローザの金欠の時は休んでたらしいじゃないか」
「あれは別の仕事が入ってて仕方なかったんす! サボってた訳じゃないっすよっ!」
「前に説明しただろう。俺とテリオには名指しで指名してくれる得意の客が付いているから、稀にパーティー活動を休むのだと。決して、仲間を蔑ろにして居るわけではない」
「確かに聞いたが……」
二人はローザの仲間になる前から一緒に仕事をしていたらしく、その時から懇意にして貰っている依頼主がいるらしい。
仕事内容までは教えて貰ってないが、信用されているのだと誇らしげに話していた。
信用は金で買えない為、優先順位が高いのは当然だろう。
「そんなお得意様がいるのに金欠なお前等が悪い。兎に角、俺は」
「なにしてるのよ。早く行くわよ、シーナ」
突然コートの裾を引っ張られた。
振り向くと、不機嫌顔のミーアが俺を見上げていた。
普段より眉間の皺が濃い。
待たせたのが気に入らなかったらしい。
「ミーア、ちょっと待つっす! 仲間のピンチっすよ!」
「そうだぞミーア。後生だ。付き合ってくれないか」
当然の様に食い下がる二人。
途端。ミーアはふんと鼻を鳴らし右手を腰に当てて胸を張った。
とりあえずその左手を離してくれないか。
「自業自得でしょ。兎に角、私達は付き合わないからね。今日はシーナと買い物に行くの。邪魔しないで」
「ぐっ……!シーナ、お前はそれで良いんすか! お前は男の友情より女を取るんすか!? ここで行くような男は一生、尻に敷かれるっすよっ!」
「シーナ、後生だ……」
何故か早急にミーアの説得を諦めた二人が、必死な形相で俺を見る。
いや、なんで俺に意見を求めるんだよ。
しかし、可哀想なのも確かだ。見捨てるのは後味が悪い。
色々世話になってるし……。
「分かった。なら、こうしよう。この依頼は付き合えないが、街の中でやれる仕事なら手伝う。いくつか伝手があるから、そこを紹介」
「はい、シーナ。こんな馬鹿達は放って置いて、行くわよ」
「うおっ」
グイと裾を引っ張られ後ろに仰け反った俺は、襟首を掴まれた。
抵抗する暇も無く驚いていると、そのままズルズルと引き摺られて行く。
えぇ……やめて。皆見てるぅ……!
「お、おい。どうした急に」
「良いから行くのっ! ちょっと黙ってなさい! 具体的には、ギルド出るまでっ!」
理不尽な。
何だこいつ、今日は随分我儘だな。
あ、いつもこんな感じか。
仕方ない、諦めて付いて行った方が良さそうだ。
無駄に抵抗してコートを痛めたら堪らない。手を入れて貰ったとは言え古いし。
というか、その香水の匂い。俺に付けないでくれよ……頼むぞ。
「あー、クソ。シーナがやられたっす! あいつは一生あの女の奴隷決定っす!」
「くっ……シーナ。流石にその状態になったミーアは、手に負えん。すまない、本当にすまない……」
おい、何で戦死したみたいな言い方をする。
諦めるなよ、助けてくれ。
この二人は使えない。何故か諦めて、見捨てやがった。
最後の希望と受付嬢のお姉さんに顔を向ける。
すると彼女は、申し訳無さそうに苦笑いして、軽く手を振りながら口を動かした。
「気が変わったら、いつでも来てね」
畜生。
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