第6話

「ねえあおいちゃん」

 いつも通りの放課後、わたしは親友の名前を呼ぶ。

「なあに関ちゃん」


 あおいちゃんは結局明日香ちゃんとは呼んでくれない。関ちゃんと呼ぶほうが慣れているんだと言って。


 陽くんがわたしに相談してから一週間が経った。最初の三日くらいはショックで上の空になることも多く、あおいちゃんに沢山心配をかけてしまったけれど、今では前みたいに明るく振舞うことができた。


「あおいちゃんはさ、陽くんのこと、どう思ってる?」

「須藤君のこと? 悪い人ではないと思うけど……関ちゃんと須藤君って幼馴染なんだよね、関ちゃんのほうが須藤君のことよく知っていると思うけど」


 うん、そうだよ。わたしは陽くんのことをたぶん誰よりもよく知っている。クラスで仲間外れにされているような子にも分け隔てなく接して、よく冗談を言って笑わせてくれて、だけどきちんとするべきときはきちんとしている。何事にも一生懸命で、最後まで諦めない。そういうところが、陽くんのいいところ。


「うん、そうなんだけどさ。あおいちゃんは陽くんのことどう思っているのかなって気になって。わたしの親友はわたしの幼馴染のことどう思ってるのか」

 あおいちゃんは陽君の名前を出すと目元がぴくりと動いたけれど、普段私と話すのと変わらない表情で答える。


「うーん。前に連絡先交換してからよく話しているけど、面白い人だね。話しててあんまり退屈はしないかな。たぶん、優しい人だとも思うよ」


 うん。そうだよ。陽くんは優しいし、面白いし、良い人。


 よかったね陽くん。あおいちゃんも陽くんに良い印象を持っているみたいだよ。


「えへへ、自慢の幼馴染だよ。仲良くしてあげてね」

「うん、関ちゃんと仲の良い人だから、わたしも仲良くしたいとは思ってるよ」

 あおいちゃんが羨ましい、今普通にしてるだけでも絵になるくらい美人だもの。お化粧もしてないし同じ制服を着ているのに、なんでこんなに差があるんだろう。


「ねえ、関ちゃん。一つ聞いてもいい?」

 あおいちゃんがいつになく真剣な顔でこちらをのぞき込みながら聞いてくる。

「なあに、あおいちゃん。」

 わたしはあおいちゃんのことを見つめ返す。もしかしたら、少し挑戦的な目つきになっていたかもしれない。


「あ……、ううん。やっぱり何でもない」

「そっか」

 あおいちゃんは時々話そうとしたことを途中であきらめてしまうことがあった。以前だったら無理にでも聞いたけれど、今はそんな気持ちになれなかった。


そのあともあまり話が盛り上がらず、寄り道をせず家に帰ることにした。駅までの道も嫌な沈黙が続いていた。

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