第19話 メロスを待て
前回までのあらすじ
知らないオッサンに紹介された仕事先に行ったら事務所に人がいなくて、たまたま遭遇したひったくり犯を問い詰めていたら、強盗にも遭遇した。
うん、意味分からんね。
誰か説明してくれ。
目の前で全身黒づくめの男が唾を飛ばしながら叫ぶ。
「おらテメェ!!手ェ挙げろ!!んで金出せ!!」
「いや、あの、手挙げてたら、金出せないんですけど」
「そこをなんとかするんだよ!!」
「できるか!」
いやマジで説明して。
助けを求めるように隣のひったくり女に目を向けるが、彼女も手を挙げた状態で小さく首を振るのみだった。
いやお前店員だろ、客助けろよ。
てか金ない奴多過ぎじゃないか?皆どんだけ借金してんだよ。
......て、俺も今、仕事ないんだった。
「とにかく全員手を挙げろ!!んで、そこのレジの女!レジ金出せや!!」
強盗が唾を飛ばしながら、怒声を放つ。
いちいち汚い奴だ。きっと黒づくめの中身は昨日の浮浪者と同じようなもんなのだろう。
うわ、思い出したら、イライラしてきた。
強盗に金を出せと言われたものの、ひったくり女は躊躇していた。
「あー......わたしバイトなんで、勝手にお金は出せないというか......」
「いいから出せって言ってんだろーが!!」
「えー.....」
強盗に詰め寄られ、ひったくり女は苦笑いを浮かべる。その目がチラチラと男の持っている刃物に向く。
「......わ、わかりました」
熟考した結果、ひったくり女はそう言うと、レジを開けた。
ま、仕方ないわな、この状況じゃ。
チラリと店内を見渡すが、全員が強盗とレジの女のやりとりを固唾を飲んで見ている状況だ。あれだけ大声で文句を垂れていたオッサン2人も今や静かなもんだ。
さて、どーしたもんか。
昨日から何かと面倒に巻き込まれる。いや、今に始まったことじゃないか。
小さく溜息を吐く。
ひったくり女がレジを開けて、中のお金を袋にまとめて強盗に手渡す。強盗は袋の中のお金を一瞥し、ひったくり女に尋ねる。
「大体いくら位だ?」
「ご、5〜6万くらいですかね」
「しけてんな。店の奥にはいくらある?」
「さー?確認しに行かないと分からないというか....」
「なら取ってこい。でも逃げるなよ。逃げたら客の命はないからな」
「わ、分かってます.....」
「通報もするなよ。したら命ねーぞ!」
「は、はい.....」
なんとなく嫌な予感がした。ひったくりや、オッサンから金を巻き上げるような血も涙もない女だ。こんなところで逃げ出すなんて、訳ないのではないだろうか?
コイツを行かせてしまって大丈夫だろうか?
だが、行かせないのは行かせないで不自然だ。
どーする?
ひったくり女の表情を確認するが、その表情は作ったように深刻なものになっている。
結局そのまま、ひったくり女は店の奥に入って行った。
強盗はギロリと健太たちを睨みつけながら監視している。
まさにメロスを待つセリヌンティウスの構図だ。
アイツは戻ってくるのだろうか?
しかし、10分経っても、レジの女は戻ってこなかった。
「遅いっっ!!」
強盗が痺れを切らして叫ぶ。
「あの女、まさか逃げたんじゃ....」
強盗の目は血走っている。
完全にキレたオッサンの目だ。パチスロで負けたオッサンも大体同じ目になる。
「クソッタレがぁぁぁあ!!!」
激昂する強盗を見ながら、また小さく溜息を吐く。
あーあ、やっちまったよ。こうなると、色々と面倒だ。
どう説得しようか。
「おいオッサ.....」
話しかけようとしたが、健太はその口をつぐんだ。
店の奥から、ひったくり女が息を切らして現れたから。
「も、持ってきました.....よ?」
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