「Doo-Bop」 Miles Davis
ジャズの帝王。マイルスデイビス。
その遺作「Doo-Bop」は1991にリリースされた、
ジャズヒップホップ作品です。
正直これは彼の作品群の中でもゲテモノですが、
その熱さは格別。
何と言ったって、彼もヤク中ですから。
死ぬ直前の輝きがほとばしってます。
第一、ジャズとヒップホップの融合は、
2010年頃に本格化したような新興音楽です。
それを二十年前にこのレベルで達成しているのはバケモンでしかない。
以後多くのアーティストが試みたものの、二十年間近づくことすらできなかった。
そういう聖域だと、私は思ってます。
1.「Mystery」
まずは聴いてください、このイントロを。
シンセベースとエレピ、パッドの作り出すクールな世界を。
そこを切り裂く、マイルスのミュートペット。
ディレイもかかってゴージャスです。
マイルスのサウンドはとにかく隙間。
高速フレーズなどではなく、最低限のことしか言わない。
そんな彼自体の持つクールさが、この上なくヒップホップと調和している。
コードはほとんどチェンジしませんね。
したとしても、平行移動です。
モードと言うべきか、ヒップホップと言うべきか。
無機質でタイトなドラム。
わざと入れられたプチプチノイズ。
どこまでが計算されたものなのか。
いや、多分全て計算の上なんでしょうが、とにかくハイセンス。
今後を予感させる、素晴らしいオープニングでしょう。
2.「The Doo Bop Song」
ほぼ表題曲。
さっきの曲よりは落ち着いたムード。
ツーコードを永遠に繰り返す。
展開は、ウワモノを増やして感じさせます。
そして入ってくるラップ。
入ってきても吹き続けるマイルス。
多用されるスクラッチ音。
ボーカルのハモリ。
こんなにかっこいいトラック、未だに聴いたこと無いんですけど。
現代のヒップホップ情けなく思えますよ、こんなもん。
絶対聞くべき、前半のハイライトソングです。
3.「Chocolate Chip」
音圧の高いチョップのドラムから入って、その上にマイルスがテーマを置く。
曲調はスローめのファンク。
軽く歪んだエレキギターのバッキング。
シンセベースの上に重ねられたスラップベース。
裏路地を練り歩きたくなってきます。
不意のサンプリングもかっこいい。
どんどん同じものに上書きしていくような感覚は、いかにもストリート。
モードを作ったマイルスにしてみれば、水を得た魚なのかもしれませんね。
7.「Fantasy」
来ましたね。世界一カッコいいトラック。
ドラムのイントロからして空気出まくり。
そして、マイルスが入ってきたときのテーマ。
これが本当に彼の人生の切なさというか、
華麗な儚さみたいなものを表してて……。
吹きながらかすれてるんですけど、本当に絞り出してる感じがして最高。
音数が本当に少ない。
トラックがかっこいいんで、本当に吹くのが最低限でいい。
ラップの間も吹きませんし。
ストリングスも入りますし。
ベースの音が大きくて、リバーブがよくかかってるんですよね。
それで凄い低音が膨らんでる。
この曲を初めて聴いたときは、もう驚きに驚いて、
似たようなトラックを作ろうと必死になったもんですよ。
ただ、簡単そうに思えて全く簡単じゃない。
絶妙なバランスの上になりたった、適度なチープさが必要で、
その塩梅はあの頃の私には推し量れませんでした。
でも、今気付きました。
この曲は、彼にしか作れませんね。
ドラッグ、マンネリ、怪我……。
そういう困難を全て乗り越えた先にある、人生の音楽です。
余りにも重みが違いすぎる。
常に最先端で自分の限界に挑み続けてきた彼だからこそのサウンド。
是非、体感してください。
8.「Duke Booty」
トランペットの多重録音が光る、勢いのあるモーダルソング。
ザラついた、アタック感のあるサウンド。
散らされたサンプリング音。
もう言う事ないです。
ただただイケメン。
陶酔できる音楽。
まとめ
このアルバムは本当に好きですね。
世界一かっこいいヒップホップアルバムだと思います。
ヒップホップ嫌いにこそ聴いてほしい。
現代のヒップホップの大半がまがい物だとわかりますから。
アルバムを通して、曲調は近いです。
しかし三十分程度で全編聴けますし、熱量が凄すぎるので飽きるなどありえない。
むしろドンドンと引き込まれていって、体を動かしたくなるでしょう。
マイルスを聴いていると、ストイックにならなければと痛感させられます。
彼の音楽に対する姿勢は本当に尊敬すべきものです。
新しいことに挑戦するとき、彼は始めはうまくいきません。
そうなんです。彼ほどの人でも失敗します。
しかし、二作目には全てを体得している。
絶対にものにしてくる。
だから、何事も挑戦するべきなんだと思わされます。
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