第3話 大事な夕食

この世界には魔法が存在する。そう、魔法だ。魔法の種類は全部で5種類である。


赤、青、緑、黄色、そして白魔法である。


もちろんその色ごとに特徴も変わり、例えば赤魔法なら火属性、青魔法なら水属性となる。


そしてさらに発展すると、赤魔法と青魔法を合成して、例えば、紫魔法などを使う者もいる。


そもそも魔法を使えることがこの世界では珍しい。


一部では神から与えられた神童であると魔法使いを崇める地域もあるくらいだ。


そして魔法使いには大きく二種類に分けられる。先天的であるか後天的であるかだ。


先天的は、生まれながらにして魔法を使える者である。


その場合、親のどちらかもしくは両方が魔法使いである必要がある。


ただ、必ずしも上記の条件を満たせば魔法使いが生まれるわけではない。それは運に委ねられる。


後天的は、あるきっかけで魔法が使えるようになる者である。それに親は関係ない。


魔法とは縁のなかった家系が突然魔法使いに目覚めることもある。後天的の魔法使いの親からは先天的な子供が生まれる可能性もある。


先天的か後天的かで魔法の威力が変わるとかそういうことは無い。


魔法の威力はその人の力量で決まる。

ちなみにヴィルは、先天的青魔法使いである。





こうして今日一日の修行を終えた二人は芝生の上にあおむけに寝そべった。


空はとても青く体を吹き抜ける風が心地よかった。


「あー、僕も魔法が使えたらな・・・」

レオがぼそっと呟いた。


レオは今まで自分が魔法を使えないことを悔やんだことはあまりなかった。


しかし、ヴィルとの出会いで自分が魔法を使えないことを悔やむことが増えた。


明らかに魔法使いとそうで無い人では戦いの幅が大きく変わるのだ。


「でもレオには剣がある。レオの剣術はみんなが羨むほどだし。それに魔法だってもしかしたら使えるようになるかもしれないじゃん!」

ヴォルがレオを勇気付ける。


決して大袈裟に言っているわけではない。


レオの剣術はかなりのものであり、そこら辺の剣士よりかは力はある。


よほど師匠のクウの教えが素晴らしかったのだろう。


「ありがとう、ヴィル」

どこか切ない表情を浮かべて言った。


レオは自分ですでに限界を感じていた。魔法を使える者と使えない者には大きな壁があると。


そしてその壁は高く自分には越えられないと思っていた。


頭をもやもやが支配する。


そのもやもやを払拭するために、レオはと自分の顔を叩いた。頬が少し赤く染まった。


「そうだよね。いつまでも魔法のせいにしていちゃだめだ。僕には師匠から教わったこの剣がある」

レオは横にある剣に手を触れた。


「師匠のためにも僕はこの剣で強くなってやる!魔法使いにも負けない、師匠を超える剣士になるんだ!」


それは自分自身に言い聞かせているようだった。


そして右手を空めがけて突き出した。


魔法を使えないことを言い訳にしてはいけない。


僕は僕のやり方で強くなるんだ、そう心に誓った。


隣でヴィルも見まねて、右手を空へと突き出した。


「俺は世界最強の魔法使いになってやる。そして歴史に名を刻むんだ!!」


ヴィルの大きな声がよく響いた。空を飛んでいた鳥はびくっとすると方向を転換し、ヴィルを避けるように飛んで行った。


「ヴィルならなれるよ!それに五賢帝だって夢じゃない!!」その声は冗談でもなく真剣だった。


「それは言い過ぎだよー」とヴィルは頬を赤らめた。



五賢帝とはこの世界に君臨する5人の魔法使いであり、赤、青、緑、黄色、白それぞれ一人ずつをまとめて五賢帝と呼ぶ。


この五人が力を合わせれば一日もかからずに世界を滅亡させる力をもっていると言われている。


五賢帝になることは魔法使い全員の夢でもあった。




日もすっかり沈み始め、暑さが温かさに変わり始めた頃、二人はコトン村へと帰った。


二人はお互いの家に戻ることなく、その足でとある家の前に来ていた。


ピンポンとチャイムを鳴らす。すると中から赤髪の女性が二人を出迎えた。


「あら、ヴィル君とレオ君じゃない。どうぞ中に入って」この女性はコトン村の領主の妻のルビー・ケププである。


二十代にも見えるその美しさ、しかし、実年齢を知る者は夫の領主以外他にいない。


以前、ヴィルが何気なく年齢を聞いたことがあった。


その時は「次同じこと聞いたら殺す」とルビーに言われた。


顔は笑っていたが、目の奥は静かに怒っているのがわかった。


そしてその噂は瞬く間に村全体へと広まり、誰もルビーの年齢を聞くことが出来なくなったのであった。


唯一知っている領主も固く口を閉じている。


誰が聞いても「知らない」の一点張りであった。


玄関からの廊下を抜けると、大きなリビングがある。


ヴィルたちがリビングへクルト、赤髪のセミロング女の子が椅子に座っていた。


「ヴィルとレオ、来たのね!」

その女の子は二人に気付くと腰を浮かした。


「よっ、リーナ」ヴィルがそれとなく返す。


するとその返事がリーナの気に触れた。


「なにがよっよ!何回も言ってるけど私は領主の娘なのよ!あいさつもまともにできないわけ?」


いつものごとくリーナの説教が始まった。


リーナの本名はリーナ・ケププ。領主の娘でその赤色の髪は母親譲りだ。


そしてプライドが高かった。自分は領主の娘だ、他の子供たちとは少し違う、そう思っていた。


はいはい、と適当に頷きながらヴィルは説教を聞いていた。



その横であざとくレオが、

「お邪魔します、リーナ」と軽くお辞儀をして見せた。


これがリーナの機嫌を直すいつもの方法だ。


それを見てリーナは満足そうに笑みを浮かべる。


「ほら、ヴィルも早くしなさいよ!」リーナがせかす。

「はいはい、リーナ様が偉いですよーだ」

抑揚のない声で言った。


「キー!!もうヴィルったらなんでそんなこと言えるのよ!あなたには心がないのよ!心が!」

リーナの顔が赤くなっていった。


そしてその怒りはレオにも飛び火する。


「レオも黙ってないでなんとか言いなさいよ!」

「恐れながらリーナ様、僕からは申し上げることはなにもありません」

笑いをこらえながら言った。


これにはリーナも馬鹿にされているのに気付いたようだ。


「なによ!レオまで私を馬鹿にして!もう許さないんだから!!お母さん、今日の二人の夕食は抜きにして!!」


一部始終を見ていたルビーは口元に笑みを浮かべながら言った。


「わかったわ、ヴィル君とレオ君の分は今日は無しね」

わざと三人に聞こえるように返事をした。


二人がここへ訪れたのはルビーの作る夕食を食べるためだった。ルビーの料理はとてもおいしい。


しかし、今その目的が果たせそうになかった。

慌ててレオが手を合わせて謝った。


「リーナごめんよ、謝るからせめて夕食抜きだけは」

「あらそう?でもヴィルはそうでもないみたいよ?」

横目でヴィルを見ると、そっぽを向いていた。


「ちょっとヴィルも謝ってよ」

始めは抵抗していたヴィルだったが、流石に食欲には勝てなかったようだ。


最後は「リーナ、俺が悪かったから許して」と折れたのだった。


こうして二人は無事に夕食にありつけたのだった。






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