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「あ、四葉くん。……少し内緒の話があるから、あとで時間、あけておいてね」
四葉と真昼が園原研の部屋から出ていこうとしたときに、にっこりと笑って桃ノ木先輩が四葉に言った。(桃ノ木先輩は、一つ年下なのに、四葉のことを、四葉くんと普段から呼んでいた)
「わかった」
四葉は言う。
それから二人は園原研の部屋を出た。(ドアを閉めるときに、桃ノ木先輩は真昼を見て、ふふっと笑った)
真昼はいーと言って、桃ノ木先輩に、舌を出してやりたいと思ったが、やめた。(また子供っぽいと言われるからだ)
四葉と真昼は、大学を出て、すぐ近くにあるファミリーレストランに移動をした。
そこで四葉は和風ハンバーグセットを頼み、真昼はカルボナーラとサラダを注文した。飲み物は二人ともドリンクバーを注文した。(四葉はアイスコーヒー。真昼はオレンジジュースを飲んだ)
昼食の会話で、真昼は自分の本命の要件を四葉に言い出した。
それは上野で開催されている、ある美術展へのお誘いの話だった。(早い話がデートの誘いだ)
「上野の美術展? それも、有名な画家じゃなくて、国内の若い画家たちの作品を集めた話題の展覧会?」四葉は言う。
「はい。有名じゃないってことなんですけど、すごく評判がいいんですよ。なんでも今年は当たり年だって、美術好きの友達が言ってました。この中から将来絶対に大物になる画家がでるから、この展覧会は、たとえメジャーじゃなくても、見に行ったほうがいいって。絶対に損しないって、言ってました」
オレンジジュースをストローで飲みながら、真昼は言う。
真昼はその美術展覧会のパンフレットを持っていた。
四葉はそれを受け取った。(長方形の暗い夜と明るい星座の絵が書かれたパンフレットだった)
確かにプロの卵たちの作品と言っても、こうして上野で展覧会が開けるというのは、すごいと思った。(それくらい、内容が充実しているということなのだろう)
作品を発表している画家も、真昼の話によると、上は三十歳くらい、下は十八歳の高校生も含む、と言う若いメンバーで、皆将来を期待されている画家たちだという。
四葉はパンフレットを最後まで見ていく。
すると、そのパンフレットの中にある、画家の紹介のページで、『ある人の名前と、その作品の写真』に四葉の目がぴたっと止まった。
「どうです? 一緒にいきませんか? 秋野先輩」
なにかをせがむように、ちょっとだけ身を乗り出して、真昼は言う。
そんな村上真昼に、少し考えてから「……わかった。いいよ」とにっこりと笑って四葉は答えた。
「本当ですか!? ありがとうございます。秋野先輩。先輩ならそう言ってくれると私、最初から信じてました!!」すごく嬉しそうな顔で真昼は言う。
「あのさ、村上さん。このパンフレット、もらってもいいかな?」
ファミリーレストランでお会計を済ませたあとに、お店の前で四葉は言った。
「もちろん。全然構いませんけど、でもどうしてですか?」と首をかしげて真昼は言う。
「……実は、こういう絵画、ちょっと好きなんだ」四葉は言う。
その言葉に真昼は「そうなんですか。知りませんでした」と言って、納得をしたみたいだったけど、でもそれは、秋野四葉の吐いた(珍しい、四葉の)嘘だった。
そのパンフレットには、『雨宮詩織の名前と作品、梟の森』の絵画の写真が載っていた。
その名前と絵画に、四葉の目は、釘付けになっていたのだった。
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