第3話 ユキナの両親

「わざわざ呼び出してすまない、シーナ。忙しいから単刀直入に言う。娘と、別れてくれないか」


 勇者パーティーが、剣聖になったユキナが帰ってくる。

 村に早馬が来て、そんな便りを受け取ったのは、二日前。おかげで村はお祭り騒ぎだ。

 俺も若手が居ないから、あれこれこき使われていた。

 そんな、村中が準備に翻弄されている最中。俺を家に呼び出したのは、ユキナの両親だった。


「……なんで?」


 ずっと恋い焦がれた少女。仲を認めてくれていた彼女の両親。

 既に本当の家族だと思っている彼等から突然そんな事を言われ、俺は足元が崩れ去るような絶望を感じた。

 色々言いたい事はあるが、口元が震える。

 なんとか一言言わなければ……と絞り出した言葉は、自分でも驚くほどに掠れていた。


 ユキナの父親。コニーおじさんは、口を固く結び、言葉を選んでいるように見える。

 そんな夫を心配したのか、シロナおばさんが彼の肩を叩いて、俺に言った。


「ユキナは、勇者様の恋人になったそうなの」


 瞬間、カッと血が昇るのが分かった。

 震える手を左手で押さえ付けて、俺は深く溜息を吐く。

 考えた事が無かった訳じゃない。覚悟はしていた。

 いつか、こうなるんじゃないかと。


「なんで、ユキナが……! ていうか、二人はなんでそんなこと知ってるんだ?」


 震える声を発すれば、二人は見つめ合って頷く。

 コニーおじさんが席を立ち、すぐに戻って来た。


「ユキナからの手紙だ。読むか?」

「……やめておくよ」


 こんなことを言われる原因が、この中に書かれている。

 そんなもの、今の状態で読みたくなかった。

 読んだらきっと、これら全て。無残な姿になるまで引き裂いてしまうだろうから。


「そうか。私達としては、読んで欲しいのだが……」

「あなた。流石にそれは酷いわよ。これ以上シーナを追い詰めないで」

「わかっている。だけどこれには……」


 悩ましく、何か言いたげな表情。

 そんなコニーおじさんを見て、俺は巫山戯るなと叫んでやりたい衝動を拳を握って堪えた。

 娘が可愛いのは、分かる。分かるが……彼が読んで欲しいのは、ユキナが実の親に宛てた言い訳だろう。

 そんなもの見たら、俺は冷静で居られなくなってしまうかもしれない。


「……ユキナから、手紙。来ていたんだな」


 荒い息を吐き出すと、少しだけ冷静になれた。

 そうすると、気になったのはこれらの手紙。

 俺の元には半年も前から来なくなった物だ。一番上の便箋を手に取り裏を返す。日付は三日前だった。

 つまり、俺には送らなくなった手紙をユキナは送っていたのだ。それも、最近まで。

 何故こんな村にまで彼女の活躍と近況が伝わって来たのか、俺はやっと理解した。

 いつも聞かせてくれていたのは、この二人だったのだから。


「……すまない」


 おじさんは、何も言えない様子で、一言だけ発して頭を下げた。

 その対応で、これが嘘ではなく現実なのだと理解する。

 俺は固く瞼を閉じ、鼻から深く呼気を吐き出して、


「裏切られたのは、分かった。ユキナは本当に勇者様の女になったんだな……」

「うっ……シ、シーナ。気持ちはわかる。だけど、ユキナが。私の娘が、裏切った。そんな風に言うのは、思うのは、やめてくれないか……」


 裏切ってるじゃないか。何言ってんだ。

 今日のおじさんはなんか、イライラする。


「いえ、あなた。ユキナはシーナを裏切った、これであってるわよ。私達の娘は二股したクズ、こう言われても仕方ないわ」


 そこまで言ってないよ、おばさん。

 あんた娘に辛辣過ぎない?


