第4話 運命

 ……まぁ、この位で良いだろう。勇者一行とはいえ、魔王の俺が本気を出せば、赤子の手をひねるも同然だ。手加減をしてやって、ある程度負傷した風を装う。


「……安らかに眠りなさい」

 そう言った勇者の刃が、俺の胸を貫こうとしていた。だが、俺は一切避けなかった。

「なぜ、避けないのですか?」

 ピタリと勇者の動きが止まる。間近で見た勇者の瞳に見つめられ、心が見透かされるような気さえした。

「殺らないのか?チャンスだろう。ここを貫けば、終わりだ」

 そう言って自らの右手を左胸にあてる。

「私は……」

 今まで感情を顕にしなかった彼女の瞳に、迷いが見えた。だから、俺は言った。

「早く、終わらせてくれないか?……もう、魔王をするのにも疲れてしまったのでな」

 ふっと、自嘲にも似た笑みが漏れる。彼女の中の躊躇いが深くなるのが分かった。

「私には……出来ない」

 そう、彼女は剣を仕舞おうとした。だから、俺は一芝居うつことにした。

「勇者一行よ。勇者は俺が貰い受ける。返して欲しくば……俺を倒してみろ」

 彼女を自らのマントに包み込むようにして抱く。瞬間移動の詠唱を唱え、俺と彼女は一行の前から姿を消した。

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