9 あなたの手。私の手。
大学に通学する四葉の横を、小学生の男の子と女の子が仲よさそうに駆け抜けていく。
その姿に、四葉は、昔の森の中での二人を重ねる。
季節は春で、自宅近くの公園には桜が満開に咲いていた。
優しい暖かな風が吹いて、桜の花びらが舞っている。
世界は桜色に色づいている。
四葉は電車に乗り、大学の最寄り駅まで移動をする。
電車を降りて、駅を出ると、そのまま歩いて大学まで移動をした。その途中の道で、「おはようございます。先輩」と声をかけられた。
後ろを振り向くとそこには、大学の後輩の友人である、村上真昼が立っていた。
「おはよう。村上さん」四葉が言う。
「はい。おはようございます。秋野先輩」ともう一度、にっこりと笑って、真昼は言った。
あなたの手。私の手。
「秋野先輩。て、出してください」
真昼が言う。
四葉は言われた通りに歩きながら、隣に移動した真昼に自分の手を差し出した。すると真昼は「ちょっとだけ失礼しますね」と言って、四葉の手を軽くとって、その表面をじっと見つめた。
「……村上さん。なにしているの?」
ちょっとだけ恥ずかしくなって、四葉は言う。
「手相を見ているんですよ」
手のひらを見たままで真昼は言う。
「秋野先輩。すごくいい手相してますね」しばらくして、感心したような顔つきで真昼は言う。
「はい。なんていうか、すごく大丈夫な手相をしています」
「すごく大丈夫?」
「なにがあっても大丈夫な手相です」
そう言って真昼はまた、にっこりと笑った。
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