第17話 オヤジは狩るもの

「夢?なんだよソレ?」

「知らない。とりあえず死ね」

「語彙力無いんかお前」

軽く言葉を交わした後、少女は踵を返した。

「もう用ないから帰る」

「真っ直ぐウチに帰れよ」

「保護者か」

少女は歩みを進めようとしていたので、その背中に少女の着ていた上着を放る。

驚いて少女が振り返る。

「忘れモン」

一言そう伝えると、少女は口をへの字に曲げた後、上着を手に取り、何も言わずに歩き去っていった。

「はー、朝からダル過ぎだろ」

少女の背中を見送った健太は溜息を吐き、奪い返した財布を見つめるのだった。


財布は無事に汚いオッサンに返却した。

中身が取られていなかったことと、本人も反省していた旨伝えて、警察には通報しないということで合意してもらった。

てか、あの状況ですぐに警察に通報しなかったっていうのも、おかしな話ではあるのだが。

事務所であろう雑居ビル近くの喫茶店で昼食を取りながら、健太はボーッと宙を見ていた。

やべぇ、何も進展してねー。

てか、仕事紹介されて事務所行ったら誰もいなくて鍵が無いって何だよ。99%詐欺じゃねーか。

あんなホームレスの言うことを間に受けるんじゃなかったよ、まったく。

心の中で毒づいていると、ふと近くの客の会話が耳に入ってきた。

中年のオッサン2人の会話だ。

「ったく、やられたぜ。また外しちまった」

「馬か?」

「ちげぇよ。女だ」

「へー、上玉だったか?」

「あぁ。ヤる前にトンズラこかれた。ネットで出会ったんだが、まずったぜ」

「だから言ったろ?店行くのが1番固ぇってよ」

「いやー、イケると思ったんだがなぁ。ロリ系で俺好みでよぉ。黒髪ショートで小柄で、またこれが可愛いかったわけよ。あと、もうちょいでヤレるってとこで逃げやがったのよなぁ」

真昼間から気色悪い会話をしている連中だ。まったく、いい歳して仕事しろっての。

て、俺もだわ。

壮大なブーメランを内心喰らっていると、耳を疑う言葉をオッサンの1人が吐いた。

「しかも、金も盗られたんだよ」

金?

「最初にいくらか渡してたんだろ?」

「いやソレ以外もだ。財布の札束全部持ってかれたよ。だが、サツに言おうにも、言えねーからなぁ」

「まー、やましいのはお前も一緒だもんな」

「そーなんだよ。うまく狩ってやがるぜ、あの娘は」

ギャハハハとオッサン2人が高笑いしている。

なんとなく耳を疑う話ではあった。だが、健太の中で、ある仮説が立てられようとしていた。

まさかとは思うが、いや、恐らく間違えてはいない。


朝会った、あのガキ。

オヤジ狩りしてんじゃねーか!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る