第4話 5分

「どーいうことだよ?」

健太がそう尋ねると、男性は小さくかぶりを振った。

「おまえに話す義理はない」

「話だけ聞いてやるっつってんだよ。言っとくけど、今言わなかったら、もう誰にも自分の苦しみを吐き出すことなんて出来ねーぞ」

「どーいうことだ?」

「俺がいたのは近くの公園だ。銃声は丸聞こえだった。つーか、俺以外に銃声を聞いた人がいてもおかしくねーだろ、こんな住宅街なら尚更。下手すりゃ、もうすぐ警察が来るかも」

「、、、、!!」

「だから、今しか吐き出すチャンスねーぞ。捕まったら誰もお前の話なんて聞いてくんねーからな」

「、、、、」

「見ず知らずの奴の方が話しやすいこともあんだろ?言うだけ言うてみ」

「、、、、、何が目的だ?」

「あんたの話を聞くのが目的さ」

「また、へらず口を、、、」

「人生において目的なんて大したことじゃないだろ。大事なのは、一歩踏み出したかどうかだ」

「訳の分からんことを、、、」

「いや、今のあんたなら痛いほど分かんじゃねーの?だって、一歩踏み出したから、あんたは今ここにいて、銃を構えている。相応の覚悟がないと出来ない。少なくとも俺には無理。ここに来たのも、あんたなら"撃たない"と思ったから来たんだ。撃てないじゃなくてな」

「おまえ、、、、本当に何者だ?」

「ただの就活浪人生かつ野次馬ですよ」

「まったく、、、」

男性が初めて小さな笑みを浮かべる。

「おまえに、あと5分早く会いたかったよ」

「俺もだよ」

健太も小さく笑った。

男性は銃を下ろし踵を返した。そして、短く言い放った。



「中に来い」

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