第24話 因果応報
ヅラが取れた引ったくり女は、ぺろっと舌を出して
「やっちゃった」
とワントーン高い声で健太を見て言った。
いやふざけんなよお前。カオス加速してんじゃねーか。
ひったくり女をジロリと見るが、彼女はケロッとした表情だ。
対照的にオッサン達は、目を真ん丸にして女を見ている。
自分を騙した女が目の前にいるのだから当たり前だ。
「お、お前。まさか、あのときの.....」
ノリが愕然とした表情で、引ったくり女を見ている。
「えー?どこかでお会いしましたっけ?」
当の本人は、とぼけた表情を浮かべている。
「お前のせいで.....俺は、こんなことに.....」
タカは怒りで顔がぷるぷると震えている。といっても覆面の為、目しか見えてはいないのだが。
当然の反応だ。
タカは持っている刃物をギュッと握る。いつ襲い掛かってもおかしくはないだろう。
引ったくり女の視線がチラリと刃物に移る。
ま、自業自得だな。
健太は小さく息を吐いた。
いや、因果応報と言うべきか。
自分のやってきたことの報いを受けることになるだけなのだから。
「おい女.....覚えているか?俺のことを....」
タカが刃物を握ったまま、一歩ずつ引ったくり女へと近づいて行く。
引ったくり女は、それに合わせて後ずさったが、すぐに背中が壁にぶつかり立ち止まる。
「忘れたとは言わせねぇ.....お前のせいで俺は全てを失ったんだ」
少しずつ2人の距離は縮まっていく。
引ったくり女の顔が引き立った笑みを浮かべる。
「殺す気?」
「当たり前だ」
「もう元の人生に戻れなくなるよ?」
「既に手遅れなんだよ」
「あなたを思ってくれる人がいるのに?」
「.....」
引ったくり女の言葉に、タカは押し黙る。
しかし、少しの間考えた後、ポツリと呟く。
「関係ない」
その言葉に、引ったくり女は小さくため息を吐いた。
「アタシと一緒か。なら仕方ない」
「?」
どーいうことだ?
意味深な言葉に健太は訝しんだが、タカの覚悟は固まっている様子だった。
包丁を再度握り直す。
「残す言葉はあるか?」
「別に。この世に未練なんてないから」
引ったくり女は毅然とした態度で、タカを見る。
未練はない、か。
果たして、本当にそうなのだろうか。
コイツには知らないオッサンと肉体関係になってでも、叶えたい何かがあった筈だ。普通の人生を歩むことなく、いや普通の人生では手に入れられない何かを手に入れたかった筈だ。
ココで殺されようと文句の言えないことを、コイツはやってきている。でも、何の夢かは知らないが、他人を犠牲にしてでも叶えようとしている夢がある。
終わりにさせて良いのか?
記憶の片隅で、とある少女が自分に手を振っている。白いワンピースを着た彼女の表情は見えないのだけど、彼女の気持ちはいつだって自分の側にあった。
彼女の白いワンピースが、赤く染まったあの日までは。
また、繰り返すのか?
心のどこかで誰かが言う。
また、目の前で、誰かが傷つく様を見ているのか?
答えは、ハナから分かっている。
もう、
繰り返したいとは
思えなかったから。
気が付くと、健太の手は刃物を握りしめるタカの腕を掴んでいた。
「な、何してんのアンタ?」
信じられないといった様子で、引ったくり女が健太を見ている。
「何のつもりだ?」
タカがギロリと健太を睨む。
健太はその目を冷たい瞳で見つめ返した。
「信念だよ」
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