第5話 仲間と監視者と新参者のコンツェルト②
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「研究所の研究員は俺を含めて5人だ。メッシュは会ったからあと3人だな。所内の案内がてら紹介するよ」
「所長さん、あの、5人だけでこの敷地を使ってるんですか?」
驚いて聞き返す。
ここは王都から海を渡った孤島で、メッシュと空から見たところ、かなりの広さだった。
この建物にしても5人では持て余すだろうし、さらには別に医務棟だってあったはずだ。
そう、屋上が謎の森になっている建物である。
「いや、他にも働いてもらってる人はいるよ。でも……そうだな。そんなに多くはないってのが本当のところ。……それだけ、魔法研究ってのは忌み嫌われて――ごほん。いまはやめとこうか! やだよな、こういう話って」
所長さんが、戯けるように肩を竦めてみせる。話題に気を遣ってくれているのがわかった。
そうだよね。魔法が使える人たちが差別されていることを、知らないわけがないけど……気持ちのいい話じゃないもの。
「所長さん、いい人ですね」
私が笑って応えると、彼は驚いたように目をぱちぱちさせた。
「あー、えっとさ。その、所長さんってやめないか? 見たところ俺とそんなかわらないんじゃないかな、歳」
「えっ、ああ、ええと……私は22です、今年」
「ほらな! 俺と同い年。ってことで、ルークスでいいよ、デュー。敬語もいらない」
「……!」
あ、ルークスって。うわあ、なんかちょっと仲良くなれた気がする!
私はなんだか嬉しくなって、頷いた。
「えっと、それじゃあ……ルークス?」
「ぅえっ? あ、は、はい」
「ちょ、なんで驚くの? 私が困るんだけど……」
いきなりそわそわする彼に思わず突っ込むと、ルークスは頬をかきながら視線を逸らした。
「いや、あれ……? 呼ばれ慣れてないわけじゃないんだけど……そういえば歳の近い女の子に呼ばれたことなくて。新鮮? っていうのかな……よ、よし。もう大丈夫!」
さあこい! とでも言いたげな彼に、私は笑ってしまった。
「そういうものなんだ……じゃあ、ルークス」
「……は、はいっ」
「ちょっと! 2回目だけど!?」
「うわ、あれ? お、おかしいな……」
ルークスはむうっと唸ると、腕を組んだ。
――そこに。
「……昼間から何をやっている」
「ひゃあ!?」
突然の声は後ろからだった。
私が変な声をあげて飛び退くと、後ろにいたその人は露骨に眉を寄せた。
ルークスは私より頭ひとつ分くらい大きいけど、この人は目線にルークスの頭のてっぺんがくるほどの身長がある。
体つきもルークスよりがっしりしていて、腰には長剣を提げていた。
赤と白を基調とした服に白いマントは、間違いなく騎士の正装だ。
「……ルークス。どこで拾ってきた?」
「拾っ……?」
――じろり。
言いかける私にその人の視線が突き刺さる。
琥珀色の髪は短く整えられていて、同じ色の瞳は容赦なく私を観察していた。
心臓が緊張でどきどきと鼓動を早め、かと言って目を反らすことを許されない雰囲気。
私は、その騎士の視線を真っ向から受け止める。
「拾ってきたんじゃないよ、言い方を考えてくれるかアスト。彼女はデュー、今日から同じ研究員だ」
その雰囲気を変えてくれたのは、ルークスだった。
「研究員? ……まさか、あのふざけた貼り紙で来たのか?」
急に瞳から鋭さが薄れ、馬鹿にしたような、呆れたような声でアストと呼ばれた騎士が答え……あれ、同じ研究員?
「き、騎士様……も、研究員なのですか? というか、別に三食昼寝付きにつられたわけじゃないですが……」
思わず声にすると、ルークスが笑った。
「ちょうど紹介しようとしてたんだ。アスト、自己紹介を頼む!」
気さくな感じでルークスが言うと、アストは腕を組み、私を見下ろす形で頷いた。
「俺はアスト。王立騎士団から、表面上は派遣されてきている。……週に一度は騎士団本部へと戻る、簡単に言えば監視役だ」
「監視役……?」
私は思わず返して、無表情の騎士様を窺った。
ためらいのない言葉。けれど、先程のとげとげしさはなく、むしろただ本当のことを述べただけ、という雰囲気。
……この人はこういう性格なんだろうな。
勝手に納得しておくことにする。
「騎士様……は、その、魔法は……?」
「俺は魔法は使えない」
「……」
ええ、つ、使えないの?
私が言葉を紡げないでいると、見守っていたルークスが、見かねたのか割って入った。
「ここは剣の国だからな。魔法だけで対処出来ないこともあるかもしれない。そんな時のアストってわけ。ちなみに……そうだな、監視役とは言ってるけど、名ばかりだから気にしなくていいよ」
「名ばかり?」
首を傾げると、アストと名乗った騎士様はふんと鼻先で笑った。
「騎士にも色々な道がある。興味があるなら聞きに来い。……俺は行くぞルークス」
「ああ。ありがとな!」
すっと私の横を通り越してから、騎士様はふと立ち止まった。
「ここの所員である以上、俺とお前は対等だ。アストでいい。……お前の魔法はなんだ?」
突然の言葉に驚いて、私はうわずった声でたったひと言だけ答えた。
「雷……」
ぴくり、とアストの右眉が跳ねる。
彼は瞬時にもとの表情に戻ると、そうか、と言って今度こそ立ち去った。
……まるでルークスの時みたい。
私は雷使いである自分に、一抹の不安を覚えた。
「大丈夫、あいつあんな雰囲気だけど、ちゃんと頼りになるからな」
ルークスはどう思ったのかそう言って笑った。思わず、ルークスに歩み寄る。
「あの……か、雷使いって……なにか問題があるの?」
「あ……いや、珍しいからさ、雷使いって。――さ、次行くぞ!」
……完全に、流された。
私は肩を落とし、ルークスの後ろに付いて行った。
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