12
時刻はお昼。
真昼は、四葉を昼食に誘った。(食べる場所は、いつもの大学の食堂ではなくて、近くにあるファミリーレストランだった)
「わかった。いいよ」
四葉は言う。
「秋野くん。この間の論文。すごくよかったよ。この調子で頑張ってね」外出の準備をしている四葉に、にっこりと笑って、園原先生が言った。それから園原先生はコーヒーを一口飲んだ。
「ありがとうございます」四葉は言う。
四葉は園原先生に論文を褒められて嬉しかった。
園原教授は、いつもにこにこしている年は六十歳くらいの温和な先生なのだけど、この植物、森の動物学の分野では権威のある先生の一人であり、こういった学問の分野ではお世辞は言わない人だったからだ。
「桃ノ木先輩も一緒に行きますか?」真昼が言う。
「いい。遠慮しとく」
桃ノ木紗枝は真昼を見ないままで、いつものそっけない態度で真昼に言う。それから、長くて美しい(なんだかすごくいい匂いのしそうな)髪を後ろでまとめている髪留めをとって、その黒髪を自由にした。
「うわ。桃ノ木先輩。それ、すごくおしゃれな髪留めですね」真昼は言う。
それはいつもの真昼のお世辞ではなかった。
和風……、というのだろうか?
真昼にはよくわからなかったけど、京都とかのすごく由緒あるお店でしか購入できないような、そんな職人気質の感じる、美しい髪留めを桃ノ木先輩はしていた。
その髪留めには、鳥の模様が施されていた。たぶん、……梟、だろうか?
「ああ、これ? うん。まあちょっとね」
そう言って、桃ノ木先輩にしては珍しく、裏表がまったくないような、すごく自然な顔で、真昼に向かってにっこりと笑った。
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