第1話 銃声
「この度は貴社の面接を受けて頂き、誠にありがとうございました。貴方の今後のご活躍をお祈りしております、、、、」
白瀬健太は文面を読み上げると、一息ついた後に用紙をビリビリに引き裂いた。
「アァァァァァァ!!!ウゼェェェェェ!!!何回祈ってんだクソ野郎!その割に全然祈り通じてねーじゃねーかぁぁぁ!!!」
昼下がりの公園。自分以外に誰もいない空間に、健太の叫びが虚しく響き渡る。
叫び終わった後、健太はベンチにだらんと力なく座りこんだ。
自分以外に誰もいないこの場所は、なんとなく寂しい。まるで自分はこの世の中で一人ぼっちのような。
、、、いや大袈裟かよ。
徐に天を仰ぐ。
今日は生憎の快晴だ。空には雲ひとつない青空が広がっている。その青空を一機の飛行機が真っ直ぐ飛んでいく。
「はー、こんな晴れてんのにどうして俺の将来は視界良好じゃないんだ、、、」
言ってから溜め息をつく。
ダメだ、上手いことすら思いつかない。
ここまで受けてきた企業は7社。他の就活生に比べれば、大した数字では無いかもしれない。ただ、それでも自分が誰にも必要とされていないという現実は何も変わらない。
「何してんだ俺、、、」
ポツリと言葉が溢れていた。
見上げた空は自由だ。どこまでも広がり、どこにも障害物なんてない。
この世界で、自分は本当にちっぽけな存在だ。
きっと、社会の中で生き続ける限り、この想いが消えることは無いのだろう。
自分はどうなりたいのだろうか?
ビリビリに破いた不採用通知を公園のゴミ箱に捨てていると、ふと近くの住宅から怒鳴り声が聞こえた。
「!」
あまりよく聴こえないが、なんとなく修羅場なのは怒っている奴の声で分かった。
そーいえば、昔は自分も父親によく怒鳴られてたっけ?父は普段はヘラヘラしていて寒い親父ギャグを連発しているクセに変な所でよく怒る人だった。ラーメンの食べ方一つでも最終的には怒ってたっけ。
ま、今となってはどうでもいいことだ。
帰るか、と思い公園を出ようとすると、、、
バン!!
という渇いた音が轟いた。
それは、閑静な住宅街とは不釣り合いな物騒な音だった。
、、、銃声?
銃声なんて小学生の頃の徒競走で使われるちゃっちいものしか聞いたことは無いが、この音はそれとは全くの別物だった。
心の奥底の奥底まで不安を煽るような、そんな音だった。
「、、、、、」
思考がうまく回らない。
頭が真っ白になっていくのが分かる。
顔から血の気が引いていき背中に冷たいものが走る。それをリアルタイムで感じた。
何が起きてる?
怒鳴り声はもう聴こえない。
銃声の後は、また閑静な住宅街に元通りだ。
死んだ?
サスペンスドラマの殺人シーンのような不吉な映像が頭の中に流れてくる。
そうでは無いと願いたい。でも、、、
銃声と怒鳴り声は同じ方向からしていた。ここから、そう遠くはない。下手をすれば、銃を撃った人間がここに来るかもしれない。
いや、それよりも、撃たれた人はどうなった?
いやいや、そもそも撃たれたかどうかもわからないんだけども。
情報が少な過ぎる為、嫌でも自分の想像で情報を補填してしまう。このまま、ここを去ることは出来る。だが、もしかすると殺人を犯したかもしれない人間に会うこともあるかもしれない。すべてが不確定で本当にこれが現実なのかと疑いたくなるが、、、
「確かめてみる、、、か」
それは、興味からか、撃たれた(かもしれない)人を助けたいという善意からなのか、分からない。
ただ、自分の歩みは自然と銃声の方へと進んでいた。
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