「Elastic」 Joshua Redman

ここまで、二十年以上前のアルバムばかり取り上げてきたので、

ついに2000年代のアルバムを紹介します。


それがこの、「Elastic」。

サックスのジョシュア・レッドマン。

ドラムのブライアン・ブレイド。

そして、オルガンのサム・ヤエル。


えっ、オルガン!?

ベースいないの!?

驚きの声が聞こえて来そうです。

えぇ、そうなんですよ。

そういうトリオなんですよ。


それでどんな音楽か、簡単に言えば


――めちゃくちゃポップでカッコいいエレクトリックジャズ


です。

よくわからないって?

それなら一曲ずつ、詳しく見ていきましょう。



1.「Molten Soul」


はい。まず、しょっぱからベース音。

ベースはいませんが、その役割はいます。

サム・ヤエルの左手です。

彼は左手をベーシストにし、右手でエレピ、シンセ、オルガンを自在に操ります。

どうです?かっこいいでしょう?


それにこの作品は多重録音しまくりなので問題ないです。

よく、多重録音はジャズじゃない。

みたいの見ますけど、ありえませんね。

かっこよければ全てジャズです。


曲としては、ファンク。

ロック、ジャズ、ソウル。

どう受け取ることもできます。

ただ、もうここはあるがままを受け入れましょう。


ジョシュアの舞うようなおしゃれなフレーズ。

ブレイドのタイトなドラミング。

ヤエルの変幻自在なバッキング。

全員が超一流奏者です。


そんな彼らがラフでポップな音楽を提供してくれている。

それなら私もそこに没頭するだけです。


聴きどころは終盤の畳みかけるようなヤエルのライン。

えげつない浮遊感です。

宇宙人か?


2.「Jazz Crimes」


このアルバムのキラーチューン。

死ぬほどかっこいい。

バケモンみたいなセンスしてます。


クライム、というタイトル通り、

スパイものの映画みたいな曲調です。

とにかくクールで、ホット。

矛盾しているようですが、現代的なのに熱いんです。

聴けばわかります。


もう体が動いて止まらない。

終盤のドラムのキレ、頭がおかしい。

ブレイドは本当に凄いプレイヤーで、ポップスなんかにも顔を出すんですが、

まぁ忙しそうです。

引っ張りダコです。


レッドマンは主にリーダーをやるんですが、

二年前に見に行ったときは連名のデュオでした。

その相手も凄い人だったんですが、ともかく。


この曲こそはジャズですね。

熱いもの。かっこいいもの。クールなもの。

気取った物だけがジャズじゃない。

それを証明してくれています。


3.「The Long Way Home」


寂しげな、家に帰って休みたくなる曲です。

遠い街まで来ちまったな……みたいな気配もあります。

サックスのレイヤーが本当にキレイに響く。

その中でエレピも。


ただ、寂しさの後には明るいパートもあり、

かえってそれがより寂しさを際立てます。


そして、シンセソロ。

これが本当に宇宙人。

人間が弾いているとは思えない浮遊感。

シンセの特徴を最大限活かして物語る。

ヤエルは本当に変幻自在で、誰もマネできないスタイルを持っています。


レッドマンも、もちろんのブロウ。

彼のサックスの音色も加工されており、面白い試みです。

本当に革新的なサウンド。

他のアルバムではちょっと聴いたことがないレベル。

テクノロジーを突飛な一発芸で終わらせず、芸術に昇華しています。


4.「Oumou」


抽象的な入りからの五拍子。

クールにハマってます。

無理がない変拍子が、ヌルヌル進んでゆく。


ここでも三者が一体になった密な連携が魅力。

本当に三人とは思えない幅の広さと熱量です。


5.「Still Pushin' That Rock」


またも変拍子で進んでいく曲。

七拍子で常に推進力を持っています。

空間にゆとりがあり、そこを縦横無尽に行き来する三人。

だんだんとその隙間が埋められていき、最後には大きなうねりになる。

これがこのアルバムの醍醐味ですね。


三人でこんなものを表現しようとするなんて、ちょっと尋常じゃない。

でも、この三人でなければここまでの一体感は出せない。

恐るべき努力と個性のたまものです。


レッドマンの凄いところはやはり作曲能力。

今の時代、作曲こそジャズプレイヤーの仕事と言っても過言ではないです。

うまいのは当たり前。

そこにいかにプラスアルファをするか。

険しいですねぇ……。


6.「Can A Good Thing Last Forever?」


いい事はずっと続けるか。

深い命題です。

幸せとともに幕を開けたテーマ。

盤石です。

しかしなぜだか寂しく感じてしまう。

今が幸せだからこそ、失う日を恐れる。

だけど、やっぱり今を大事にしよう。

そういう曲です。


アットホームでオープンな雰囲気。

うねうねとオルガンがその隙間を埋め、ドラムはいつにも増して存在感を出す。

そしてサックスはとにかくおおらかに、伸びやかに思いを叫ぶ。

切なく、熱く、どこまでも温かい。

入ってくるシンセ。

それが現代を感じさせます。

しかし、楽器が変わろうが、大事なものは変わりません。

込めるべき魂は不変です。

彼らにはそれがあります。

最高!!


7.「Boogielastic」


Boogie+Elastic。

つまりはこのアルバムの表題曲と言ってもいいのかも。


クロマティックでファンキーなメロディ。

ドラムのリムショット。

シンセとサックスのユニゾン。

からのコール&レスポンス。

これぞ三位一体。

阿修羅もびっくりです。


いやぁ、ニューヨークだなぁ!

怪しげなニューヨーク。

その裏路地。

街灯だけを頼りに暗部を歩く。

そういうイメージです。


危険だけれど、とにかくクール。

病みつきになります。



まとめ


現代ジャズも負けちゃいない。

ということ、わかっていただけたでしょうか。

レベルはもちろん、熱量も、クールさも負けちゃいません。

素晴らしいプレイヤーがたくさんいます。

私達も文豪に負けちゃいられませんよ。


打倒芥川。

打倒川端。

打倒村上春樹ですよ。

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