第3話 対面
振り返ることは出来なかった。
振り返れば、確実に顔がバレる。いや後ろ姿の時点で既にバレてるか?今なら逃げれるか?そもそも、相手は俺が何を知っているのか把握出来てるのか?いや、こんな静かな住宅街で銃撃った時点で誰か来ること位、警戒してるはずだ。中に入って、ただで済むなんてことない。てか、ここまで来たら警察連絡しても信用してもらえるよな。連絡する?
自分の方が状況は有利なはず。犯人にこれ以上、罪を犯すメリットはない筈。いや、それも犯人の目的によるのか、、、てか何者にしろ、危険なことに変わりはない。少なくとも銃持ってるわけで。
頭の中で色んな考えが交錯する。あ、ダメだ。全然整理出来てない。
健太は、考えることを辞めた。
インターホンの方へ振り返る。表札をちらりと見る。武知と書かれている。
「あ、武知さんですか。いやー、車無いからいないと思いましたよ。今日は仕事休みですか?」
「白々しい嘘は止めろ。良いから俺が向かうまで、そこを動くな。俺は銃を持っている。いつでも撃てるからな」
インターホンから声が聞こえた。そこまで言ったところで、ブツッと通話が切れる音がした。
おー、いよいよヤバいな。ガチのやつじゃん。昼間から生サスペじゃん。
暢気なことを考えつつ、健太はそこを動かなかった。相手が銃を撃てるとは思っていない。今なら逃げれる。でも、逃げなかった。
もう逃げるのは飽きたから。
誰にだって事情がある。理屈より感情を優先したくなる状況がある。自分の場合、それが今だっただけのこと。他人に理解されなくて良い。自分が自分を理解出来ていればそれで良い。てかそもそも、ここに誰もいないしね。
玄関がカチャリと音を立てる。中から現れたのは立派な無精髭を生やした中年の男だった。頭皮は薄く眉も薄い。
「顎に全部持ってかれてるじゃん、、、」
「動くな」
健太の呟きを一蹴し、男性は銃を両手で構えながら歩み寄ってきた。銃口は真っ直ぐ健太の顔に向けられている。
「あからさま過ぎるでしょ」
健太は少し顔を引きつらせつつ、少しでも余裕な表情を見せようと口元に笑みを浮かべた。これが今出来る精一杯の抵抗。
「手を挙げろ」
男が短く言う。
言う通り両手を挙げる。
「もう通報したのか?」
「したって言ったら殺す?」
「、、、、、」
「殺さない、、、でしょ、あんたは」
「何故そう思う?」
「そんな気がするから」
「何?」
「辛い経験してる奴は他人に優しくなれるから。あんたの頭の毛根は死んでるけど、あんたの目は死んじゃいないように見える。何でこんなことしてんの?」
健太のど直球な質問に男性は一瞬躊躇う。
「何が目的だ?時間稼ぎでもしようとしているのか?他に仲間がいるのか?」
「いやいない。ついさっき就活に失敗してヒスってたけど、銃声を聞いて駆けつけた、ただの野次馬ですよ俺は」
「野次馬?警察に通報は?」
「してない」
「何、、、?」
信じられないというように男性の目が見開かれる。そして、一瞬安堵の表情が浮かんだ様子だが、すぐに我に返ったのか表情が引き締まる。
「通報してない証拠はない」
健太はポケットに入っていたスマホをケースごと男性に投げた。
「俺のスマホ。電源は切れてる」
「だが、公衆電話からかけたって可能性も、、、」
健太はポケットに入っていた財布を男性に投げる。
「一銭も入っていない。何故なら俺は無職だから」
「いや、無職という証拠は、、、」
健太は財布を指差した。
「中見てみろ。非課税証明証が入ってる」
「、、、、、」
「、、、、、」
「、、、、、いや何か言えよ」
「お前、マジで何しに来たんだ?」
「だから野次馬だっつってんだろーが!いい加減信用しろテメー!殺すぞマジで!」
「、、、、銃持ってんの俺だけど?」
「良いよ、奪って殺すから。エロマンガ島に伝わる18の暗殺拳法見せてやる」
「、、、いや何その島?」
「は?知らねーの。あの男子中学生を経験した者なら一度は友達と語り合う伝説の秘島、エロマンガ島のこと知らねーの!?あ、友達いなかったクチだなお前」
「う、うるさい!とにかく訳の分からないことを言うな!冷やかしなら帰れ!」
「、、、え、帰って良いの?俺、助け呼ぶかもよ?」
「もう良い。おまえは殺す価値もない!!」
「あはは、すげー言われよう。ま、帰る気ないけど」
「何?」
「野次馬だっつっただろ。中見るまでは帰れないかな」
「おい、ふざけるのも大概にしろ」
「ふざけてねーよ。中にあんたが撃った"何か"がいるんだろ?」
「!!」
「助けるまで俺は帰らない」
「、、、ら、、、ない」
「え?」
男性の言った言葉が聞き取れず、健太は聞き返した。男性が繰り返す。
「もう助からないんだよ、、、アイツは、、、」
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