「Waltz For Debby」 Bill Evans

あの、ですね……。

レビューをするにあたり、それを聴きながら書くんですが……。

まぁ、エモいですね……。

このアルバム入りからエモすぎて、三点リーダーめっちゃ使いたくなる……。

そういうアルバムです。


ピアノトリオ。

要するに、ピアノ、ベース、ドラムです。

バラードばっかです。

泣けます……。


じゃあまず、ビルエヴァンスさんについて話しますね。

彼は、ヤク中です。

……はい。ヤク打ちまくりです。

でも、ピアノが神すぎて誰も何も言えません。

彼のピアノは、正直天才です。

クラシック上がりなんですが、

ストーリーを物語るようにアドリブを弾きます。

作曲するように即興をします。

めちゃくちゃ甘ったるくて、ロマンティックです。


そんな彼の大人気作、初期~中期の傑作がこれ。

「Waltz For Debby」です。

もうジャズファンはすべからく聴いてるでしょうね。

そんなメジャーな作品ですが、全く聴き飽きません。

神です。

いつ聴いても神。


じゃあ早速……と言う前に。

一つだけジャズプレイヤーとドラッグについて。


――ヤク中は、死ぬ直前に輝く。


これが私の気付いたことです。

ドラッグに溺れた奴は、死ぬ間際になぜか爆発します。

爆発的な輝きを放って、爆散して死にます。

なぜかはわかりません。

後悔、なんですかね?



1.「My Foolish Heart」


愚かなり、わが心……。

そんな感じです。

甘ったるいラブソングです。

きれいです。


ああ、なんで惚れちゃうんだろうなぁ、

俺のバカ。

傷つくとわかってるのに……。

それでも恋はやめられねぇぜ……。

みたいな感じです。


あと、聴けばすぐわかるのですが、

このアルバム、後ろで食器がガチガチなったり、

咳したり、喋りまくったりしてます。

それが味です。

当時(1960くらい)はまだまだジャズは高尚でもなんでもなく、

酒飲みながら聴く夜の音楽、程度だったみたいですね。

今みたいに触れづらいのとどっちが良いかと言えば、

まあ、微妙ですが。


2.「Waltz For Debby」


表題曲。

もちろん悪い訳がない。

ワルツ。そう言うからには三拍子です。

テーマまでは。

アドリブ部は四拍子です。

流れるようなリズムの上で、美しく綺麗なメロディが響きます。

踊るように、跳ねるように。

粋な夜の音楽。

そう捉えることもできます。

ですが、ベースを聴いてください。

ベーシストの名はスコットラファロ。

このライブの後、彼はすぐに死んでしまいます。

三十にもならずに。

ですが彼の名は、今も世界に轟いています。

それだけ革命的なプレイヤーだったのです。

ベースをより自由にし、ピアノトリオの可能性を広げた。

その貢献度は計り知れません。


3.「Detour Ahead」


タイトルの意味は、この先、回り道。

中でも、人生の回り道のことらしいです。

確かに、ウェットで影のある曲調になってます。

その裏でおっさん達が高笑いしてんのもエスプリが効いてます。


4.「My Romance」


出ましたね。マイロマンス。

この曲は、ビルエヴァンスの十八番の一つです。

まず、テーマが最高ですね。

メロディアスで、彼にとてもよく合ってます。


彼はこの曲を長年演奏したのですが、

年代によって全くその姿を変えます。

死ぬ直前は、それはもう凄い演奏。

鬼のように弾きまくり、私達の心を震わせる。


ただ、今回はもっと楽しげなマイロマンス。

純粋にロマンティックです。

この曲なんかは、ジャズ入門者向け。

こういう曲でハーモニーの色を理解していけば、

どんどん音楽観を広げていけると思います。


よく、ジャズは難しいとか、

大人になってからでは手が出しにくい、

などなど耳にします。

ですが、そんなもんは嘘です。

人はいつからでも新しい音楽に挑戦できます。

それに、ジャズは難しくないです。

難しいのもありますが、一部です。


重要なのは、慣れること。

ジャズのハーモニーは、ポップスよりもずっと多彩です。

初めはそれに慣れていないから、わからないだけ。

なので、ちょっと聞いてみてわからなかったら、

すぐに別のプレイヤーやアルバムを試しましょう。

いずれ、これだ!!

というのが見つかります。

そうしたら、そこに固執しましょう。

飽きるまで。

で、飽きたら今まで諦めてきたのに帰りましょう。

すると、あら不思議。

聴けるようになっているものなのです。


それは結局、あなたの中に基準ができたということ。

今までの音楽体験とジャズが、繋がったということ。

何も驚くことはありません。


5.「Some Other Time」


おや、なんかどこかで見たことあるな。

あっ、そうだ!私の書いてる恋愛小説のタイトルだ!!


はい、そうです。この曲から取りました。

いい名前ですよね。

いつかまた――。

余韻のある言葉です。


曲としてはジェントルな優しい曲調ですが、

落ちていくようなベースの動きがあり、ふいに引き込まれます。

やっぱり、ラファロは最高やぁ!


6.「Milestones」


マイルスデイビス、知ってる?

トランぺッターです。

多分、ジャズ界で一番有名な人間です。

もう死んでます。

エヴァンスのヤク友でした。


彼とエヴァンスが協力して、

『モードソング』なる概念を作ったのですが、

この曲もその一環です。


極端に少ないコードと、その上を自由に動き回るエヴァンス。

このアルバムの中で最もテンションが高い、熱い曲です。

そしてその根幹を支えるのは、やはりラファロ。

本来動きが無いはずのモードソングに、

ありえない程の熱量をねじ込んでいます。

ベースソロはもう圧巻。

彼以前にこんなソロを取ったベーシストは皆無ですからね。


後は、ここまで無視してきましたが、当然ドラムもすごいですよ。

ドラムの聞き方は、空間を聴くことですね。

空気感を、と言ってもいいです。

ジャズではベースが本当に大きな役割を果たすのですが、

ドラムがエンジンであることまでは変わりません。

熱量を注入します。

そして、楽器と楽器の間を埋めます。

エヴァンスとラファロを最大限活かすため、

自分は裏方に徹した、素晴らしいプレイです。



それではこのアルバムから文学を。


まぁビルエヴァンスは本当にメロディアスなプレイヤーで、

感情を引き出すのがうまい。

彼の閃きは刹那的でありながら、

常にラストへと地続きになっています。


到底マネできるような次元の話ではないですね。

小説で言えば、すごい面白い派手な文体で、

大きなドラマを描くようなもんです。


ただ、トリオとしての在り方は、とても参考になります。

ピアノとベースの綱引きというか、主導権の奪い合い。

本来の役割を逸脱したようなベースが生む、浮遊感。

空間の妙。

多少整合性や流れを無視してでも、それぞれを際立てる。

そういう感覚が、執筆にも必要なのではないか。

なんて感じるこの頃です。


それではこの辺りで。

みんな、ドラッグはダメ、だぞ!!

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