「だ、だけどユキナにも事情が……それに、今や剣聖のあの子に変な噂が立ったらどうするんだ……!」

「何になろうが浮気する人間はクズよ。剣聖になったってのも、正直心配だしやめて欲しいもの。世界なんて勇者様が救えばいいじゃない。なんでうちの娘が必要なのよ? 見た目は突然変異ですっごい可愛い子に育ったけど、あの子。物凄いドジで間抜けなのよ? あーあ、浮気する子が娘なんて、私はなんて不幸なのかしら……」

「お、おいっ! 剣聖の生みの親が不幸なんて言うんじゃないっ! 天罰が落ちたらどうするんだ。それにお前は理由を知っているだろうっ!?」


 それくらいで当たるバチ、大したことないから当たっちまえ。

 それに、流石に勇者だけじゃどうにもならないから仲間がいるんだろ。

 他は否定しない。確かにユキナは両親に似ていないし、凄いドジだ。


「それに、確かに最初はシロナの言う通りだったが……今や英雄なんだぞ、あの子は! 大体婚約者がいたなんて、勇者様の耳に入ったら大変な事に……っ!」

「まぁ、それはそう、なんだけど……」


 ちら、と俺を見るシロナおばさん。


 あぁ、話が見えた。

 俺はこの二人は本当に娘が。それと自分が大切なんだな。


「成る程、勇者が来る前に俺に話を通して、余計なことを言わないように釘を刺しておこうってことか。わかった。何も言わないよ。誰だって自分と、子供は可愛いもんだ」

「そ、そうだが……だが、そんなはっきり言わなくても……っ!」

「シーナっ! 違うわっ! 私達は決して、あなたより自分達が可愛い訳じゃないのっ! これは、あなたの為なのよっ!」


 これ程白々しい「あなたの為」を聞いたのは、生まれて初めてかもしれない。

 まぁ、俺も面倒に巻き込まれたくはないから、言うつもりはない。


「……分かった。そういう事なら、別れるよ。これ以上執着もしない。キッパリ諦めると、約束しよう」


 瞼を閉じたまま、俺は言った。

 瞼の裏に浮かぶユキナの笑顔が、今は俺の胸を刺す槍の様だ。


「ほ、ほんとうか……?」

「あぁ、二言はないよ」

「ほ、本当にそれでいいの? シーナ。あなた、この一年。あんなに……」

「しつこいよ、おばさん」


 冷たく言い放って、瞼を開ける。

 二人は目を丸くしてこちらを見ていた。

 仕方なく、俺はまた溜息を吐くと、


「本当は、本当は昔から、釣り合わないと思っていたんだ。本当に小さい頃から、彼女は特別だと、何かが頭の隅に引っかかっていた。ユキナは、あまりに俺の、何の力もない子供の手に余る、魅力的な女の子なんだ」


 俺は気づけば、開いた自分の掌を見て、握り潰していた。


「とてもドジで悪戯好きで、そのくせ臆病で……だけど、真っ直ぐな目を持っている。それが俺には、男には、あまりに魅力的だ。 だから彼女と恋人になれた俺は、世界で一番の幸せ者だと信じて疑わなかった。出来るだけ、出来る限り幸せにする。その一心で、努力をしたよ?それくらい好きだった……好きなんだ。本当に……!」


 偽りない本心の独白。

 普段は恥ずかしくて言えなかった言葉が、するりと俺の口から溢れてくる。


「でも、あの日。成人の儀の日。彼女は、女神に選ばれた。今では世界中の人々が認める剣聖。対して、俺に何の価値がある? 全力で努力はしたし、世間知らずなのを何とかしようと出来る限り見聞を広げた。だけど、そうやって頑張れば頑張る程。村の外を、世界を知ろうとする度に、、俺と彼女は釣り合わない。その想いは強くなっていったんだ……だって、彼女程心惹かれる存在が、他に見つからなかったから」


