15 ほら、こっちだよ。

 ほら、こっちだよ。


 彼女はそこにいた。

 夢の世界の中。

 遠い世界の果てにある場所。

 緑色の大地と、透明な風が吹き抜ける場所。空には大きな月があって、ほかにはなにもない場所。

 そんな場所に彼女は一人で立っていた。

 大人になった詩織。

 それは、四葉の知らない、空想の存在である詩織の姿だった。


 彼女は、詩織はじっと自分を見ている四葉に気がついてこちらを振り返った。

「詩織」

 四葉は言う。

 夢の中の詩織はにっこりと微笑んでいるだけで、なにも言葉を話さない。

 詩織は口を動かして、それから手を、四葉に向かって差し出した。

 それは四葉には、『こっちに、きて』と、詩織がいい、詩織がそのために四葉に手を差し伸べている風景なのだと、認識できた。

 だから四葉はそちらに向かって歩いて行こうとした。

 すると、そんな四葉の手を、誰かの手がそっと掴んで、四葉の動きを止めた。

 その手は、誰か詩織ではない、違う女の人の白い手だった。

 美しい手だ。

 四葉はその手を見てから、もう一度詩織のほうに顔を向けた。


 すると、そこにはもう詩織の姿はなかった。


「先輩」

 誰かが言った。


 四葉はそっと後ろを振り返った。

 するとそこには、大学の後輩である女性。……村上真昼が、すごく悲しそうな顔をしながら四葉を見て、立っていた。


「村上さん?」四葉は言う。

 すると、真昼の目から、透明な涙が溢れ、……それはやがて、大地の上に溢れた。


 四葉は、そこで目を覚ました。

 

 人を愛するということ。


 成熟すること。

 自分の居場所を見つけること。

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