6
「ここはずっと昔から、私の秘密基地なんだ」
「秘密基地?」
四葉が振り向くと、詩織は朽ちた神社の階段のところに座り込んでいた。そこから詩織は周囲の深い森の木々の風景に目を向けていた。
「うん。秘密基地。お父さんとお母さんも詳しい場所は知らないの。私の友達も誰も知らない。私と、……それから、四葉くんだけの秘密の場所なんだよ」
少し恥ずかしそうに顔を下に向けて、足で、とんとんと地面を軽く蹴るようにしながら詩織は言った。
秘密基地。
……秘密の場所。
みんなから忘れ去られてしまった、……聖域。
うん。確かにここはそんな場所だと思った。
でも……。
「どうして詩織ちゃんは、そんな大切な場所を僕にだけ教えてくれるの?」と四葉は聞いた。
すると詩織は、顔をあげて、ちょっとだけむすっとして、もう、四葉くんはそんなこともわからないの。鈍感だね。とでも言いたそうな顔をした。
でも、小学四年生の、動物や虫や自然に夢中な子供の四葉には、もちろん、その詩織の顔を見て、詩織がなにを考え、なにを不満に思っているのか、それをまったく理解することができなかった。
「よっと」
そう言って、詩織は古い神社の階段から地面の上に立ち上がった。そしてスカートのお尻のところを手でぽんぽんと軽く叩いて、その埃を払った。
それからにっこりと笑って、詩織はずっと神社の境内の中に突っ立ったままでいる、四葉の目の前の場所までゆっくりと歩いて移動した。
「四葉くんにお願いがあるの」
そう詩織は言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます