19
「……四葉くん。私の絵。見にきてくれたの?」詩織は嬉しそうな顔をして言った。
「うん。それと、作者の名前に、詩織の名前があったから」四葉は言った。
「私に会いに?」
「うん。この梟の森の絵画を描いたのは、絶対に詩織だって、わかってたから」にっこりと笑って四葉は言った。
それから、少しの間、四葉と見つめ合ってから、詩織はその目を自分の描いた梟の森の前に立っている村上真昼に向けた。
「あ」
詩織と目と目があって、ようやく真昼は、(まるで魔法が解けたように)普通に思考ができるようになった。
「あなたは、四葉くんの恋人さん?」
詩織は真昼を見て、そう言った。
「え? あ、えっと」
真昼は口ごもって四葉を見た。
四葉は真昼を見て、それから詩織を見て「いや、違うよ。大学の後輩なんだ。名前は村上さん」と詩織に言った。
真昼は急いで四葉の横まで移動をして、「初めまして。村上真昼です。秋野さんの大学の後輩をしています」と頭を下げて詩織に自己紹介をした。
「初めまして。雨宮詩織です。画家をしてます」くすっと笑ってから、詩織は真昼に丁寧にお辞儀をしてそう言った。
(それから詩織が、この梟の森の絵画の作者さんだと聞いて、真昼はすごくびっくりした)
それから、「少し三人でお話しない?」と言う詩織の提案で、美術館にあるレストラン『昼顔』で三人は一緒に昼食をとることにした。
真昼は、四葉から二人の出会いのことを(なんでも子供のころ、二人は信州の森の中で出会った友達だということだった。出会うのは、なんと十五年ぶりらしい。詩織さんは現在、信州の美術大学を出て、画家として東京で暮らしているということだった)聞いて、「でも、私お邪魔じゃないですか?」と詩織に言った。
すると詩織は「ううん。全然。そんなことないよ」とにっこりと笑って、真昼に言った。
四葉を見ると、四葉はにっこりと(ちょっと申し訳ないような表情をして、きっと詩織さんのことを私に黙っていたことを気にしているのだろう)笑っていた。
なので真昼は、四葉と詩織と真昼の三人で一緒に昼食を食べることにした。詩織は真昼に「嬉しい。私、真昼さんの話、聞きたい」と言って、子供のように喜んでくれた。
そんな無邪気な詩織を見て、なんだか不思議な人だな、と真昼は肩の力を抜くようにして、思った。(画家というのは、みんなそうなのかもしれないけど……)
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