第2話 インターホン

銃声が聞こえた方へ歩きながら、健太は思考を巡らせた。

自分がいた公園は、住宅街のちょうど真ん中あたりにあり、小学校の授業が終わると、地域の子供たちが訪れる場所だ。当然、銃声が聞こえたのも、住宅街なわけで、場合によっては誰かの敷地の中で事件は起きたのかもしれない。

、、、いやいや真昼間から何起きちゃってくれてんですか。昼間は昼ドラでお腹一杯なんだよ。サスペは夜やっとけよマジで。

心の中でいるかも分からない犯人(?)を毒突きながら辺りを警戒する。

しかし、本当にこんな静かな住宅街で殺人などあり得るのだろうか?静まり返る住宅街を歩きながら、健太は次第に疑心暗鬼し始めていた。銃声が聞こえたのは、たった1回。就活ミスりすぎて幻聴でも聴いてたりして?

頭の中で一つの言葉を思い出す。

ーー長生きするのは賢者と臆病者。

漫画好きの健太にとって、その言葉はよく耳にする言葉。愚者と勇者は早死にする。今の自分がどちらかなんて火を見るより明らかだ。

分かってる。

だけど、、、

声のしたであろう場所に到着する。やはり住宅街内。路地には人っ子ひとりいない。とりあえず、近くの家入ってみるか?

何も起きていなければそれで良い。杞憂で済むのならそれに越したことはない。でも何か起きていたら、、、

ひとつの影がフラッシュバックする。




「健太、、、助けて」




暗闇の中から自分に向けられたその手は、赤く染まっていた。


自分を見つめるその瞳は、赤く塗りつぶされていた。


自分を呼んだその声は今にも消えそうな程、かすれて震えていた。



俺はその人の手を、どうしたのだろうか。

掴んだのか、振り払ったのか、その記憶はもうない。覚えてないのか、忘れたくて自分で記憶に蓋をしたのか、それは分からない。

ただ、その記憶が、今自分をつき動かしている。

行かなきゃいけないと心の奥底でもう一人の自分が叫んでいる。


健太は近くの住宅を覗いた。ただの不審者だ。健太は一旦他人の評価を忘れることにした。

この家には車も無ければ人の気配もない。留守か?

仮に殺人があったとして、まず考えられる状況は住人と誰かが揉めて流れで殺してしまった、とかだろうか。ただ、銃があったことを考えると、計画的な殺人?いやいや、こんな住宅街で銃鳴らしたら速攻でばれるだろ。つい口論になって、ついつい持っていた銃で殺しちゃった?なわけねーだろ!!

脳内ボケツッコミをしながら、健太はひとまずインターホンを押した。

「、、、、、」

いや何で押した俺?

殺人犯がいるかもしれないのに。何で自分の存在がバレるようなことした?

アホか。今世紀最大のアホか。さっき愚者の話したばっかだろうが。速攻でフラグ回収してんじゃねーよ俺!

逃げようかと思ったが辞めた。そもそも物音ひとつしないからだ。

ま、この家はシロだったのだ。

そう思い、家から離れようとしたそのとき、、、


「動くな」

どこからともなく聞こえたその声に、健太の足はピタリと止まった。

銃声を聞いたときと同じように背筋に冷たいものが流れる。一気に血の気が引いていく。



何故なら、その声はインターホン越しに聞こえたのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る