21 小さな男の子と小さな女の子(子供たちの影法師)

 小さな男の子と小さな女の子(子供たちの影法師)


 ねえ? これからどうなると思う?

 うーん。どうだろう? やっぱり、デートに誘うんじゃないかな?

 まだよくわかんないや。

 そんな声のあとで、くすくすと笑う小さな声が聞こえた。


 ……子供の笑い声?


 四葉が後ろを振り向くと、そこには真っ白な、誰も座っていない、からっぽのベンチが一つだけ、(まるで誰かがその場所にそれを置き忘れていったかのように、ぽつりと)置いてあった。


「どうかしたんですか?」真昼が言う。

「え? あ、いや、なんでもないよ」なにかを隠すようにして、小さく笑い四葉は言った。

「……どうせ、詩織さんのことでも考えていたんじゃないんですか?」

 ちょっとだけふてくされて真昼は言う。

「そんなことないよ。詩織のことは今は考えていない」四葉は言う。

 今は、か。

 と真昼は思う。

 せっかくの二人だけのデートのはずだったのに……。真昼の心は天気と同じように今朝の晴天から、どんよりとした曇り空に変わっていた。(なるべく元気に振舞おうと思っているのだけど、どうしても落ち込んでいるのが、顔の外に出てしまった)


 真昼の憂鬱な気持ちには、四葉も気がついていた。(その責任が自分にあることもわかっていた)

 四葉は上を向いて天気を確認した。

 突然の曇り空。

 いつ、雨が降り出してもおかしくないような空模様だった。


「雨、降り出しそうですね」

 真昼は言う。

「うん。そうだね」四葉は言う。


「あの、秋野先輩」

 大きなビルの立ち並ぶ街の中、アスファルトの道の途中に立ち止まって、真昼は言う。

「どうかしたの?」四葉は言う。

「……少し、お話しできませんか?」

「話?」

「はい。すごく大切な、お話です」

 じっと四葉のことを見て、真昼は言った。(真昼は決意をした強い目をしている)

 四葉は少し考えてから、真昼を見て「うん。いいよ。わかった」と真昼に言った。


 四葉はもちろん、真昼の好意にずっと前から気がついていた。(でも、四葉は真昼との関係を曖昧なまま、ずっと、そのままにしていた)

 その僕たちの中途半端な関係に、そろそろ決着をつけなければいけないのだ、と四葉は思った。

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