第3話

「ねえ関ちゃん」

 いつもニコニコしてるあおいちゃんが珍しく怖い顔をしている。

「あの、ごめんね」

「ううん。怒ってないよ。関ちゃんが遅刻するのなんて予想できたし」

「うう……」


 今日は日曜日。あおいちゃんと街にお出かけする計画を立てたんだけど、待ち合わせ時刻に一時間くらい遅れてしまった。


「遅れたのはまあ、寝坊だってわかるけど。どうして連絡もしなかったのかな?」

「あの、昨日ゲームしてたら寝ちゃったみたいで、充電が……」

「はあ」

 あおいちゃんが深いため息をつく。今日のあおいちゃんは白地に黒のボーダーが入ったワンピースを着ている。すらっとした長身で、肌も白いあおいちゃんにとっても似合っている。   


それに対してわたしは中学生の時から着ている胸のあたりに虹色の円がプリントされているほかに特に装飾のないシンプルなTシャツとGパンだ。今までおしゃれには無頓着だった私だけどせめてもう少しマシな服を持っていればよかったと後悔する。


「まあ、気にしてないよ。たぶん関ちゃん遅れると思って待ち合わせ場所喫茶店にしたしね。まさか連絡もくれないとは思わなかったけど」


 時間に遅れても喫茶店で時間が潰せるということなのだろう。

「それは、ほんとにごめんね」

あおいちゃんわたしのこと何でもわかってるんだね大好き! と言おうとしたけどさすがにわたしも空気を読んでそれを口に出すことはしなかった。


「関ちゃんが事故か何かに巻き込まれたと思って心配したんだよ」

「ありがとうあおいちゃん、遅れたわたしの心配までしてくれるなんてやっぱり優しい」

「どういたしまして、いつまでもここにいてもしょうがないし外出てみよっか」


 あおいちゃんの機嫌は戻ったみたい。最初から怒ってはいないようだったけれど。

「あおいちゃんはどこに行ってみたい?」

「うーん。関ちゃんが行きたいところでいいよ」

「じゃあさ、可愛いものがたくさん売ってるって評判のあのお店で二人でお揃いのもの買おうよ!」

「うん、それとってもいいアイディアだね」

 外に出てみたけれどすごい人の波。私は携帯で連絡が取れないからもしはぐれたらもう一度会うことが難しいと思う。

 

「ねえねえあおいちゃん、人すごいしわたしはぐれても連絡できないからさ、手を繋いで歩こうよ」

「ええ?」

 素っ頓狂な声をあげるあおいちゃん。なんでそんなに驚くのさあおいちゃん。


「え、あの、嫌だったかな。嫌だったらもうわたし、ストーカーがごとくあおいちゃんのことずっとがん見しながら歩くけど」

「あ、いやいや、突然だからびっくりしちゃって。いいよ、手繋いで歩こう関ちゃん」


 あおいちゃんが手をパタパタさせながら慌てて否定する。あおいちゃんが慌ててるなんて珍しい光景だ。


 手を繋いでみるとあおいちゃんの手は少し汗ばんでた。夏だし、外は熱いもんね。

「あおいちゃんと手を繋ぐの初めてだね」

「そういえば、そうだね」

「前より仲良くなれた気がして嬉しいよわたし」

「関ちゃんがそう言ってくれるなら、私も嬉しいよ」


 あおいちゃんがちょっと強く手を握ってくる。わたしもぎゅって返してあげる。無言のまま何回か手をぎゅってするのが続く。周りがうるさくてお互いの声が聞き取りづらいのもあって会話はない。けれどなんだか今まで以上に心が近い距離にある気がした。


「着いたよ関ちゃん、ここみたい」

「外見がすごいピンクピンクしてるね。私はあまりこういうの似合わない気がするけど」

 ここはうさぎのグッズを専門に扱っているお店で、うさぎのストラップから文房具、掛け時計なんかもある。外見の通り派手派手しいものもあるけれど、半分くらいは普段使いしてもおかしくないデザインのものが売っている。


 わたしとあおいちゃんはその中のうさぎが丸まってる姿をしたストラップを選んだ。色は白いのがあおいちゃんでピンク色のがわたしだ。


「わあ、これすごい毛がモフモフしてて癒される~」

「関ちゃん、いいの探してくれてありがとう。これ大事にするね」

「わたしも大事にするよ! 仲良し記念だよ!」

「今日は関ちゃんと遊べてよかったよ」

「わたしもあおいちゃんと遊べて楽しいよ!」

「じゃ、おなかも減ってきたしちょっと遅めのお昼でも食べよっか」

「賛成!」

 そのあとあおいちゃんはファミレスで和風キノコ雑炊とアボカドのオーブン焼きを食べていた。わたしはトマトスパゲッティを頼んだ。

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