第22話 水掛け論
おー、行くとこまで行ってんな。いや、イクとこまでイったのか?
タカの話を他人事のように聞きつつ、チラリとひったくり女の方を見る。
何やら神妙な面持ちで2人の会話を聞いているが、どんな気分で聞いているのだろう。てか、強盗の方もコイツが騙したのか?この強盗は、カモりやすい性格をしていると思うが。
タカの話は続く。
「つい、その子とヤったことが嫁にバレて、別れることになって、慰謝料や子供の養育費を払うことになった。その辺りから会社もうまくいかなくなって、ヤケになって大金かけたウマで負けて、今やこのザマだよ」
「さっき、俺が言ったこと全部当たってるじゃねぇか.....」
ノリが絶句する。
そーいえば、言ってたな。
タカは頭を抱えている。
「もう、こーするしかなかった.....もう無理なんだよ.....」
この精神状態の強盗なら、容易に刃物は奪えるかもしれない。ただ、捕まえて終わりにはしたくなかった。
その結末では、この場にいる奴らは誰も浮かばれないから。
その上で、健太は話をすることにした。
「えーっと、強盗のオッサン?」
「.....あ?」
突然知らない奴から話しかけられて、強盗は怪訝そうな視線を健太に向けた。
「あ、別に大した話じゃないんだけど。今のオッサンの話を聞いたら、つい声を掛けずにはいられなくて。大変だったんだなって」
「うるせぇ!部外者は黙ってろ!!」
オッサンが表情が一変して怒りで滲む。
そりゃそーだ。
アンタの人生から見たら、俺は部外者。
その上で伝えなきゃダメだ。
「確かに。俺は部外者かもしれない。ただ、こうも考えられないか?俺から見たら、アンタも部外者だ」
「ゴチャゴチャうるせぇぞ!何が言いたい!?」
先ほどとは打って変わって、怒声を張り上げ続けるタカ。ボソボソ喋ってりゃ良いのに。喉疲れるだろ。
「俺は普通に昼飯を食いに来ただけなんだよ。なのにそれが、いきなり強盗に遭遇するわ、オッサンの昔話を聞かされるわ、無駄な時間取られるわ、俺の身にもなれって話をしてんだよ」
「あぁ!?」
「だから、テメェの方がうるせーし、黙れって言ってんだよ」
「んだとこのクソガキっ!!!」
タカの目は怒りで血走っている。
「おい!お前何言ってんだ!」
背後でノリの声がしたが無視した。
タカがどんな行動をしようと、タカに1番近い場所にいるのは俺だ。怒らせても問題ない。
いつだって覚悟は出来てるから。
「自分ばっか辛いと思ってんのか?オッサンにもなって、みっともねー!その傷ついた心で、どうして他の奴の心に寄り添えない?どうして、他人の痛みがわからない?たくさん傷ついたアンタなら分かるだろ?」
「.....」
健太の言葉に強盗は押し黙った。
構わず言葉を続ける。
「逃げ場のない感情だったのかもしれない。誰かに分かって欲しかったのかもしれない。自分を許せなかったのかもしれない。でも、そんなこと、誰だってあるだろ?俺だってある。後ろのオッサン達にだってあるし、そこのレジの女にだってある。アンタの嫁さんや会社の奴らにだってある。いっぱい傷付いたのなら、いっぱい後悔したんなら、その分他人の痛みに敏感な筈なんだよ。アンタはきっと、そんな人なんだよ」
「うるせぇぇえ!!部外者は黙れ!!」
「だから俺から見たら、お前も部外者だって言ってんだろ!いい加減自分のことだけ考えんのを止めろって言ってんだよ!」
「んなこと出来るかっ!」
「出来る!今は気持ちがぐちゃぐちゃになってるから出来ないって思うだけだ。自分に向けていた感情を少しずつ、周りに向けていくんだよ。そしたら、少しずつ周りが見えるようになって、周りを通して自分の見え方だって変わってくる」
「何も分かってないガキが偉そうに言うな!」
「何も分かってないオッサンにも偉そうに言われたくないね!」
完全な水掛け論。だが、これでいい。
てか、部外者の立場からだと、これしかない。
会話の中で気持ちをすべて吐き出させてやる。昨日のヒゲのオッサンと同じだ。
強盗の気持ちは少しずつ揺れているように感じる。このまま押し切ろう。
それに、昨日とは違う。このオッサンは、まだ引き返せるのだ。
止めてやる、必ず.....
そう思ったそのとき、
突如頭上から水が降ってきた。
「へ?」
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