第27話 cherry


「何で、ソレを.....?」

引ったくり女が驚いて目を見開いている。

健太は自分の推測を話すことにした。

「恐らくお前のバイトの内容は、1週間その鍵を持ち続けるか、それまでに合言葉を知っている奴が現れたら鍵を渡すってところだろ?」

「よ、よく分かったね」

引ったくり女は本当に驚いている様子だった。

健太は小さく舌打ちした。

まったく、あのホームレス社長。なんて回りくどいことを。それとも、これも俺を試したとでも言いたいのか?コイツに偶然合わなかったら、分かんなかったぞ。

それとも、こうなることまで予想してたのか?

まさかな。

「じゃあ、とりあえず、鍵だけ渡しておくよ」

引ったくり女が健太に歩み寄り、鍵を手渡す。

にしても、何でcherryだったんだ?

素朴な疑問だったが、この際どうでも良いことだ。

引ったくり女から鍵を受け取る際、ふと彼女の胸元が目が入った。

よく見ると、見事なまでの小粒具合だ。

「なるほど。cherryなわけだ」

「いやどこ見て言ってんの?」

「いやcherryじゃん」

「デリカシー無いのアンタ?」

引ったくり女が呆れたように苦笑いを浮かべる。しかし、すぐにニヤリと笑みを浮かべ直した。

「てか、アンタがcherry boyだからじゃないの?」

「は?ちげーわ」

「うわ、見栄張ってる。女の子は童貞って臭いで分かるんだよ?」

「俺は胸のない奴を女とは認めてないから」

「その発言が童貞だって言ってるんだよ」

勝ち誇ったように、引ったくり女がニヤリと笑っている。今の会話のどこで勝ち誇れるのか分からないが、なんかムカつく。

「てかさ、何でアンタはその鍵が欲しかったの?しかも何でアタシっていうバイトを媒介して受け取ってんの?なんか危ない橋でも渡ってるわけ?」

「アホか。お前と一緒にすんな。俺は、お前が会ったホームレスがやってる会社に雇われたんだよ。何でお前を媒介したかなんて俺が知りたいくらいだ」

「アンタも他人のこと言えないじゃん。よく分かんない奴の話にホイホイ乗ってるなんて」

ニターっと、引ったくり女が笑みを浮かべる。いちいち腹の立つ女だ。今までの悪事を言いふらしてやろうか、まったく。

「で、何の仕事するの?」

意外とグイグイ聞いてくる。

コイツ、絶対付き合った途端に甘え出すタイプだ。

「別に大した仕事じゃねーよ。夢見屋っていう胡散臭い商売さ」

「夢見屋?」

「夢を持てない奴らに対して、夢を見せるのが仕事なんだよ。ま、まだ仕事としては何もやってないし、こんな事業がうまくいくのかどうかも分かんねーんだけど」

「へー.....良い仕事じゃん」

バカにしてくるかと思ったが、意外とそうでもなかった。

「アタシは良いと思うよ」

「お前に良いと思って貰ってもな。それに事務所の鍵手に入れるだけで、このザマだよ。先が思いやられる」

「ふーん」

何やら考える仕草を見せる、引ったくり女。

何を考えているのだか。

しかし、次の彼女の発言に健太は度肝を抜かれることになる。

「ねぇ」

「何だよ」

「アタシも混ぜてよ」

「は?」


「夢見屋。アタシが手伝ってあげる」



"cherry"



その言葉の意味が、この女とバディを組むことだったと分かるのは、まだ先の話。


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