第7話
「ねえ、関ちゃん」
わたしの親友が声をかけてくるいつもの放課後。
いや、わたしが陽くんの相談を受けて以来あまり話が弾まない。そんな日々が続いていたけれど放課後に二人で残るのは変わっていなかった。
関ちゃんって呼んできた親友の顔は緊張している。たしか前にもこんなことがあったな、あの時よりも緊張しているみたいだけど。
「なあに、あおいちゃん」
陽くんは、昨日告白した。その協力のため昨日は用事があると言って先に帰った。あおいちゃんは「少し考えさせて」と答えたらしい。
「あのさ、前も聞いたことある質問なんだけど」
「うん、なあに?」
「たとえばさ、ここにショートケーキと梅干しがあるとするでしょ。だけどわたしは」
「梅干しを選ぶんでしょ」話を遮るように答える。
「あ、うん。そうなんだけどさ、それって」
「今日のあおいちゃんの話に出てくるショートケーキってさ、陽くんのこと?」
なんだか無性にイライラしていた。途中で話を遮って話すなんて嫌な感じだけど、そうせずにはいられなかった。
「えっと……」
あおいちゃんは困ってしまったのか答えない。けれどその態度はそうだと言っているのと同じだ。
「陽くんはさ、良い人だよ。それはわたしが保証してあげる」
「そうなんだね」
「そのたとえ話だけどさ、あおいちゃんだってショートケーキ嫌いなわけじゃないでしょ。それにさ、食べてみたら思っていたよりおいしく感じるかもしれないし」
「だけど、わたしは梅干しを選びたいんだよ本当は」
あおいちゃんは少し怒ったように言い返してくる。
「じゃあそうすればいいじゃん」
わたしも投げやりに言葉を返す。
「できないよ中々、だって、普通じゃないもん」
あおいちゃんは頑なだ。
「あおいちゃんの言っていること、よくわからないよ。他の人の目なんて気にしないで、好きなものを選べばいいじゃん」
「私は弱いから。自分が選ぶことなのに、他の人のことまで気になってしまうんだよ」
あおいちゃんの口調は強い。だけど、どこか諦めているような、そんな感じがする。
「ほかの人なら悩むことすらしないだろうことで、私は悩むし、そこで立ち止まっちゃうし、戻ることも、前に進むこともできないんだよ」
あおいちゃんは、泣いてる。泣いている顔も綺麗なんて、ずるいと思う。
「あおいちゃんの言っていることわからないよ。わたしあんまり頭良くないしさ、ごめんね」
「わかってるよ。関ちゃんが私のことわかってくれないことは。だけどそれは私が悪いの。わかるはずもないことをわかってほしいと思って、それで悲しくなってるんだよ」
よくわからないけど。結局あおいちゃんは陽くんのこと選びたくないのかな。陽くん、悲しむだろうな。
「ねえあおいちゃん。無理して梅干しを選ばなくてもいいんじゃない? だって、あおいちゃんの話聞いてるとそれってすごく大変そうだし。ショートケーキでもいいじゃん。それって、別に悪くない選択だと思うよ。周りのことが気になっちゃうんなら、特に」
喧嘩腰みたいになっていたことを反省して、言葉を選んで紡ぐ。
それでもあおいちゃんは悲しい顔をする。
「そうかもね。きっとその方が穏やかに生きていけると思う。だけど私はやっぱり梅干しを選びたいんだ。ちょっとすっぱくてもね」
「じゃあそうしなよ」
「いつかはって思うんだけどね。今はまだ選べないんだ」
怖くてと、小声で付け足す。
「そうなんだね。それじゃあ、わたしからいえることはないよ。力になれなくてごめんね」
「ううん、気にしないで。私が選べないのが悪いからさ」
最後に一つだけ質問したいとあおいちゃんは言う。
わたしは黙ったまま頷いた。
「関ちゃんはさ、須藤君のこと好きなの?」
なんだか、一番答えにくい質問だった。
「自分でもわからないよ。陽くんはとっても大事な存在。だけど好きかどうかは、自分でもわからない」
教えてくれてありがとう。あおいちゃんはそう言って「今日はもう帰りましょう」と続けた。
一緒に帰ったけど、お互い一言も喋れなかった。
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