第21話 タカとノリ
強盗に話しかけたのは、ひったくり女に騙されたと話していたオッサンの方だ。強盗がピタリと後退りを止める。
「やっぱり、タカアキだよな?俺だよ俺。ノリタケだよ」
いや、とん○ねるずか、お前ら。
「お、覚えてねーか?高校の同級生の...サッカー部と野球部で.....」
怒られるぞ、その内。
強盗は返答に困っているのか口籠もっている。しかし、やがてボソボソと呟いた。
「.....し、知らねーよ。誰だよお前は」
「やっぱり!そのボソボソ声、タカアキだよな!」
いや、ボソボソ声で覚えてやんなよ。可哀想過ぎだろ。てか、さっきの怒声からよく気付けたな?これが絆ってやつなのか!?
「違う!」
強盗が首を振り否定する。
「俺はタカアキじゃねーよ.....ノリ」
「タカ!!」
これは何を見せられてんだ。
「久々だな、同窓会以来か?お互い.....歳とったな」
ノリがタカに話しかける。
「気安く、呼ぶな」
「中々上手くいかねーよなぁ、人生ってよ。若い頃は何だって出来ると思ってたけど、この歳になると分かる。自分は何も成せない凡人だってことに」
タカの言葉を無視して、ノリは話を進める。
ただ、名前がうるさ過ぎて、健太は話半分で聞いていた。
いや入ってこないって、名前が名前だから。
ノリの話は続く。
「会社うまくいかなかったか?それとも嫁さんに逃げられたか?馬で負けたか?良かったら何があったか話してくれよ。旨い酒には旨いツマミが必要だ」
ここ居酒屋じゃねーけどな。
「お前に、話すことは、ない」
タカが途切れ途切れになりながらボソボソと言う。
「なら俺の話でも聞いてくれよ。実はよぉ、最近女に騙されたんだよ。良い歳こいて何やってんだって話だけどさ」
健太はチラリと、ひったくり女の方を見る。彼女は静かにノリの話に耳を傾けていた。
「でもな、良い夢見れたと思うんだよ。結局ヤれなかったし金も盗られた。だけど、それでも少し、バカやってたあの頃に戻れた気がすんだよ」
静寂に包まれる店内で、ノリの声だけが響いていた。
「お前も色々あって、訳わかんなくなってたんだろ?大丈夫。俺もだから。だから、また一からやり直してよ、一緒にバカやろーぜ?」
まさかの説得劇だったが、なかなか良い線行っているのではないだろうか。最初は名前がうるさくて会話が入ってこなかったが、今はスッと頭に入ってくる。
タカの方を見ると、小刻みに肩を震わせていた。
「もう無理だよ.....俺には」
「大丈夫。大丈夫だから」
ノリが優しく声を掛ける。
しかし、タカは頭を抱えた。
「無理だ。無理なんだよ、タカ。俺、ヤっちまったから」
「何を?このことなら、まだ間に合う!まだ金盗ってねーだろ!?」
「違うんだ....」
ノリの目から大粒の涙が溢れる。
「俺も女に騙されたんだ.....」
「俺と一緒じゃねーか!大丈夫だよ!」
ノリが大きく首を振る。
「違う。その、俺は、その子とセッ○スしたんだ」
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