「なに?」と四葉は言った。

「……私のこと、東京に帰っても、ずっと、ずっと忘れないでいてくれる?」今すぐにでも泣き出してしまいそうな、そんな悲しそうな顔をして詩織は言った。

 どこか遠くで、ほーほー、と梟の鳴く声が聞こえた。

「もちろん。約束するよ」にっこりと笑って四葉は言う。

「本当に?」

「うん。本当に約束する。東京に帰っても僕は詩織ちゃんのことを忘れたりしない。絶対に忘れたりしないよ」四葉は言った。

 すると詩織は感動して、目をうるうるとさせて「うん。ありがとう。四葉くん」と四葉に行った。

「また、来年、この場所にくるよ。そのとき、もう一度、虫をとったり、魚釣りをしたり、動物を観察したり、森を探索したり、湖の近くで遊んだりしようよ」

「うん。絶対だよ」

 詩織は言った。

「この場所にも、もう一度きてみたい。僕はなんだかこの場所がすごく好きになったみたいなんだ。ここにこうして立っているだけで、この場所に満ちている新鮮な空気を吸い込んでいるだけで、なんだかすごく落ち着くんだ。……ここはすごい場所だね」

 四葉は言った。

「ありがとう。四葉くんが私の、……ううん。私たちの秘密基地を気に入ってくれて、私、すごく嬉しい」ようやく笑って詩織は言った。


 それから四葉と詩織は、四葉が詩織の暮らしている信州から東京に帰る夏休みの終わりまでの数日の間、この朽ちた神社のところで、一緒に遊んで楽しい時間を過ごした。

 二人は相談をして、この神聖な雰囲気を持つ、朽ちた神社のことを『梟神社』と名付け、(本当の名前は鳥居のところがぼろぼろで、わからなくなってしまっていた)この周囲の神聖な気の満ちている深い森のことを『梟の森』と名付けた。


 四葉が「さよなら。また来年遊ぼうね」と詩織に手を降って、両親の運転するワゴン車で信州の森の中をあとにしたのは、その次の日のことだった。

 詩織は「さよなら、四葉くん。また来年。この場所で待ってるね」と泣きながら四葉に手を降ってくれた。

 ……でも、その約束の来年。

 四葉は信州にくることはなかった。

 四葉の両親がその翌年に離婚をしたために、信州の親戚の家は、四葉の親戚の家ではなくなってしまったからだった。


 四葉はそれ以来詩織と再会をすることはなかった。

 そして、十五年の月日が流れた。

 その年、秋野四葉は二十五歳になり、東京の国立の大学院に通う、一人の大学院生になっていた。

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