第18話 レジの女
って落ち着け。
正確にはオヤジ狩りではない。暴力はやってない。オヤジをターゲットに金はくすねているようだが。
恐らく、さっき会った少女はオッサンを自分の身体で釣り、金を盗んでいたのだ。
いや、上手いことやってんな。オヤジ側はやましいことがあるから言うに言えない。そこを狙って金を盗ってるんだ。
まだ確証があるわけではないが、その仮説が健太の中では確立してきていた。
朝の出来事も、恐らく同様だ。だから、あのオッサンは、ひったくり犯呼ばわりしてあの女を止めようとしたんだ。いやどっちも黒かったじゃねーか!助けて損したわ!
別に自分が警察に言わなかったことは優しさでも何でも無かったのだ。あの女は言われないことが分かった上でやっていたのだから。
小さく舌打ちする。
見逃すんじゃなかった.....
良いことしたつもりが、とんでもない奴を世に放ってしまっていた。
と、落ち込んでいても仕方ない。それに、こんなことは自分の仕事ではない。本来考える必要のないことだ。
それに全部、自分の仮説に過ぎない。
そう思い席を立つ。
お会計をする為、レジに向かう。
「1080円になります」
ボッてんなー。
そう思いつつ、お金を目の前の女性店員に差し出す。
しかし、そのとき何かが引っかかった。
あれ、なんか聞いたことのある声では?
「お預かりします」
やっぱり。
女性店員をまじまじと見る。背中くらいまである茶髪で、少し派手なメイクをしている。
が、その顔は今朝も間近で見た。
というか、コイツがバカみたいに近づいてきただけだけど。
「おい」
低く短く声を出す。
「お前、今朝のひったくり女だろ?」
低い声のまま続ける。
女性はポカンとした表情で健太を見つめていた。
「何のことでしょう?」
しらばっくれる気か?
「いや、だから」
「警察呼びますよ。客が店員に執拗に口説いてくるって!」
「!」
このやろっ。
女が大きな声を出したからか、なんとなく周囲からの視線を感じる。あまり注目は浴びたくない。
「いや警察呼ばれて、まずいのはお前の方だろ?」
少し声のトーンを落とす。
「証拠はどこにもないですから」
「その発言はお前が色々やってるって白状したと捉えるけど?」
女性店員、いや今朝のひったくり女は少しの間、無言で健太を見つめる。
「別に隠してもないです。あまりバレたくはなかったですが」
隠してもない?
引っかかる言葉だ。
「どーいうこ.....」
とだよ、と続けようとしたそのとき、入り口のドアの金がカランカランと鳴り響いた。
「いらっしゃいませー!」
引ったくり女の視線が自分から入口に動く。
しかし、その視線は入り口で固まった。
釣られて入口を見ると、健太も同じように固まった。
入口には覆面を被った全身黒ずくめの男が刃物を構えて立っていた。
「おら金を出せ!!500万だ!500万寄越せ!」
いや何この展開!?
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