第2話

「ねえあおいちゃん」

 わたしは親友であるあおいちゃんに声をかける。

「なあに、関ちゃん」


 掃除が終わった黒板の隅に宿題の未提出者や小テストの日程が書いてある学校の日常の一ページの放課後。わたしはとても困っていた。


「宿題、手伝ってください……」


 あららとあおいちゃんは笑う。わたしは勉強があんまり得意ではないけど、特に英語が大の苦手でいつも宿題には苦労している。


いつもは教科書と電子辞書をフル活用すればなんとかなっていたけれど、今回出された十行以上の英語の自由作文を書くという課題にはお手上げだった。


「関ちゃん。あれだけ一年生のうちにちゃんと勉強しておかないとって言っていたのに」

「うう、聞いていたんだけど、やっぱり難しいし」

「わからないところがあったら私が教えてあげるって言ったでしょ。関ちゃん英語の話を振るとすぐ話を逸らすんだから」

 同級生に叱られているわたし、かっこ悪い。でもあおいちゃんはこういう時でも根底にやさしさがあるし、嫌な感じはしない。


「ちょっと関ちゃん。また何か別のこと考えてるでしょ」

「うん。あおいちゃんって何かお母さんみたいだなって」

 あ、無意識に変なこと言ってしまったけどあおいちゃん怒らないかな。

「関ちゃん、変なこと言ってないで早く課題やろう」

 怒る以前に相手にもされなかった。もしかしたら言われ慣れているのかもしれない。

「うん、ありがとう」

「ほら、早く課題のプリント出して」

 



 あおいちゃんは教えるのがとても上手だ。すらすらすらーっと説明が頭に入ってくる。それだけ理解しているってことだからあおいちゃんはどれだけ勉強しているんだろう。


 「ここは過去形にして」、「ほら、そこは定型文使えば文字数稼げるよ」教室の机に並んで座って次々アドバイスをくれるあおいちゃん。「その綴り間違えてるよ、そこはrじゃなくてlだよ」、「あとここは文章二つにわけないで関係代名詞使うんだよ」、「関ちゃんほんとに英語苦手だねテストとかどうしてたのよこれ」はあ。あおいちゃんの手ってやっぱり綺麗だな。指細いし、白いし。なんだか気品が溢れてるっていうか、

「関ちゃん! 真面目にやらなきゃだめでしょ。」

「っは! あまりの自分の馬鹿さに嫌気がさして現実逃避しちゃってたよ。」


 ごめんごめんと顔をあげるとなぜかあおいちゃんが顔を赤くしてた。

「あと関ちゃん。さっきの、声に出てた……」

「え、手が綺麗とかそういうやつ?」

「うん」

「あ、あはは」

 普段から恥ばっかりかいてるわたしでもさすがにこれは恥ずかしい。あおいちゃんも顔を真っ赤にして俯いてしまう。

「関ちゃん、続きやるよ」

「あ、うん」

 

明らかにさっきまでの流れるような説明じゃなくなったけど、今度はわたしもちゃんと集中してできたから三十分くらいで課題が終わる。


「あおいちゃん」

 あおいちゃんが黙ってこっちを向く。

「無事に宿題終わった記念にクレープでも食べに行かない?」

「関ちゃん、それ記念するほどのことなのかな、もちろん行くけど」

「今日はたくさん教えてもらったしおごってあげるからいこいこー」

「え、ほんと? ありがとう。」

 そのあとあおいちゃんは照り焼きチキンステーキというクレープを食べていた。

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