第20話 鍵
ひったくり女は息を切らしながら、金庫のようなものを抱えて店の奥から現れた。相当重いらしい。
これを運んでいたから、遅かったのか?
「も、持ってきましたよ?」
まさか、帰ってくるとは思わなかった。少なくとも普通なら警察に通報だけして、あとは警察に任せているだろう。
逆に何で帰ってきた?
てか、ちゃんと通報したのかコイツ?
まさか、バカ正直に持ってきたのか?
「中を見せろ」
強盗に命令され、ひったくり女は頷いた。
金庫を机に置き、持っていた鍵で開ける。鍵は束にして持っているようで、取り出した時にジャラジャラと音が鳴っていた。
そんなに喫茶店で鍵使うっけ?
喫茶店でバイトをしたことがあるが、その記憶はない。そりゃ裏口とかの鍵あったけども、せいぜい2〜3個だった。少なくとも個人にここまで持たせない。ひったくり女は少なく見積もっても10個近い鍵を所持している。
ひったくり女の手によって、金庫の鍵が開けられる。
ひったくり女は小銭の入ったプラスチック容器や札の入った封筒を何冊か取り出した。恐らく千円札や万札が小分けにされているのだろう。
「これで全部です。恐らく20万ほどあるかと」
「それでも20か、クソ」
そもそも喫茶店に、そんな金あるわけねーだろ。売上なんて基本、その日の内に銀行に入れるもんなんだから。働いたことないのかコイツ。
思ったが口にはしなかった。
これ以上、揉めたくはない。今でも、ありえないくらい揉めている最中なのだから。
「チッ、仕方ねー。そんだけでも寄越せ」
男に催促され、ひったくり少女は封筒を渡した。
目当てのものを手に取ると、強盗はそれを手持ちの鞄にしまい、後退り始めた。
もう、ここには用はないからだろう。
ま、これで良かったのかもしれない。金だけで済んで良かった。ゴメンね、この喫茶店の経営者。
これで一応、事態は収束するのかと思ったが、思わぬところから横槍が飛んできた。
「お前、タカアキじゃねーのか?」
振り返ると、先ほどのオッサン2人の内の1人が強盗を見て指差しているのだった。
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