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 真昼の見ている前で、その女の人は泣き続けていた。


 ぽろぽろと子供のように、涙を流し続けて、それを(真昼のように)隠そうとも、(四葉のように)拭おうともしなかった。


 やがて、四葉はゆっくりと歩いて、その女の人の目の前まで移動をした。その四葉の行動を、歩みを、「あ」と言って、四葉の隣にいた真昼は、一瞬だけ止めようと思ったのだけど、……すぐにやめることにした。


 二人の再会の、出会いの邪魔をしてはいけないと思った。(もちろん、詩織と呼ばれた女の人に真昼は面識はなかったけど、四葉と、……それからあの詩織って人と、二人が知り合いであることは、お互いの顔を見る二人のことを見ていれば、誰がどう見ても、明白だった)


「詩織。これ」

 そう言って、四葉はポケットから出した青色のハンカチを詩織さんの前に差し出した。

「……ありがとう。四葉くん」

 詩織さんはそう言って、にっこりと泣きながら笑うと、その四葉のハンカチで、自分の大粒の涙で濡れている目元を拭った。


 詩織さんは、とても綺麗な人だった。

 髪が長く、少し癖があって、……それがすごく女性的で、美しかった。


 ……私とは大違いだ。

 真昼は自分の、高校を卒業するときに、思い切ってばっさりと切った、長い髪のことを思い出した。

 真昼は自分の耳の出る、首筋までの、短い髪の毛をそっと手で(そこにあったかもしれない、長い髪を、無意識のうちに)、……触った。


「詩織。本当に君なんだね」四葉は言った。

 秋野四葉には、十五年ぶりに会う、その今、自分の目の前にいる女性が、雨宮詩織だと一目で理解することができた。

 詩織は、「うん」と言ってうなずいてから、「あなたは四葉くん。秋野四葉くんだよね」とにっこりと笑って四葉に言った。

 四葉は詩織に「そうだよ。僕は四葉だ」と答えた。

 すると詩織はまた、にっこりと笑って、「嬉しい。本当に四葉くんだ」と四葉に言った。


 そんな二人の光景を(まるで、そこにだけ空から一筋の日の光が差し込んでいるかのような風景だった。……それは、絵画に素人の真昼が見ても、すごく胸が痛くなるくらいに、……本当に絵になる風景だった)村上真昼は、梟の森の絵画の前に立って、じっと、ただ呆然とした表情をして、見ていた。

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