10 

 話を聞くと、先日、友人たちと飲み会をした帰りの道で、新宿歌舞伎町の片隅に店を出している占い師のおばあさんに、真昼は「占ってあげようか?」と声をかけられて、千円を出して、そのおばあさんに手相を占ってもらったのだと言う。

 その手相占いは『恋愛運は大吉』であり、真昼は喜んで、それからおばあさんと少し話をして、人の手相を見るコツを教えてもらったのだと言う。


「それで僕の手相を見たの?」

「そうです」嬉しそうな顔で真昼は言う。

「ちなみに、私と秋野先輩の相性もばっちりですよ」と真昼は言った。


 村上真昼は秋野四葉の三つ年下の、今年二十二歳になる大学生で、髪は耳が出るくらいに短くて、いつも動きやすいラフな格好をしている、気持ちの良いさっぱりとした性格をした、すごく美人な女の子だった。

 高校まではずっと陸上部に所属していて、種目はハードル。そのころは髪が長くて髪型をいつもポニーテールにしていたらしいのだけど、大学で真昼と出会った四葉は、そのポニーテールの髪型をしている真昼を見たことが一度もなかった。(走っている真昼を見たこともなかった)


 四葉は「じゃあね」「はい。……あ、秋野先輩。用事があるんで、またあとで院生室にお邪魔しますね」と言う会話を真昼として、大学の校内で真昼と別れた。


「秋野先輩!」

 大声で呼ばれて四葉は後ろを向いた。

「大好き!」

 にっこりとした笑顔で、遠くから真昼が言った。四葉の周囲にいた学生たちが、幸せそうな顔をして四葉と遠くにる真昼のことを見ているのがわかった。


 四葉は、なにも言わず、手だけで合図をして、大学の校舎の中に移動をした。

 さっきの言葉通り、(なぜだか理由はわからないままなのだけど)四葉は真昼から、すごく好意を寄せられていた。

 それは真昼の一方的な好意であり、二人は付き合ったりとかはしてなかったのだけど、もちろん、四葉はそのことに対して、不満などを抱いたりはしてはいなかった。(ただ、人の大勢居る前で、さっきみたいな行動を取るのは、やめてほしいと思っていた)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る