(仮)×2

心地の良い風、優しい日差し。窓から望む空は快晴そのもの。


こりゃもう昼寝するしか選択肢がないってものだろう。正面の教壇では先生サマが気を利かせて白墨をドラムに心地よい子守唄を歌ってくださっている。

これは眠らない方が失礼でさえある、と俺は認識する。


「おい佐藤、佐藤!」


今は現代文の授業中。どこかの可哀想な奴が御指名を受けているようだ。俺のような奴には関係ないが、ね

「ふぁ~……ねむ」


「佐藤! お前だお前!」



「えっ⁉ 俺⁉」


「お前、アタシの授業中になにぼーっとしてくれてんだぁ? 日本人だから現文の勉強が必要ないっつったらそんなわけねぇんだからな?」

「あ、はは……すんません……」

これ、間違いなく砂宮の仕業です。


「ほれさっさと読め。六十四ページの初めからな」

「なうはさげぽよ」

「春はあけぼの、な。お前の気分を読むな」

「少々ひどくなりゆく生え際」

「自虐はよせ」

「ハゲてないっす」

「あー読む気が無いのはわかった座れ! ったく……」

やったぜ。こういうのは俺には合わないんだよな。


第一としてこういう現代文だのと……。

「小説、か」

そういえば昨日、砂宮が妙なことを言ってきたっけな。私の代わりに小説を書け、とか。確かに俺は空想が好きだ。自分の内面を見つめ、言葉を起こすことも、嫌いではない。


だが……。


目次を頼りにぺらぺらと教科書をめくり、小説、と但し書きのある作品に軽く目を通していく。細やかに作り込まれている「のであろう」それは、確かに俺の心を揺さぶるものではある。


が、その仕組みを理解し、自身の言葉でそれを興せるのかと問われれば、恐らく俺にそんな真似はできない。


少なくとも、今の俺には。




昼休み、俺は図書館に足を運んだ。あいつがご所望の小説ジャンル、「ライトノベル」を見漁りに来たわけだ。

「ライトノベル、ライトノベル……」

どこにあんねん。図書館をろくに利用しない俺としてはこんなもん迷路と同じだ。


「何か、お探しですか?」

「相川」

俺に声を掛けてきた女子は相川という。

黒髪の短髪に穏やかな目、誰かさんとは真逆の優しい雰囲気を纏っている。俺とは同じ習い事をしているため、面識はある程度ある。


「珍しいね、佐藤くんが図書室なんて」

にこり、と微笑みを向けてくる。笑顔ってこういうもんだよなぁ。しみじみ思う。


「ああ、実はラノベを見に来たんだ。買おうとするとどうしても趣味が偏りがちだからな、色々なものを読みたいんだ」

「あー、分かるなぁその感じ! 私はライトノベルとかはあんまりだけど、表紙とか帯を見てたいていきめちゃうんだよね。

佐藤くんはどんなのが好みなの?」

「へっ⁉ ああいや、俺はほら、あの、わりと気まぐれで選ぶかな」

「なるほどね、びびっ! ときたやつを買うタイプなんだね」


納得してくれたか。……命拾いをした。


「ライトノベルならこっちの棚だよ!」

心底楽しそうに俺の先導をする。このきらきらふわふわした感じは誰かさんにもぜひ見習っていただきたいものだ。お前のことだぞ砂宮。


「おお、意外と色々あるんだな」

俺の記憶ではライトノベルなんて図書室にはまず置かれなかったと思うんだがな。表紙の女の子が性的搾取だだの勉学を行う場として似つかわしくないだのと。


まあ、わからないこともないな、ということで特に文句もなかったわけだが。


「うん、最近は先生たちもあまり硬いことは言わないみたい。色々な本を読む機会が生まれるっていうのはとても素敵なことだと思うなぁ」

相川、まったくとくできた娘だ。人の差っていうのは一体どこで生まれるんだろうな。


「さて、何を見たものか」

俺は無作為に本を棚から引き抜く。


背表紙でわかっていたが、最近流行りのタイトルがやたらと長いタイプの本だ。おめめが大きくファンタジーテイストな女の子が杖やら剣やらを持っている。

開いてみると、巻頭にカラーでちょっとえっちな感じのいわゆる『サービスカット』があった。マーベラス。


「わわ、最近の本ってこういうのもあるんだね……」

おっといかんいかん相川さまが赤面をしていらっしゃる。女子の前でこういうのはあまりよくないな。

「いや、まあ色々あるんだろうな。こんだけタイトル数もあるし」

そう言って俺は本を棚へ戻した。タイトルは記憶したしな。


「どんなジャンルがいいのかな」

「どんな……、どんな、か。ミリタリーとかになる、のかな」


あいつが好きそうなもんといえばミリタリーだろう。今も俺の背中にはその『証左』が残っているはずだしな。


「うーん……。それならこれなんかどうかな?」

そういって差し出してきたのは、ちびっこい女の子が銃を構えている表紙が装丁された本だった。

「これはどんな本なんだ」

「えっとね、性格がちょっときついミリタリーが大好きなサラリーマンがふとした拍子に殺されるんだけど」


ふとした拍子に死ぬのか。まあ果たして人なんてそんなもんか。


「目が覚めたらなんの力もない女の子に生まれ変わっていたの!」

「可愛げない子になりそうだな」

「あはは、まあそうなんだけどね。それでそんな現状を屈辱だと感じるその人が前世の記憶と経験を使って成り上がる……えっと、サクセスストーリー……なのかな……?」


最近流行りの異世界転生ってやつか。面白いには面白いらしいが、いかんせん数が多くてなかなか手が手が出せてないんだよな。


「ありがとう、読んでみるよ」

「え? 役に立てた、かな……?」

急に目を伏せて恥ずかしげにする。優秀だっていうのに褒められ慣れてないのか。

「ああ。本当に助かったよ」

「ほ、本当に? よかったぁ……」

ぱっとこちらに目を向け、目をきらきらとさせる。まあわかる。褒められれば多くの人は喜ぶものだ。


俺としても喜んでもらえるとなんだか嬉しくなるというものだ。


「じゃ、俺は行くよ」

「あ……。うん分かった」

「また道場で会おうな」

「! うん、またね!」

俺は貸し出しの手続きだけ終わらせて図書館を後にする。



さて、今日は帰ったらこいつを読んでみるか。

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カッコカリ(もしくは俺がお前をラノベ作家にしてやるからその性格を直せ!) 吉城チト @st11123

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