15 遠野の伝説 百年前の思い。……恋をすること。
遠野の伝説
百年前の思い。……恋をすること。
昔、まだこの土地が遠野と言う名前で呼ばれる以前のころ。
とても大きな災い(その災いがなんなのか、その具体的な描写は書かれていないようだった)がこの土地を襲った。
村々は壊滅し、人々は路頭に迷った。
たくさんの人たちが、亡くなってしまったりもした。
生き残った人たちはお互いに協力をして村々を時間をかけて少しずつ復興させていった。そんな日々の中で、その大きな災いによってなくなってしまった人たちを祀るために、ある一人のこの土地出身の神官がこの土地に新しく神社を建てた。
それが遠野神社だった。
遠野神社が建てられて、この土地は『遠野』と呼ばれるようになった。
それから現在まで、とても長い時間が経過して、遠野の土地に住む人たちは、昔、そんな災いがあったことを忘れてしまっているけれど(それは悪いことではない。今を幸せに暮らせることは、とてもいいことだと思う)、こうして遠野神社には当時の記録と、亡くなった人たちの魂が、今も神様として、この神社に祀られている、と言うものだった。
「おしまい」
本を丁寧に閉じて雨のお父さんはそう言った。
「うーん」
そのお話を聞いて、雨はなんだか頭を悩ませてしまった。
「どうかしたのかい? 雨」
にっこりと笑ってお父さんがそう言った。
「あのね。なにがってことじゃないんだけど、なんていうか、情報が曖昧っていうか、肝心なことがよくわからないっていうのか、こう、少しもやもやするの。すっきりしないっていうのか」
と、雨は両手を軽く自分の目の前で動かしながらお父さんにそう言った。
「まあ、古い言い伝えだからね。全部の記憶が残っているのかもわからないし、いろいろと情報が破損してしまっているのかもしれないね」お父さんが言う。
「でも、その本にはその言い伝えのすべてが載っているんでしょ?」雨は言う。
「まあ、そういうことになっているけれど、……ところどころ、ぼろぼろになってしまっているし、僕にも全部はわからないんだよね。たとえば、その災いってものが実際にはなんだったのかとか、なぜ、亡くなった人たちを神様として祀っているのか、とかね。でも、それはそれでいいじゃないか。全部の言い伝えがわからないっていうのも、ロマンがあるよね」
お父さんは言う。
「浪漫で片付けてしまっていいの? 大切なことなんでしょ?」雨は言う。
すると雨のお父さんは珍しく少しだけ真面目な顔になって「そうだね。すごく大切なことだよ」と雨の顔を正面から見つめてそう言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます