第14話 電話
「東京都警の藤谷と言います。白瀬健太さんのお電話でお間違えないでしょうか?」
その声は聞いたことがあった。というか、さっき自分を尋問していた警察の人だ。
「はい、白瀬です」
「先程はありがとうございました。少しお話があるのですが、お時間よろしいでしょうか?今日の事件の男性の件で」
最後の言葉で内心ビクッとなる。
「大丈夫です」
そう言い、藤谷の次の言葉に意識を集中する。
「本当はこういったことは、規約違反にはなるので、内密にして頂きたいのですが」
前置きした上で、藤谷が話し始める。
「彼から伝言があります」
伝言?
「え、そーいうのって大丈夫なんですか?」
「本当はダメです。ただ、本人が本当に強く訴えていたので、やむを得ずといったところです」
藤谷の口調からは呆れたような、どこか疲れたような雰囲気を感じた。本人も乗り気ではないのかもしれない。
だが、聞かないわけにはいかない。
あんな最後では、納得なんて出来ない。
ゴクリと息を呑む。
「で、どんな?」
恐る恐る尋ねる。
"お前と話せて良かった。また会おう、心友"
「!」
「彼はそう言っていました」
言葉は出なかった。
時間が数秒間の間、止まったのかと思うほど、息をすることを忘れていた。
自分の言葉は届いていた。
もう、誰にも届くことはないと思っていたから。
自分の手は、自分の声は、自分の想いは、まだ誰かに届いていた。
取るに足らない感情だ。側から見たら別に特別なことでもない。
でも、自分にとっては自分の人生を決めるに値するほど、特別なことだった。
あの銃声を聞いたとき、逃げなくて良かった。
父親の意味の分からない言葉を覚えていて良かった。
あの男の話に乗っかって良かった。
そう思った。
「あなたが第三者的立場から事件に関わったことについて肯定は出来ませんが、彼の人生にとっては良い影響を与えていたのかもしれませんね」
藤谷は事務的な口調で続ける。
「.....そ、そうですか」
「伝言は以上です。何か今回のことで思い出したこと等ありましたら、またお問い合わせ下さい」
「分かりました」
「では失礼致します」
電話はそこで途切れた。
手にしていたスマホを持ったまま、ベッドに腰を下ろす。小さく息を吐き出し、天井を見上げた。真っ白な天井だけが広がっている。
そこには、何もなかった。
あるのは、ただの真っ白な天井だけ。
何色にだって、描くことが出来る、真っ白だけ。
健太は、気付いたら右手を強く握りしめていた。
「あー.....悪くねーな、こーいうの」
ポツリと吐いた言葉は空気中であっさり消えても、胸には温かい何かが確かに残っていた。
翌日。
健太は、マサムネに渡された名刺に書かれた事務所がある場所に来ていた。
そこは雑居ビルのようで、住所はその2階だった。
「さて、行くか」
一歩を踏み出す。
どう生きるのか。
その答えが出せたわけじゃない。
ただ、自分の色で世界を塗り替えていこう。
今は、それで良い。
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