 一息で言い切った俺は、二人を真っ直ぐ見て最後に一言。

 これだけは、伝えたいと思った。


「だから俺は、少しでも彼女に相応しい男になれるよう、色々やってきた。けど全部、無駄だったんだな。もう、いいよ。俺はユキナが幸せになれるなら、黙って身を引く。相手は勇者、だよな? 俺なんかより、ずっとお似合いだ。まだ見たことはないけど、ただの村人の俺と、ユキナと同じく女神に選ばれた英雄じゃ、比べるまでも無い。別にユキナを幸せにするのは俺じゃなくても良いし……仮に俺だったとしても、俺じゃユキナを……剣聖を支えられない。一緒に旅してやれない。あまりに力不足だ。二人もそう思ったから、俺に別れろと言うんだろ?」

「「……………」」


 二人は黙り込んでしまった。

 自分の娘がそこまで想われていたとは知らなかった、とでも言いそうな顔だ。

 そして、俺では娘に釣り合わないという質問の答えが、この沈黙。つまり、肯定という事。

 そこまで想ってなきゃ、こんなに努力してないよ。巫山戯んな。


 小さい村だし家も隣なんだから、俺が色々してるの知ってるだろうに。

 いつユキナが帰って来ても良いように、部屋には街に行って買った贈り物だって用意してたんだ。黙って数日居なくなったから、二人も凄い怒った癖に。

 3日も歩いたんだ。往復6日。その間、野宿だぞ。金ないし買ったらすぐ街出たし。

 でも、不思議と苦にならなかった。寧ろユキナの為に歩くのは楽しかった。ユキナと一緒に旅をしているような気にもなれたから……。

 どうだ。これくらいユキナに尽くす位には、好きだったんだ。

 好きで好きで、本当に、す……。


 そこで俺は、はたと気付く。


 あれ、これは本当に、恋人に対する好き、なのだろうか、と。

 よく考えて見る。一年知識を詰め込んだ頭は、以前に比べて随分回転が速くなった。

 そんな頭で考えて考えて、辿り着いた先。それは、不明。

 分からない、という事だけだ。

 何故だ。あんなに好きだったのに、どうしてこんなに冷めてるんだ? 俺。


「あっ」


 気付けば、二人は悲し気な目でこちらを見ていた。

 まるで俺に許しを請うているような、そんな雰囲気だ。

 ……話の途中だったな。

 溜息を一つ吐いて、


「……兎に角、俺は何もしない。ユキナの事は、諦める。代わりに、これから助けもしない。話もしない。まぁ俺の助けなんていらないだろうけど。今のあいつには勇者も、仲間も、世界中の人だって、味方だからな」


 この言葉に、二人は更に微妙な表情をした。

 本当は裏切った女、とか言ってやりたいんだよ?

 まだ好きだし、2人には世話になってるから言わないけど。

 これが見ず知らずの女なら……股の緩い、まで付けてやるってのに。

 構わず続ける。


「それと、俺はこれ以上。村の準備は手伝わない。これについては2人で村の皆に伝えてくれ。俺は勇者パーティーが帰るまで、村を出るよ。今はなんとか気持ちの整理がついてるし、落ち着いてるけど、正直……ユキナが、俺以外の……勇者と仲良くしてる姿なんて、見たくない。何をするか、わからない。2人もそれを恐れたから、この話をしたんだろ?」

「その通りだが、待て。村を出るのは待ってくれっ!」

「……なに?」


 なんだよ、こんな簡単な条件で諦めるって言ってるのに、引き留めんなよ。

 思わず嫌悪感を顔に出し、自分でもびっくりするくらい低い声が出た。


「シーナ、お前の気持ちはわかるっ! わかるともっ! ずっと一緒だったもんな、結婚まで約束してたもんなっ! そんなお前が、ユキナを勇者に取られてムカついているのは、よぉ〜くわかる! だけど、待ってくれ!」

