第10話 強奪

二人はまず初めにケププ家へと向かった。

リーナの安全を確かめるためだ。


その途中、道の上には血だらけの死体が倒れており、遠くでは山賊たちが逃げ惑う村人たちを斬りつけていた。

そして誰もいなくなった家へと入り、強奪を繰り返していた。


クロヴィスは必死に抵抗していたが、疲弊の蓄積と隊長不在により、クロヴィス全体の士気が激しく低下していた。


士気は戦の中では最も重要なことだ。いくら数を集めて、巧みな戦術を用いたとしても、戦う者たちの士気が低ければ、勝てる戦も勝てなくなってしまう。

逆に士気が高ければ、数の不利だって敵の戦術だって覆せるだろう。


それゆえ、クロヴィスが山賊たちを止めることはできなかった。




二人は山賊たちの被害を目の当たりにして、改めて山賊たちがこの村を襲ってることを実感した。

これは夢でも幻でもない。現実だ。本当に今起きていることなんだ。


「・・・ヴィル」

「うん、とにかく急ごう!」


コトン村を襲う山賊たちは虐殺と強奪を繰り返した。

「お頭、領主の家を見つけました」

クルトがハリヌに報告をする。

「よし、お前は手下を連れてそこへ行け」

「お頭は行かないのですか?」

「あぁ、俺はちょっと寄るところがある」

ハリヌはにたっとにやけると、クルトたちと別行動をとった。




ラトールとルビーはちょうどタラップのお見舞いに来ていた。タラップはまだ目を覚まさずにベットに寝ている。


ラトールは寝ているタラップに「私のせいでこんなことになって申し訳ない」と謝り、ルビーと二人病室を出ようとしたその時、病室のドアが勢いよく開いた。


病室にいた全員がそのドアの先を見つめる。そこには息を切らしたタラップの部下が一人いた。

「山賊が攻めてきました!!」

その報告を聞いて、その場にいたもの全員が目を丸くする。


「今なんと・・・?」

ラトールが聞き返す。

「山賊が攻めてきました!!」

ルビーはショックのあまりに背中から倒れかけたが、ラトールが寸前で受け止めた。


「ルビー!大丈夫か!しっかりしろ!!」

ラトールがルビーの肩をゆするが、ルビーの反応がない。がっつりと気絶していた。


「分かった。しかし、隊長の護衛を割くわけにもいかない。どうにか今いる人数だけで対処してくれ!」

部下の一人がそう答えると、報告に来た部下は急いで現場へと戻っていった。



「すいませんが、私の妻をお願いできますか?」

ラトールが部下に尋ねた。

「いいですが、どこかへ行かれるのですか?今は山賊が攻めてきています。この病院には我々がいますし、領主さんもここにいたほうが安全だと思うのですが―――」


「そうですが、私の娘が家で待っているのです。だから、早く助けに行かなければ」

「そういうことですか。分かりました。それじゃ奥様は我々に任せて早く助けに行ってください!」

「ありがとうございます!」

ラトールは勢いよく病室を出ていくと、ケププ家へと向かった。







ヴィルとレオがケププ家に着くと、まだ山賊たちは攻めてきていなかった。とりえず一安心だ。


二人は玄関から入ると、まだ家にいるかもしれないリーナを探し始めた。

「リーナー!!」

「リーナー!!」

すると、ヴィルが気を失って倒れているリーナを発見した。


「リーナ!!おい起きろリーナ!!」

ヴィルにほっぺをぺちぺちとはたかれ、リーナがようやく目を覚ました。

「・・・ヴィル?どうしてここに?」

リーナはまだ状況が把握できていなかった。

「やっと目を覚ましたか。リーナお前気を失ってたぞ!」

ヴィルが安どの表情を浮かべる。


私が気を失ってた?どうして?


そういえば、確か、お父さんとお母さんの帰りを一人で待ってて・・・そしたら突然・・・

「はっ!!」

そこでリーナは気を失う前の記憶を取り戻した。


「ヴィル!今山賊が来てるの!早く逃げないと!!」

急いで自分の知っていることをヴィルに伝える。しかし、ヴィルは全く動じず、ただリーナを見つめていた。


「・・・えっ?」

どうして冷静でいられるのかリーナには不思議だった。山賊が攻めてきてるって言ってるのに。まさか、冗談だと思って私のこと馬鹿にしてるの?

でも、馬鹿にしているようには見えない。


予想外のヴィルの反応にリーナの口が開きっぱなしになった。


すると、ゆっくりとヴィルは答えた。

「山賊が来てるのは知ってる。だからこうして助けに来たんだ」


それを聞いてリーナは顔を赤らめる。

わざわざ私を助けに来たの?


「知ってるなら、早く逃げなさいよ!なんでわざわざ助けに来たの?あんたは馬鹿なの?」

「なんだよ!助けに来たんだから少しは感謝しろよ!」」


するとそこにレオも駆けつけた。

「リーナ、無事だったか!」

リーナの顔を見てレオもほっとしていた。


「ちょっと!なんでレオまでここにいんのよ!山賊が来てるっていってるのに!」

「それは、リーナが心配だったから・・・」

「こんな時に私の心配するの?まずは自分の心配をしなさいよ!ヴィルだけじゃなくてレオも馬鹿だったのね」

「リーナ、助けに来たのにそんな言い方はないよ」

レオががっくりと肩を落とした。それを見てヴィルは苦笑いを浮かべた。


「そうだヴィル、山賊たちがこっちへ向かってきているぞ」

レオが低いトーンでヴィルに伝えた。

やはりここへ向かってきたか。

ヴィルは下唇をかんだ。

山賊たちというのは例のクルトたちのことである。


急に雰囲気が変わった二人にリーナはあっけにとられていた。二人のこんな真剣な姿は今までに見たことがなかったのだ。

「どうしたの二人とも、急に怖い顔して」

するとヴィルがゆっくりと口を開いた。


「いいかリーナ、今山賊がこの家に向かってきている。だからリーナは今すぐ裏口から逃げろ」

「私だけ?二人も一緒に逃げないの?」

「俺たちはここで山賊たちを足止めする。だからここは俺たちに任せてリーナは逃げてくれ」

「私だけは逃げられないわ。馬鹿二人残しては不安だもの」

「リーナ、僕たちを信じて」


二人の真剣な視線がリーナの瞳を独占する。


「わかったわよ!私が一人で逃げればいいんでしょ!」

どうせ一緒に逃げようと説得しても無駄である。

彼らの顔を見ればわかる。

リーナには何もかもお見通しだった。



――――ほんと、馬鹿なんだから――――



リーナは嫌々と立ち上がると、そのまま家の裏口へ向かい、家の外へと出て行った。


けれども、やはり二人が心配で後ろを振り返る。


「―――――お願い、死なないで」







リーナがケププ家から逃げ出してすぐに、ケププ家の玄関はクルトら山賊によって囲まれた。かなりの数だ。彼らの剣は血に染まってた。


「領主さんよ、痛い目にあいたくなかったらおとなしく出てくるんだな!!」

クルトがそう呼びかけると玄関がゆっくりと開いた。


「なんだ、よくわかってるじゃねえか」


しかし、玄関から出てきたのは二人の少年だった。


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ヴィルは魔法使い ふくしま犬 @manonakiri

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