「いや、全然分かってる様に見えないわよ、あなた」

「うるさいっ! お前は黙ってろっ!」


 さっきからおじさんがむかつく。

 おばさんの言う通りだと思う。

 黙るのはお前だ。好きだったのに、一瞬で嫌いになったよ。


「なんで? まさか手伝いもおもてなしもやれなんて、言わないよね?」


 そう言うと、おじさんの目が泳いだ。

 言うつもりらしい、ざけんな。


「シ、シーナ。よく聞いてくれ。確かにユキナは、勇者様に身も心も奪われ、彼のものになってしまった」


 マジか、身体も奪われてるのか。

 手紙読まなくて良かったわ。

 あのユキナが、男と……。

 やばい、泣きそう。

 さり気なく拭っとこ。


「だけどそれは、仕方のない事なんだ。何故なら、勇者様は世界の命運を握る英雄。そしてユキナもまた然り。聞けば、勇者様は相当な良い男らしい。そんな彼を間近で見、支えていれば……こうなる事は、必然なのだから」


 このおじさん、本当に俺に申し訳なく思ってるの?

 それとも、挑発してるの?

 どっちなの?


「だからシーナ。どうか、寛大な心で受け止め、形だけでも良い。2人を祝福してやってくれないか? お前も幼馴染が剣聖で、勇者の妻になるのは鼻が高いだろう? 皆に自慢出来るぞ……!」


 あまりに馬鹿げた話に開いた口が塞がらない。

 おばさんも信じられないものを見ている目だ。

 おじさん、頭悪すぎ……!

 そうか、俺は勉強したから、物の善悪が分かるようになったのか。

 おじさんはユキナの事になると昔からこうだったわ!


「そ、それに……あぁもうっ! とりあえずユキナを許してやってくれ! あの子は手紙で、お前に謝っていた! 勇者様を好きになってごめんなさい。伝えたい。伝えたいけど、きっと許してくれないだろうから手紙を書けない。ごめんなさいと謝っていたんだ! 今回の帰省もユキナの我儘で、勇者様がそれなら……と言ってくれたから帰ってくるんだそうだ。あの子は、シーナ。お前に会いに、わざわざ帰って来るんだぞ! 会いたい。会って直接、成人の儀の日からの事。勇者との仲を話したい、謝りたい。その一心で、帰って……」




「聞きたい事は聞けたし、帰るよ。おばさん」

「そ、そうね。私に止める権利はないわ。じゃあね、シー……」



「待てっ! せめて最後まで聞いて行けっ!」


 イヤだよ面倒臭い。

 これ以上嫌いにならせないで、おじさん。

 てか、手紙の内容普通に言ってるし。


 俺は今日、何度目か分からない溜息を吐く。


「なんでそんな言い訳聞いて、しかもおもてなしまでして、わざわざ不快な思いをしなきゃいけないのさ。馬鹿じゃん?」

「い、言い訳ではないっ! あの子は、本心で……」

「一度裏切った人間は、どんな仲の良かった者でも、二度と信用するな。一度でも甘い顔をすれば、二度目は命を狙われる……母さんがよく、俺に言っていた言葉だよ」


 冒険者だった母さんは、一度。裏切った仲間を許したんだそうだ。

 するとすぐ、また裏切られた。

 冒険者は信頼が命。だから自分の悪評を知る者を消しておきたいと思うのは、ごく自然な事なんだそうだ。

 だから、決して裏切るな。代わりに、裏切られたら二度と信じるな。

 母さんは良く、そう言っていた。


「……つまり、お前はもう、ユキナを」

「うん、信じない。彼女は俺を、裏切った」


 まだ好きなのは仕方ない。

 実際にユキナと勇者の姿を見ていないから、まだ諦め切れないのだろう。


「だからおじさん。俺は、あなたも信じない」

「な、何でだ……っ!? 俺はシーナを……」

「臭い匂いは根元まで、少しでも危険を感じれば、どんな大切な物でも迷いなく捨てるのが生きるコツ。無謀と同情では飯は食えない。冷静な勇気と判断こそが、自分を生かす」

「また、あなたのお母さんの言葉ね」


 シロナおばさんはまた、僅かに微笑んだ。

 俺の母さんとおばさんは、仲が良かったのだ。


「うん。まあおじさんの場合は凄いムカついたからってのもあるけどね。謝る気ある? もしかして喧嘩売ってんの?」

「あ。い。いや……」


 睨み付けると、おじさんは肩を竦めて俯いた。

 その様子を見てから、おばさんに顔を向ける。



「それと勿論、おばさん。俺はあなたも信じない。本当にお世話になってたけど……ユキナから届いていた手紙の事を黙っていたし、あなたはユキナの生みの親。だから俺は、あなたを信じることは出来ない。今まで色々世話になったね」

「……そう。わかったわ。本当にごめんなさい」


 深く頭を下げたおばさんに軽く頭を下げ返し、離別を告げる。

 今日は、俺が持っている大切なものが三つもなくなった。

 幼馴染の恋人とその両親だ。

 数少ない宝物を無くすのは、母さんが死んだ時以来だった。


「俺はあなた達を二度と信じないし、これからこの家に来ることは無い。本当に残念だよ。だけど代わりに、こうしてはっきり告げる事で決意が出来た。俺、手伝いもおもてなしもしないけど、明日。ユキナには会うよ。会ってちゃんと、さよならをする。さっきは何をするか分からないって本気で思ってたし、ユキナとあなた達にこれをやるのは、本当に嫌でやりたくなかった。でも、やるね……? この一年、俺が勉強してた成果。見せてあげる。一度やったら、さよならだ……」


 俺は軽く、息を吐く。

 そして、目を閉じて搔き集める。

 この2人との、想い出を。


「ま、まてっ! 何をする気だ。俺は嫌だぞ! 確かにこんなことになったけど、俺はお前を本当の息子のように思って……っ!」

「あなた、じたばたしないの。これは、私達の娘と……私達も、悪いのよ。ねぇシーナ」


 俺は、目を閉じたまま答えない。

 答えたら、駄目だ。情が出てしまうから。

 折角固めた決意が揺らぐ。それくらいには、この2人には世話になった。


「最後に言わせて……愛してるわ」


 さよならだ。


 俺は目を開けた。


「はい、今まで、大変お世話になりました。お二人には、感謝してもしきれない、ご恩があります。シロナ様には最後に、私には勿 体無い御慈愛を賜り、恐悦至極でございます。本当に今まで、お世話になりました。私はこれで、あなた達を親だと敬う事も、慕う事もありません。ですがどう か、これからも隣同士。必要な時には手を取り合い、近所付き合いを続けていけたら、幸いです」


 俺の言葉に、2人は目を見開く。

 まだ拙くて、おかしい所もあるだろう。

 だけどそれは、2人には分からない。

 何故ならこれは、貴族が使う貴族の言葉。

 その中から、俺が使うのに正しいものを選んで習得したものなのだから。

 普通、村人が使える言葉遣いじゃ無い。


 俺は少し前。この言葉を習得して話したら、これで喋った相手とは感情的にならずに済む事を知った。

 恐らく、慣れないこれだと話すのに神経を使うからだだろう。

 そんな言葉で話した相手はどうでも良い人だ、と頭が勝手に切り捨ててくれるのだと仮説を立てている。


「し、シーナ。それ……」

「…………」

「お前、目が……」


 目?

 何の事だろう、と一瞬考えたがどうでも良い。

 おばさんも、黙ってこちらを見ている。

 成功だ……。2人の言葉が、存在が、どうでも良いものに感じた。

 そんな事より早くこの2人から離れて、普段の自分に戻れ。そして休め、と嫌な欲が溢れてくる。


「……それでは、私はこれで」


 欲に従い、席を立つ。

 そして出口のドアを開き、外に出た。

 途端に鍛冶屋の親父さんが「てめぇシーナ! 一番若いのに何サボってんだ!」怒鳴ってくる。

 皆、忙しそうにしていた。


「あとで話すよ!」


 叫び返し、ドアを閉める時。俺は2人に振り返り軽く会釈をした。

 今までありがとう。最後にそう敬意と感謝を込めて。







「さようなら」





 離別の言葉を口にする為に。



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